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ミラノ回想録

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毎朝ウィーンのパン屋さんで [ヴィーナー•キプフェル(ウィーン風クロワッサン)ひとつ下さい!]と言っていた学生の私が、ミラノというもう一つのヨーロッパの都会から仕事人生をスタート…
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#海外生活

ウィーンの幽霊アパート(2)

トシコさんは、どんな学生生活を送っていたのだろうか? 私たちは同じアパートの隣同士ではあったが、ほとんど会うことはなかったし、廊下ですれ違うことも滅多になかった。 トシコさんの部屋のドアは、19世紀の建物の特徴がそのまま感じられる木製の重厚なドアで、手で内側から開ける「ちいさな覗き窓」の扉も木製だった。 表側の黒光りのする木彫りも含め、アパート内の扉にしてはちょっと怖いほどの威厳があり、教会の扉のようだった。 部屋の中では彼女の練習するピアノの音を聴いたことは一度もなか

知っているイタリア語は音楽用語だけ?

ただ、その程度の事がわかったところで母の不安が消えるわけではなかった。 私のイタリアでの生活の安全が保証されるわけでもなかった。 それに語学の問題もあった(それまで私のいた場所はドイツ語圏である)。私はイタリア語を音楽用語以外知らなかった(これは後になって分かった事だが、音楽用語としてのイタリア語を知っていれば簡単な会話ができるのである)。アンダンテ、モデラート、カンタービレetc..... 気の毒な母は明らかに[ゴッドファーザー]的イタリアが現実と思い込んでいて、[ニュ