éclairの魔法

éclair 、そう éclair brilliant のこと

このレビューのすべてを愛している

愛をしんじて、愛をみつめて、愛はやさしく...

そうゆっくりと歌う一番星
約1分間の魔法のような幕開きからはじまる


紅ゆずるさんのさよなら公演だった。

彼女はいつも私たちに新しい楽しさををくれた人だった。舞台と客席の境界線そのぎりぎりまで来てくれて、そして手を差し伸べてくれるような優しさがあった。ウィットに富みユーモアのセンスが光る人だったけど、その根源にある人間の優しさにいつも私は惹かれていた。

一幕のお芝居''GOD OF STARS 食聖''は、正に紅ゆずるというタカラジェンヌの総まとめのようでもあったし、彼女がいままで種まきし続け育てた花をひとつひとつ集めたような作品だった。これまでも沢山タッグを組んでこられた小柳菜穂子先生の彼女への餞に私はとっても納得したし、感謝した。賑やかで温かなラストは多幸感で溢れていて、客席もふくめ劇場のみんなが笑っていた。これが、何度も感じ触れてきた大好きな星組の圧倒的なアイノカタチだった。

食聖は大好き、だけどやっぱり私の思う紅ゆずるさんの真骨頂はこれではない…と心のどこかで感じていたようにも思う。
二幕が開演し、éclairを観るまでは…


éclair brilliant は、さよならで飾らない。
言い換えれば、さよならでなくたってあまりにも自立していた。どの組のどの時期で公演しようと、きっと大好きになっていただろうと思うくらいに、どの場面も上質でレビューとして立派に完成している。だけど、この作品はさゆみさんが率いた星組が最適だ!と私は確信を持って言えるのだ。当て書きとはまた少し違ったこの似合いっぷりは、感動さえ覚えた…こんな作品で終われる幸せはそうそう無い。

私がずっと彼女に感じていた最大の魅力が、酒井先生の作り出す世界に完全一致していた。求めていた答え合わせを次から次へとしてくれるような歓びがあった。

飛ばす場面なんて、なにひとつない。
本当にすべてに無駄のない構成だった。

プロローグは耳にのこる柔らかなメロディー、スターが次から次へと銀橋をわたり歌い継ぐお決まりのコンタクトは、やはりシンプルかつ最高だ。
ただただ繰り返し éclair brilliantと歌うあーちゃんに、幕開きのさゆみさんに続いて極めつけの魔法をかけてもらった。

さゆみさんがゆっくり手を客席に広げその肩にそっと寄り添うあーちゃん、もう魔法がとけないような気持ちがした。

éclair brilliant、éclair brilliant、éclair brilliant

エクレアで使われている曲は馴染み深いものが多い。クンバチェロやマシュケナダは宝塚で果たして今迄どれほどのスターが大切に歌い継いできたのかと思うくらいだ。宝であり、憧れであり、そして教科書でもあるような楽曲は、やはり技術ではどうにもこうにも埋めきれない人間力が必要だった。

「クンバッ!チェェェロ〜ッ」


このナンバーはなかなか完成するものではない。素敵なクンバチェロはいっぱい見てきた、だけど、さゆみさんのこの一言を聞いて 
''はい、あなたが正解です'' と降参してしまうような、迷いないクンバチェロだった。
古き良き宝塚の血筋が確かに流れていて、胸が熱くなった。マシュマロが火にかけられてドロッと溶けて心が絡まりついたような、もう元には戻れない粘っこさはタカラヅカの伝統だ、平成が終わる最後の年の大劇場にもちゃんと生きていた。
私がさゆみさんを好きな理由の答えあわせがまたひとつできた。


宝塚にあまり詳しくない姉が、
「高級なサラダのCMみたい」と言っていた場面がある。高級な、って言ってくれてるからまあいいか!と流していたが、今になってじわじわと来る。私が受けた衝撃とあまりにも違う方向性の感想に肩透かしを食らうようだけど。


そう、ボレロのこと。

ボレロはさゆみさんのタカラヅカ人生だと…。舞台の端っこが私の定位置でしたと語っていたさゆみさん、その言葉通り皆んなと同じ飾りのない衣装で始まる…そして一歩一歩ふみしめいつしか光の元へとたどりつきその姿に皆が気持ちを向けた。同じ志で戦う仲間、さゆみさんのいない舞台でも立派だ…そして煌めきを纏った一番星が現れる。もう無敵だった。ラスト、ハットの顎紐をシュッと外し投げ放つさゆみさんの美しさこそ、真骨頂なのだ。「私はこれが見たかったんです」生意気にもみんなに花丸をあげたくなった。

ここ数年、宝塚のライヴビューイングは定番になった。大画面でなかなかイケてるアングルで表情も良くわかるし、なにせ千秋楽をリアルタイムで観れる有り難さは何にも変えられない。何度もお世話になっているし、これからも続いてほしい。だけどどんな高画質だとしてもライヴビューイングで唯一どうにもこうにも伝わりきれないのが、黒燕尾。正直毎回思う、黒燕尾だけは、生じゃないと意味がないとまで思う。それと同じことを、ライビュのボレロを見て感じた。それほど劇場に満ちる、神聖な空気はライビュでは味わえない五感を最大に震わせてくれた。


男役にとって黒燕尾は正装だ。
さゆみさんは、男役なら誰もが欲しがる長身で手足も長く頭身バランスも抜群!そりゃなんだって似合うだろう。そう思う方もいるだろうか…
いやいや、燕尾はそんなもんじゃない。
もともと女性である体を纏うように燕尾は出来ていない。それでも年月を重ねて彼女達は燕尾に向けて心身ともに形を変えて行く…美学を研究し尽くした先に纏う男役の黒燕尾姿はあまりに美しくて、燕尾は彼女たちに着てもらうことが遥かな夢なのではないかとさえ思う。

さゆみさんの黒燕尾姿で印象的なのが、台湾公演killer rouge での望春風だ。私は客席で見ていて、この姿をみれただけでも飛行機に乗ってこの地に来てよかったと胸熱くした。本当に美しくて、この姿が私がみてきたさゆみさんの燕尾のなかで一番格好よいと心底思った。人をも救える聖なる美だった。

『love you 』

そう、琴ちゃんが愛のことばを舞台に残し、その余韻をすくい上げ始まった黒燕尾。
私はこの繋ぎが大好きだ。
いよいよ、始まる。


飾りのない有りのままの燕尾。
さゆみさんの夢のひとつであった羽山先生の振り付け、先生が温めつづけた曲はとても優美だった。三味線の音と共に大階段で一人スポットを受けた。後ろ姿にすべてが見えた…さゆみさんがどんな表情をしているのかも分かるようだった。薄紅色の衣装に身を包んだ可憐な娘役さんたちがひらひらと舞う…さばくとまぁるく広がるスカートはグラデーションが光って麗しい桜の花そのもの、儚い夜桜をみつめ一緒に思い出をめぐるようだった。さゆみさんか歩んできた道のすべてに祝福で彩るようで涙があふれた。

そして、始まった、群舞。
彼女の男役への無垢な愛に真正面から応えたような振り付けだった。正統派でありながらもさゆみさんにしか生み出せない燕尾であり、星組の仲間でしか出来ない群舞だった。みんなの燕尾の裾が静かに、そしてゆれるたび心が震えた。

本当に、美しかった。


パッサアのピュアなきらめき

パッサア、ふたりはそう呼ばれてる
誰かがつけた愛称ではなく
パスタが好きなサゆみさんとアーちゃん、ふたりが自ら名付けたかわいいコンビ名。
(ほんまにかわいいふたり)

さゆみさんとあーちゃん、ふたりには変な打算もないすごく純粋なものが流れている。
お披露目から退団公演まで変わらずずっと…
これって、どんなに頑張っても得難いとても貴重なものだとわたしは思う。
初々しいのではなくて、ピュアな輝きなのだ!

これはふたりの力でもあるけれど、その純なものを美しいままに守りぬいてくれたのは琴ちゃんをはじめとする組子の素晴らしき力の賜物だと思う。

組子みんなの熱い力ひとつひとつに対して「頼んだよ!」と、信じきったさゆみさん。
そんなさゆみさんだからこそ、あーちゃんへのほほえみはずっと変わることがなく純粋なものしかなかった。
その愛に包まれるあーちゃんはいつまでもお姫様のように一点の曇りなくキラキラ。このキラキラが何よりものあーちゃんの魅力であり正義であり続けてくれた。宝塚の娘役さんだけが持てる「カワイイ」の頂点だった。


めでたし、めでたし!
これがハッピーエンディング!


最後のデュエットダンスに向かう前
男役のスターに見守られ、あーちゃんはさゆみさんの元へと''ちゃんと''たどり着いた。その瞬間
みんなが笑っていて、みんなが幸せだった。

パッサアはハッピーエンドというゴールにちゃんとたどり着いたんだなと思えた。
おとぎ話の「めでたしめでたし。」が聞こえてくるような、デュエットダンスだった。
ゆっくりしあわせのまま眠りにつけそうな…



星組の組としての温かみ、
これは宝塚の血のようなものだと思う。
もちろん全部の組にも流れているけれど、その血が星組はいちばん透けて見えるような気が私はいつもしている。

宝塚に求めるものは皆それぞれだろう

歌劇団として質の高い歌を聴きたい、心を映した美しい舞をみたい、お芝居のなかに誘ってほしい、男役の美学に酔いたい、娘役との無垢な愛を見つめたい、宝塚の生徒としての純粋な情熱に触れたい、歌劇団が届けるタカラヅカという芸術を愛したい…沢山ある。
ひとつになんて選べない、沢山ある。
十人十色の比率があって、私にもいっぱい好きな理由がある。

エクレアは、私の中でその要素のどれもが満たされるような、繋ぎ合わせるとぐるっと大きな丸になるくらいの至宝のレビューに出会えた感動をくれた。


愛する星組のみんなが届けてくれた宝物
大好きなさゆみさんの最後のギフト


éclair brilliant は、
私にとって最高級のレビューとなりました。


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