「おでかけティップス」~神戸洋食~
神戸名物を訊かれたら困る、実に困る。
え? 何もおいしいものないの?
いや違う、ありすぎて収拾つかないのだ。
神戸は歴史の浅い町とよくいわれる。
神戸港の前身であり古来の貿易港だった〈大輪田泊〉や〈兵庫津〉を歴史に含めれば、7世紀末の行基にまで行き着くが、一般に神戸という町は幕末の開港から始まったとされることが多い。
そしてそれはあながち間違いでもない。
西洋文明の流入は開港5都市に限定され、なかでも旧都を背にした神戸と新都を背にした横浜に集中したから、この2都市の開港後の変容は言葉にできないほどとなった。
神戸そして横浜はそれまで細々と紡いできた歴史をあっさり塗り替えて、新都市として成長を始めた点で、たかだか150年程度の歴史がないといわれても仕方がないのである。
ところがその時間で神戸の町が受け入れた文化の濃度は、食文化に限ったとしてもとても他市の150年と同列に並べて語れるようなものではない。
西洋人が持ち込んで始めた各国料理、スイーツ、パン、コーヒー、西洋人の胃を満たすために牽かれてきた神戸牛、華僑が始めた中華料理、一時期日本のGDPの10%を占めた神戸経済に不可欠だった料亭などが明治から大正にかけて興り、これに開化前から江戸でもてはやされた灘の酒や、後のくぎ煮、豚まん、ぼっかけ、そば飯、ワインなどを加えれば、もはや神戸グルメは全方位対応、どこからでもかかってこい状態なのである。
神戸名物を訊かれたとき多くの神戸人がモゴモゴするのは、思い当たるものがないのではなく、多すぎてどれを言おうか迷っていると解すべきだ。
今日はその中でも洋食にスポットを当ててみたい。
神戸の洋食には三つの系譜があるといわれている。
一つはオリエンタルホテルの系譜、一つは船舶コックが陸に上がって始めた系譜、あと一つはそのどちらでもない第三の系譜だ。
ここから先は
サポートなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!