RLHリプレイ『黄昏の騎士』前編(3枚目まで)

セッション(1人でもセッションって言うのか?)自体はすでに1周終わってるので、さっそく本題に入りましょう。

以降はダイスロールやプレイヤーの心の叫び部分と

妄想力全開の物語部分。

に分けて進行します。
ですが、物語部分クッッソ長いです。
ルール確認してルルブとシナリオを行ったり来たりのプレイでも1時間くらいで終わってるのに、物語部分書くのに丸々1週間以上かかってます。
しかもまだシナリオの半分!もうすでに2周目の準備してるのに!
ここまできたら、小説1本書いてるんだ!って気持ちで、最後まで丁寧にビッシリ書いてやろうと思います。

プロローグ

 ──終わった⋯⋯何もかも⋯⋯。
 ローズマリーは酸っぱいワインをちびちびと舐めるように飲みながら、絶望的な気分で溜め息をついた。
 ここは聖フランチェスコ市の大通りに面した〈パンと赤ワイン亭〉。風光明媚な水都として名高いこの平和な都市の酒場は昼間から大いに賑わい、店内は人々の陽気な笑い声と陶器の皿がぶつかり合う音が、軽快なリズムを奏でている。そんな喧騒から離れた一番隅っこの、陽の光が遮られてちょっと薄暗いテーブルに陣取り、ローズマリーは本日何度目かの溜め息をつきながら、ここに至るまでの経緯を思い返した。

 ローズマリーは聖フランチェスコ領内の、カモマイルという村の平凡な村娘だった。少しだけ同世代の女の子と違ったのは、父親が元冒険者の魔術師であったこと、その血を受け継いで魔術が使えたこと、そして、結婚することや家庭を持つことに幸せを見出せず、平穏を嫌って冒険を求めていることだった。
 父はローズマリーが幼いころには、よく寝物語に自分が体験してきた冒険の数々を話してくれたものだが、ローズマリーが外の世界に強い憧れを持っていることに気が付くと、昔の話をまったくしてくれなくなった。
 しかし、そんなことで若い冒険心が治まるはずもなく、ローズマリーは1人で魔術を練習し、村や隣町でお小遣い稼ぎをして旅の資金をコツコツ貯めていた。
 「冒険で最も大切なのは準備すること」。それも父から学んだことだった。
 だが、平和な田舎の常識では、女性は早く結婚して平穏な家庭を築き、早く農作業の人手になるのが当然という価値観を押し付けられる。16歳を迎えたローズマリーも例外ではなく、近所の仲人おばさんが隣町の青年との縁談を持ってきた。村の狭いコミュニティの中では、両親には断ることはできない。それでなくても、父親は元々は余所者で立場が弱いのだ。このままでは結婚を免れることはできない。
 ローズマリーは二度と帰らない覚悟を決め、その日の夜のうちに村を旅立った。

 馬車なら1日の距離を3日かけて歩き、ローズマリーは聖フランチェスコ市に辿り着いた。彼女にとって、生まれて初めての大都会だ。
 道中は狼や野盗を蹴散らすのに必死でそれどころではなかったが、船頭の舟歌を聴きながら運河を滑るゴンドラに揺られていると、広い世界に一歩を踏み出したんだという感動が、じわじわと胸の底から湧き上がってくる。
 親切な船頭の道案内のおかげで、迷うことなく目的地である「オレニアックス剣術学校」の門前に立つことができたローズマリーは、意気揚々と門番に入学の意志を伝えた。
 が、門番が突き付けたのは無慈悲な現実だった。
「入学金が⋯⋯金貨50枚〜〜〜!!?」
「優秀な生徒は貴族や王族に出仕することもできるからね。財力とか身分とか、それくらいは示してもらわないとねぇ、お嬢ちゃん」
 世間知らずのお上りさんじゃ、しょうがないなぁ。といった調子で門番に笑われ、ローズマリーはカチンときた。
「あんたねぇ⋯⋯私は生まれてから喋るより先に魔術を覚えた、天才魔術師なのよ!笑うならこれを見てからにしなさい!」
 ──余談だが、このことの真実性については賛否あって、牛小屋で小火が起こったときに、その場にいたのが四つん這いで歩けるようになったばかりの彼女だけだったので、そうじゃないかと言われているに過ぎない。──
 何にせよ、ローズマリーはそう啖呵を切ると、手のひらに魔力を集中させ、天に向かって一気に放った。
 魔力は炎に変換されて天を焼き、熱風が周囲に吹きつける。彼女がもっとも得意とする【炎球】の魔術だ。急に街のド真ん中で上がった火柱に驚いて、住民や観光客がみな足を止めてこちらに目を向けた。
 ローズマリーは野次馬の反応にドヤ顔で腰に手を当て胸を逸らしたが、門番はヒューと口笛を吹いて呑気に手を叩いた。
「へぇ〜、やるねぇ!辺境の村なら天才なんじゃない?でも、ま、うちの生徒に比べたら中の下くらいかな」
 ブチッ。と、ローズマリーは自分の頭の中で何かが切れるのを聞いた。
「〝堕ちろ〟」
 気付いた時には、門番はローズマリーの足元で気を失ったように眠っていた。
 彼女のもう1つの得意技、【気絶】の魔術の効果だ。
「やっ⋯⋯やっちゃった〜〜!!」
 慌てて揺さぶるが、魔術に対する抵抗力がまったく無かったらしい門番は、深い眠りに落ちてピクリともしない。
 そうこうするうちに、周囲に集まる人が増え、学舎のある門の中の方までざわつき始めた。
「えーっと⋯⋯えーっと⋯⋯こういう時は⋯⋯」
 パニック状態で真っ白になった脳裏に、天啓のように父の言葉が蘇る。
(いいかい?ロゼ⋯⋯どうしようもない、都合が悪いことが起こったらね⋯⋯逃げるが勝ちだよ!!)
 即座に逃走を決めたローズマリーは、小柄な体格を最大限に活かして人混みに紛れ込むと、衛兵が駆けつける前に見事その場から逃げおおせたのだった──。

「⋯⋯ってゆーか、謝りもしないで逃げちゃダメだったんじゃない!?めちゃくちゃ心象悪いじゃないのよー!!」
 ローズマリーは自らの大失態を思い返し、頭を抱えてテーブルに突っ伏すが、やってしまったことはどうしようもない。こうなったら、せめて入学金くらいはきっちり納めて頭を下げるしかないだろう。
 しかし、彼女が村で10年かけてようやく貯めたのが、金貨10枚である。残り40枚をどうやって稼いだものか⋯⋯。
「どこかで住み込みの仕事でも探そうかなぁ⋯⋯」
 ローズマリーが塩をかけたナメクジみたいにしおしおに萎れていると、店の入口の方がにわかに騒がしくなった。
 まさか衛兵がここまで追い掛けてきたかと、怖々振り返って様子を見るが、別に彼女を探しているわけではないと分かり、とりあえずほっとする。
 立派な印章の入った羊皮紙を掲げ、小難しい言葉を朗々と並べているのは公示人のようだ。名誉がどうとか大義がどうとか大仰な言い回しで、結局なにを求めているのかは良く分からなかったが、地下迷宮内で見つけた財宝はすべて見つけた者の自由とする。という言葉だけは理解できた。
「もしかして、一攫千金のチャンスじゃない!?」
 冒険者を育てる学校に入るための資金を冒険で稼ぐというのは本末転倒な気もするが、上手く立ち回れば、1年かけても稼ぎ出せないような大金が一瞬で手に入るだろう。というか、ただ単に行きたい⋯⋯!地下迷宮⋯⋯!
「でも、困ったな⋯⋯。あの人の言ってること、ちんぷんかんぷんだし、羊皮紙にもなんて書いてあるのか分かんない⋯⋯」
 ちょっと魔術が使える以外は平凡な村娘でしかないローズマリーは、お世辞にも学があるとは言えなかった。上流階級のむやみに虚飾された言い回しには聞き馴染みがないし、文字も読めない。
「ハイ⋯⋯オロー⋯⋯?って、なに?人の名前?タソカレ⋯⋯って、どういう意味?どうしよう⋯⋯どこに行って何をしたらいいのよ〜!」
 公示人の声に一生懸命に耳を傾けるも、意味が分からない音が右耳から左耳に抜けていくばかりである。
 このままチャンスを逃すよりは、バカにされても子供にも分かるように簡単に説明してもらうしかない⋯⋯!
 そう思ったローズマリーが席を立とうとしたその時、
「⋯⋯ハイホロウは村の名前だ。ここから南に向かった先にある」
 突然、テーブルの向かいから声を掛けられ、ローズマリーはハッとして体の向きを戻した。
 ついさっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にか1人の青年が相席していた。黒い髪に青い目が印象的な整った顔立ちで、なんだかこんなところにいるのが場違いなような、不思議な雰囲気を漂わせている。
「な、なに?あんた。誰もそこに座っていいなんて言った覚えないけど?」
 ローズマリーは内心、急に湧いて出たように現れた青年にびっくりしつつ、それを悟られまいとわざと突っけんどんに言った。しかし、青年は意に介した様子もなく、平坦な声で言葉を続ける。
「その村の近くにある地下迷宮から、凶悪な怪物が出没しているんだそうだ。村人が何人も犠牲になり、さらには『黄昏の騎士』とやらに周辺地域ごと支配されそうになっているらしい。それを討伐する冒険者を募っている。『黄昏』とは日暮れという意味だが、その騎士が何故そう自称しているのかは分からないな」
「へっ⋯⋯へぇ〜!タソガレの意味は初めて知ったわ!タソガレの意味は!」
 実際は、彼から聞かされて初めて依頼の内容を理解できたのだが、さすがにそれを言うのはなけなしのプライドが許さず、ローズマリーは目を泳がせながら黄昏をやたらと強調して言った。
 対照的に、青年は淡々とした様子を崩さず、こんな提案をしてきた。
「君、行きたいんだろう?地下迷宮に。連れて行ってやってもいい」
「えっ⋯⋯!?」
 突然の降って沸いたような申し出に、ローズマリーは驚き戸惑って二の句が告げなくなる。それを否定的な反応と捉えたのか、青年は顎に手を当て少し考えてから、さらに言葉を続けた。
「別に物見遊山で行くわけじゃない。俺も地下迷宮の財宝に興味があるんだが、1人では背中が心許なくてな。後衛を頼めるランタン持ちを探していた」
「えーっと⋯⋯それってつまり⋯⋯?」
「パーティを組もう。と、誘っている」
 ついさっきまでのドン底からの願ってもない勧誘に、ローズマリーは心臓がドキドキと高鳴っていくのを感じた。
「で、でも!ちょっと待って!私、お宝がほしいだけで、見ず知らずの人たちのために、命まで賭ける気なんてないんだけど!?」
「俺だって別に、義憤に駆られて行くわけじゃない。財宝を見つけたら適当なところで引き返して、『実力不足だった』とでも言って逃げ帰るつもりだ」
「あなた、教会にある神様の彫刻みたいな顔して、ずいぶんと割り切ったこと言うのね⋯⋯」
 だが、「正義のために戦おう!」などと息巻いた人間などよりは、よほど信用できるかもしれない。と、ローズマリーは思った。
「それじゃ、見つけた財宝の取り分は?私、こう見えてもけっこう強いんだから!それなりに貰ってもいいと思うんだけど?」
 いつの間にか話の方向がパーティを組む前提になっているローズマリーに、青年は初めて片方の口の端をほんの少し上げて笑った。
「俺たちは雇用関係じゃない。それぞれの目的のために手を組んだ対等な立場だ。財宝の取り分は半分ずつだ」
「いいわ、半分ずつね。その言葉、忘れないでよ?」
「ああ。⋯⋯じゃあ、これで交渉成立だな」
「うん!これからよろしくね!私、ローズマリーよ。ロゼって呼んで」
 そう言ってローズマリーがワインの入ったグラスを軽く持ち上げると、青年はカウンターに行ってエールをもらい、席に戻ってきて彼女と同じようにジョッキを軽く持ち上げた。
「フェンだ」
 カチン、と涼やかにグラスを打ち鳴らし、2人はこの先の旅路に祝杯を捧げた。

はい、というわけで、長ったらしいプロローグになりましたが、ロゼとフェンの2人で冒険に出発してもらおうと思います。
ステータスと初期装備については前の記事で出してるので、ここでは追加の買い物をしていきましょう。
⋯⋯と言っても、金貨10枚で買えるものなんてほとんど無いので、各自ロープを1つずつの購入だけにしておきます。
ダンジョンの敵はワイロで買収できることもあるので、お金を残しておけば無駄な争いを避けられるかもしれないし。
それにしてもロープが金貨3枚って高くない?この世界の物価ってどうなってんだろ。

そんな世界の物価指数に思いを馳せつつ進めていきましょう。
このシナリオには町から町への移動パートとか、町の中での情報収集パートとかはありません。
いきなりダンジョンに着いたところからスタートです。
このゲームでは、d66(6面ダイスを2回振って1回目を十の位、2回目を一の位にする)の各出目にイベントが設定されています。ダンジョンを進む途中で起こる出来事を、ダイスでランダムに決めていくような感じです。それを「マップタイルをめくる」と表現するので、各シーンを「〇枚目」と数えています。

1枚目 11〈空き部屋〉

では、11の目で何が起こるのか読んでいきましょう。

ここは一見すると何もない空き部屋のようですが、〈器用ロール〉に成功するとアイテムを手に入れることができるみたいです。
「えっ?でも副能力値で器用点取ってないんだけど!?」って思いますよね?私も思いました。
これ、器用点のない主人公は自動失敗なのかと思ってルルブをちゃんと読み直したら、副能力値で取ってないロールが出たら、全部、技能点で振っていいらしいです。
つまり、技能点ってコストもリスクもなく、ほぼ全ての判定ロールにプラスできるってことですね。そりゃ経験点4で1しか上げられないわ。そう考えると、最初の段階で経験点8使ってMAXまで上げるのもアリですね。
今回は2人とも技能点:1なので、1d6+1で判定します。

〈判定ロール〉(目標値:4)
ロゼ:2+1→3 ‪✕‬
フェン:6+1→7 〇

フェンが6でクリティカルを出しましたが、特典は何もありませんでした。ですが、その分ファンブルにもデメリットが設定されてないので、ここはそれで良しとしましょう。

 ローズマリーとフェンは、地下迷宮へと降り立った。かつてこの辺りを支配していた魔術師・セグラスが造ったらしく、それなりに年月が経過している建造物のはずだったが、頑丈な石を積み上げた通路は思ったよりも広く荒れていない。突然崩れて、生き埋めにされるような心配は無さそうだ。
 しかし、その堅牢さゆえ外の光が入る隙間もなく、少し先に進んだだけで周囲はあっという間に闇に包まれる。ローズマリーが掲げるランタンの灯りだけが頼りだ。
「私のランタン、明るいでしょ?魔術師の炎はね、強くて簡単には消えないのよ」
 ふふん、とローズマリーは得意気に鼻を鳴らす。確かに、ガラスの中に揺らめく炎球は普通のロウソクの炎よりずっと勢いが強く、5・6mほど先まで見通せそうだった。
「そうだな。視野が広いと剣が振りやすい」
 相変わらずフェンの声は抑揚に乏しいが、これは一応褒めている反応なのだろう。
「そうでしょ?そうでしょ?私がランタン持ちで良かったでしょ?」
「だが、同時に敵に見つかる確率も上がる」
「ちょっと!水差すようなこと言わないでよ!」
 そう言いつつ、ローズマリーはちょっとだけ火力を下げた。いきなり怪物にエンカウントするのは避けたい。
 何の仕掛けもない通路を進むと、少し開けた空間に出た。部屋というか、通路と通路の繋ぎ目のような場所だ。
「なぁんだ、何にもない」
「こんな入ってすぐのところに財宝を置くわけがないだろう」
 つまらなそうに唇を尖らせるローズマリーに、フェンは呆れたような溜め息まじりに言った。
「それはそうだけどさぁ⋯⋯」
 ぶつくさ言いながら、ローズマリーは部屋の中をぐるりと回って眺める。とくに変わったところは見受けられない。ごろごろと石コロが転がっているだけだ。何気なくその1つを蹴っ飛ばすと、フェンが何かに気付いたように首を傾げ、それを拾った。
「⋯⋯石ではないな、これは」
「えっ?ウソ!もしかして宝石?」
 ローズマリーがフェンのもとに駆け寄ると、彼は拾ったそれの表面を手袋でゴリゴリ擦ってから、こちらに見せた。
「チーズだ。すっかり乾いて固まっているが」
「⋯⋯えぇ〜〜?何それ〜〜〜⋯⋯」
 ローズマリーは肩透かしを食らって、がっくりと項垂れた。
 まだまだ財宝までの道のりは遠そうだ。

★GET『カチカチになったチーズ』
お宝ではありませんが、特定のクリーチャーに対して【ワイロ】として使えます。1つで3点分。

主人公的にはガッカリだと思いますが、プレイヤー的には、ダンジョンの出だしとしてはすごく良い出目だったな〜と思います。
というか、全体的に出目に恵まれてたんですよね。
おかげで妄想が捗ります。

2枚目 43〈トラップ〉

次は罠が仕掛けられた部屋です。
43番は『矢狭間』。壁に刻まれた彫刻の開口部から、何者かが矢を放ってきます。
自動の仕掛けじゃなくて「何者か」が放ってくるんですね⋯⋯。ちゃんと読んでなかった⋯⋯。
たぶん、次の次で出てくるアイツらだな、こういう卑怯な手を使うのは。

〈判定ロール〉(目標値:3/対象:1d2→2人)
ロゼ:6+1→7 〇
フェン:5+1→ 6 〇

君たち、出目高いね??
主人公ぜったい死なせたくないマンだから、いいんだけどね?

 空き部屋に繋がる通路を進むと、また少し広い空間に出た。両脇の壁面には不気味な怪物の彫像がずらりと刻まれていて、虚ろな眼差しを投げかけてくる。まるで、招かれざる客を値踏みしているかのようだ。
「なんか気持ち悪い石像⋯⋯。口の中にお宝とか隠してないかな?」
 ローズマリーはわざとらしく両肩をすくめつつ、つま先立ちで怪物の口の中をひとつずつ覗き込んだ。
「余計なことをするな。何がきっかけで罠が作動するか⋯⋯」
 中途半端なところでフェンの言葉が途切れたことを訝しんで、ローズマリーが振り返ろうとするのと同時に、急に後ろから左手を払われた。持っていたランタンが手を離れて弧を描き、少し先の方にガシャンと音を立てて落下する。
「んなっ⋯⋯!?」
 ローズマリーが文句を言う間もなく、体を後ろに引かれてしゃがみ込まされる。その直後、光源を追い掛けるようにして矢が2本、続けざまに突き刺さった。
 一瞬の間に何が起こったのか理解できず、呆然とするローズマリーを庇うようにフェンは剣を抜き払うと、彫像のひとつに向かって声を張り上げた。
「何者だ!!」
 奇襲を仕掛けてきた相手は、あっさりと気取られて躱されたことに動揺したのか、ガシャガシャと何かを取り落とすような音を立てながら、そこから逃げ出したようだった。
 フェンはしばし動きを止めて敵の足音の方向を確かめると、剣を鞘に戻してランタンを拾い上げた。
 ローズマリーはここに至って、やっと奇襲を受けてフェンに助けられたのだと理解した。目の前の地面に深々と突き刺さった矢を見つめているうちに、少しずつ心臓が冷えていくのを感じる。ああ、ここでは本当に簡単に人が死ぬんだ。と、どこか他人事のような考えが頭を過ぎった。
 頭上に灯りが差して顔を上げると、フェンがランタンを持って立っていた。その表情は、こんな状況でも変わらない。
「あ⋯⋯あのっ⋯⋯」
 こんな時、助けてくれたことの礼を言うべきなのだろうか、足を引っ張ったことを謝るべきなのだろうか。それとも、もっと他に言うべきことがあるのだろうか。考えがまとまらないまま口を開いても、意味を成さない吐息にしかならない。
 それでも、何か言わなければとローズマリーが口を開くと、それを遮るようにフェンはランタンを差し出した。
「叩き落としても消えなかった。さすがは魔術師の炎だな」
「⋯⋯え」
「立て。追うぞ。ここで片をつける」
 フェンはローズマリーの手を引っ張り立ち上がらせると、ランタンを押し付けるように持たせ、剣を抜いて先に立った。
 ローズマリーはランタンの中を覗き込んだ。魔術師の魔力を燃料にしている炎は、彼女の魔力が尽きない限り燃え続ける。
「⋯⋯待ちなさいよ!私が先に行かないと、あなた何も見えないでしょ!?」
 ここでは何もできなかった。けれども、魔術師であるローズマリーが何かを成さなければいけない瞬間というのは、きっと来る。
「これは借りよ!この後、ぜったいチャラにするんだから!」
「⋯⋯君は時々、良く分からないことを言うな」

別に普通のランタン持ちの火も、落としても消えないんですけどね。というか、その辺の演出はプレイヤーの裁量次第といったところでしょうか。このダイスの出目に合わせてアドリブでストーリーを作っていくのが良いんですよね、TRPGって。

3枚目 64〈強いクリーチャー〉

60番代は強いクリーチャーゾーンです。最初は50番代の弱いクリーチャーゾーンが良かったなぁ!
ですが、出目はゼッターイなので!
ここに出現するのは『ホブゴブリンの警備隊長』です。
警備を任されているということは、黄昏の騎士の直属の部下ですね?敵です!
反応表をチラッと見ても6分の5で「敵対的」です。振るまでもありませんね!殴りましょう!
そもそも2人は奇襲を仕掛けてきた賊を追って来てるので、そこで遭遇したヤツはみんな敵だと思ってもしょうがない!
警備隊長は隊員のゴブリンを連れているので、まずはザコの人数を1d6+3で決めます。

『ゴブリン』3+3→6体

けっこう多いな!
しかもホブゴブリンは統率力に長けているので、隊長が生きている限り、ゴブリンはレベルが+1、攻撃回数が残敵数+1に増え、さらに隊長を攻撃対象には選べず、逃走しません。
その代わり、隊員が残っている限り、隊長は後ろでふんぞり返って攻撃には加わりません。
何が大変かって、普通はゴブリンの数を半分にするだけで敵が逃走して勝利判定になるんですが、この敵の場合はゴブリンを殲滅し尚且つホブゴブリンの生命点を半分以下にしないと、逃走してくれないってことなんですよね。
初戦から難易度高いよ!がんばれ主人公たち!

『ホブゴブリンの警備隊長』
レベル4/生命点:4/攻撃回数:1/宝物:通常

『ゴブリン』‪×6
レベル3(隊長補正+1)/攻撃回数:残敵数(隊長補正+1)

敵は遠距離武器を持っていないので、魔術を使えるローズマリーが先制できるんですが、とんでもない凡ミスが発覚しまして⋯⋯。
なんと、ここで魔術点を減らすのを忘れていました!
つまり、以降の判定がすべてズレることになるので、第0ラウンドは無かったことにします。
大丈夫です。ここで彼女はファンブって失敗してるので、戦況に影響はありません。
では、気を取り直して、第1ラウンドから行きましょう!

●第1ラウンド・主人公●
ローズマリー:対象→ゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉3 ✕‬

フェン:対象→ゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉2+1→3 ✕‬

ローズマリーは軽い武器で-1ですが、技術点で+1になるので±0の補正。
フェンは技術点で+1の補正です。
急に出目が腐りましたね⋯⋯不安になってきました。

●第1ラウンド・敵●
ゴブリン×7:対象→ローズマリー/3回
         フェン/4回

ローズマリー:1d6+1(目標値:4)
〈防御ロール〉①5+1→6 〇
       ②6→クリティカル ◎
       ③4+1→5 〇
【生命点】:7

フェン:1d6+2(目標値:4)
〈防御ロール〉①4+2→6 〇
       ②1→ファンブル‪✕‬
       ③2+2→4 〇
       ④1→ファンブル‪✕‬
【生命点】:12→10

ローズマリーは技術点の補正で+1。
フェンは技術点と板金鎧の補正で+2になってます。
出目が荒ぶってますが、食らったのが体力オバケのフェンだけなので問題ないですね!

 奇襲を仕掛けてきた賊の足跡を辿り、ローズマリーとフェンは迷宮の奥へと進む。
 だが、2人は敵の策にまんまと嵌められたようだ。
 誘い込まれた一室には、ホブゴブリンが率いるゴブリンの一団が待ち構えていた。
「奴ら、人間のようだったが⋯⋯。ゴブリンに飼われて手先になっていたか」
「ひぇっ⋯⋯!なんかいっぱいいる!?」
「敵だ。構えろ」
「えっ⋯⋯ちょ⋯⋯えええええぇ!?」
 慌てるローズマリーを他所に、フェンは言うが早いか駆け出していた。
 しかし、このホブゴブリンはきっと、何人もの冒険者と渡り歩いて来たのだろう。一匹では大した力のないゴブリンを上手く統率し、数匹で当たらせフェンの剣戟をいなしてしまった。
 戦う前から動揺しているローズマリーのダガーナイフなど、かすりもしない。
 ホブゴブリンは、2人を大した驚異ではないと判断したのだろう。グギャグギャと小馬鹿にしたような笑い声を上げると、『悪の種族』の言葉でゴブリンたちに何事か檄を飛ばした。
「ぃや⋯⋯っ」
 攻勢に転じたゴブリンたちの勢いに怖気づき、ローズマリーは数歩、後退る。
 その様子に完全に調子づいたのだろう。ゴブリンたちは棍棒を振り上げ、乱杙歯をむき出した口を嘲笑の形にして殺到する。
 だが、その間にフェンが割り込み、立ち塞がった。
 何回か受け損なったものの、ほとんどの打撃を盾で受け流し、すぐに剣を構え直す。
 フェンの隙のない佇まいに、ローズマリーを標的にしていたゴブリンたちは襲撃を諦め、間合いを探るように立ち止まった。
「フェン!左腕は!?大丈夫!?」
 ローズマリーは思わず叫んだ。フェンは何事も無かったかのようにしているが、彼女から見てもかなり強かに、左腕を打たれているはずだった。
「⋯⋯剣士の役割は、前線に立って敵の攻撃を退けることだ」
 ローズマリーの言葉には答えず、フェンは言った。
「君は君の役割を果たせ」
 役割──。フェンの言葉は端的だが、ローズマリーの胸にすとん、と落ちた気がした。
(そうよ⋯⋯私の役割は先に立って剣を振り回すことじゃない。魔術師の役割は──)

●第2ラウンド・主人公●
最初のラウンドはグダグダでしたが、ここからすごい勢いで巻き返します。

ローズマリー:対象→ゴブリン(目標値:4)
魔術【気絶】⋯対象のレベルを2点上回るごとに追加で1体を眠らせる。
〈魔術ロール〉4+6→10 〇
目標値4+6点上回ったので、ゴブリン4体を眠らせた。
【魔力点】6→5

フェン:対象→ゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉4+1→5 〇
ゴブリン1体を倒した。

残敵数:ホブゴブリン×1/ゴブリン×1

ここでローズマリーの本領発揮。この手のゲームでザコの殲滅力は本当に重要!

●第2ラウンド・敵●
ゴブリン×2:対象→ローズマリー/1回
         フェン/1回

ローズマリー:1d6+1(目標値:4)
〈防御ロール〉3+1→4 〇
生命点:7

フェン:1d6+2(目標値:4)
〈防御ロール〉2+2→4 〇
生命点:10

 ローズマリーは呼吸を整えて目を閉じ、ぎゅっと両手を握り締めた。気持ちと一緒に揺らいでいた魔力が身体を巡り、指先に集まってくる。
「〝堕ちろ〟」
 目を開くと同時に詠唱し、ありったけの魔力を放った。ローズマリーの魔力に触れたゴブリンは次々と昏倒し、あっという間に4体を戦闘不能にした。
 完全に舐めきっていた相手からの反撃に、敵は完全に足並みを崩したようだ。
 ローズマリーが魔術を放つのと同時に駆け出していたフェンの一撃は、ゴブリン1体を難なく切り捨てた。
 残された最後のゴブリンは恐怖に駆られた表情を浮かべているが、後ろからホブゴブリンに睨まれていては逃げ出すこともできない。
 半ばヤケクソに棍棒を振り回すが、狙いの定まっていない攻撃であれば、2人とも簡単に避けることができた。

●第3ラウンド・主人公●
謎のミラクルが起きます。

ローズマリー:対象→ゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉6 ◎
       +追撃:6 ◎
       +追撃:1 ファンブル ✕‬
ゴブリン1体を倒し、さらにホブゴブリンの生命点に1点のダメージを与えた。

フェン:対象→ホブゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉1 ファンブル ‪✕‬

残敵数:ゴブリン×0/ホブゴブリン×1
ホブゴブリン【生命点】4→3

なんでロゼの攻撃が通ってフェンが失敗する??
そういうストーリーに反映させにくい出目やめてマジで???

●第3ラウンド・敵●
ホブゴブリン:対象→フェン(目標値:4)
〈防御ロール〉3+2→5 〇

 それは運命の悪戯か、はたまた強運の為せる業か。
「てぇーーい!!」
 魔術の成功ですっかりテンションの上がったローズマリーは、牽制のつもりでダガーを振り抜いた。
 しかし、それは意図せず敵の首筋にクリーンヒット。頸動脈を切り裂かれたゴブリンは、鮮血を噴き出しながらジタバタともがき苦しむ。そして偶然にも、ヨロヨロと向かった先にはホブゴブリンがいて、偶然にも、振り回した棍棒は自分のボスの側頭部を思いっきりブン殴った。
 そのままゴブリンは倒れ込んで絶命し、ホブゴブリンは頭から血を流しながら横によろめいた。
「⋯⋯っはぁ!?」
 この予想の斜め上を行く奇跡のような展開には、さすがにフェンもついて行けない。ホブゴブリンに狙いを定めていた剣先は、思いっきり空振ってしまった。

●第4ラウンド・主人公●
ローズマリー:対象→ホブゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉2 ‪✕‬

フェン:対象→ホブゴブリン(目標値:4)
〈攻撃ロール〉6 ◎
       +追撃:5+1→6 〇
ホブゴブリンに2点のダメージを与えた。
ホブゴブリン【生命点】3→1
【生命点】が半分を下回ったため、敵は逃走した。

主人公の勝利です!
やりましたね、フェンくん。最後にイケメンの面目躍如を見せてくれました。
さらに【気絶】で昏倒させた敵は、ロープで縛り上げることで捕虜として連れて行くことができます。
この『黄昏の騎士』には特別ルールがありまして、以前のルールでは主人公2人の場合は従者を連れて行けないんですが(今は変更があって連れて行けます)、捕虜1体に限り従者点がなくても連れて行くことができます。
これを狙ってロープを買っておいたんですが、上手くいって良かったです。

そして〈宝物ロール〉ですね。
何が出るかはシナリオの宝物表から1d6で決めます。

〈宝物ロール〉3『2d6の金貨(最低5枚)』
2d6の結果は⋯⋯4。最低枚数が保証されているので、最低の5枚でした。
金貨50枚の道程は遠いね⋯⋯。

 思いもしなかった味方からの一撃を頭に食らい、ホブゴブリンは目を回しているようだ。こちらの姿が捉えられないからか、近付かせまいとして棍棒を滅茶苦茶に振り回している。
 ローズマリーは猛攻に気圧されて後ろに下がるしかなかったが、フェンは威力だけの大振りな攻撃など、完全に見切っているようだ。
 素早く懐に入り込むと、まずは武器を持つ腕を斬る。棍棒を取り落とし、唸り声を上げて腕を振り上げてガラ空きになったホブゴブリンの脇腹に、フェンは返す刃で深く斬り込んだ。
「ヴォオオオオオオオォ!!」
 ホブゴブリンが最後の悪足掻きに振り回した腕を、フェンは軽く躱す。
 だが、距離ができたその隙に、ホブゴブリンは迷宮の奥に逃げてしまった。
「⋯⋯か⋯⋯勝った⋯⋯?」
 肩で息をしながら、ローズマリーは確かめるように呟いた。
 周りには昏倒し、絶命したゴブリンが転がり、そのボスは這う這うの体で逃げ去った。フェンは呑気に適当な敵の残骸で剣の返り血を拭い、切れ味が鈍っていないか確認している。これは疑いようのない勝利だろう。
「勝った!勝ったよ!すごい、フェン!こんなたくさんのゴブリンに囲まれてたのに!」
「ああ、そうだな」
 フェンはここでも平常運転で、その辺をゴソゴソやったり何かしていたが、やがて気が済んだのか戻ってきた。
「預かってろ」
「うん?これは?」
「こいつらでは大した財宝は持っていなかった」
「金貨5枚⋯⋯かぁ⋯⋯」
 フェンに渡された革袋の中に入っていたのは、それだけだった。初めて手に入れたダンジョンのお宝ではあるが、ローズマリーの期待が大きかっただけに落胆せざるを得ない。
「それと、これを」
「いや、これって⋯⋯縛り上げたゴブリン?」
「捕虜だ。連れて行く」
「はぁ⋯⋯」
 相変わらずフェンは言葉が足りないが、無駄なことはしないとここまでの付き合いで何となく分かってきたので、ローズマリーは従っておくことにした。
「それから⋯⋯」
「えっと、まだ何かあるの?」
 フェンは左手を確かめるように、何度か開いて閉じてを繰り返した。
「折れてはいないが、痛い」
「あー!!そうだった!!あんた平気そうにしてるから忘れてた!休んで休んで!」
 ローズマリーは慌てて比較的きれいっぽい隅っこを片付けると、フェンをそこに座らせた。
「ああ、それから⋯⋯」
「まだ何かあんの!?手当が先よ!大事なことじゃないなら後にしなさいよ!」
「君、強いな」
 フェンの言葉に、ローズマリーはハッとしてその顔に目を向ける。しかし、彼は丸盾と篭手を外すのに集中していて、さっき言ったのは聞き間違いかと思うくらい、こっちを全く見ていなかった。
「⋯⋯これで貸し借りナシなんだからね」
 一応はこれで、戦力として認められたと言うことだろう。
 自分の魔術がちゃんと戦いに通用することを実感して、ローズマリーは下を向いて密かに頬を緩ませた。

今回はここまで!
本当は中間イベントまで繋げる予定でしたが、もう3日くらいかかりそうだったので、いったん切ります。
前後編で終わると思ったけど、たぶん三部作になりそうかな。7枚目もちょっと長そうなので。
では、次回も物語部分クソ長リプレイになると思いますが、よろしくお願いします。

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