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犬に集う人々〜プラハにて

プラハへの数日の旅行中のこと。
今回も様々な国の人と話す機会があった。

話すきっかけはやはり愛犬である。


▪️ホテルにて
ホテルのレストランのテーブルにつくと、大抵ほぼ全員から見つめられている。

食事中に歩き回らないように、バギーに乗せている事もあり、まず、
『おや、バギーに犬が』と少し驚く人も多い。
バギーだと、座っている人と高さが近いこともあり、皆犬と目線が合うためににっこりされる。

犬が嫌いな人には申し訳ないと思いつつ、ここは犬連れOKのホテルであり、レストランも問題なく連れて入れる。
迷惑をかけないように気をつけながら席に着く。


庭園が眺められるテラス側のテーブルを選ぶ。

ここは森に囲まれ、横には川が流れ、広い庭園を持つシャトーホテル。
城の外観や内部はさほど変えず、しかし内部はエレベーターもあり、使いやすく改築されている為、宿泊しやすいホテルだ。

森に囲まれたかつての庭園の一部には、ゴルフ練習場が造られ、この日も宿泊客が楽しんでいる様子であった。


犬連れでも宿泊できるホテルは、案外好待遇を受けられる。
他の宿泊客に迷惑にならないように、他の客室から少し離れた、しかも一番大きい部屋。
行ってみると、今回もスイートへとグレードアップされていた。

Golf Club Chateau St. Havel
かつての城の姿


庭園が眺められるテラス側のテーブルを選ぶ。

奥の庭園
レストランを望む


愛犬は吠えもせずバギーの中で時々おやつを食べて良い子にしている。
隣の席は中年の夫婦が座っている。奥さんがずっと犬を見つめているのに気づいた。
ご主人が席を立った折に、私にドイツ語で話しかけてこられた。

『マルチーズ? それともボロンカ?」
ボロンカはロシアの犬種で、白い毛の愛らしい小型犬だ。
ドイツでもこの2種類は人気があり、雰囲気が似ているので、よくこの質問を受ける。

「マルチーズです。5歳になります。」

「そう。私たちも以前マルチーズを飼っていたの。
でも10年前に大型犬に噛みつかれて、8歳で死んでしまって。」

「それは可哀想でしたね(T ^ T)」

「今は猫を飼っているのよ。ルナっていう子。」

奥さんは微笑みながらそう話した後も、いつまでもいつまでも犬を見つめていた。


▪️街のカフェで
翌日の夕方、コンサートに出かける。
毎年5月に『プラハの春コンサート』が行われるスメタナホール(市民会館)だ。
アール・ヌーヴォーの様式で、天井のフレスコ画が美しい。また、音響も良く、深みのある音が心地良いホールである。

舞台中央にはスメタナのレリーフ


フレスコ画が美しい天井


犬連れなので、夫と同時に聴くことはできない。
夫は17時の演目、交代して私は20時からの演目を聴くことにしていた。
どちらも小編成で小曲を集めたコンサートだ。音楽好きの旅行者が、旅の途中に聴くにも気楽な演目だ。
私の方は演奏にオペラ&バレエ付き。

以前なら旅の途中でも、通常の編成のコンサートや全幕物のオペラ、バレエに行っていたものだが、今は犬連れなので、これで大満足である。

スメタナホールのすぐ横のレストランはホールと共に人気があり、内部の建築や装飾も見事な店だ。
そこで夫と待ち合わせをする。
外のテーブルで、街を行き来する人々を眺めながら、お茶を楽しんでいた。

ホール横のレストラン

通りかかった旅行者が、何人か犬目当てに寄ってきて、ひと時のお喋りを楽しむ。
英語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、イタリア語、そしてチェコ語。チェコ語は全くの不勉強なので、他の言語に変えてもらう。
プラハもまた多言語が混ざり合う。

その中に、まぁ!と目を見開いて、こちらに寄ってきたご婦人が二人。スペインからの旅行者だという。

「まぁ(T ^ T)  何て可愛いの!   私も以前、同じ犬を飼っていたの…  (涙ぐんでいる)
でもね、10歳で大型犬に噛まれてね…」

「まぁ、それはお気の毒です(T ^ T)」

「今はチワワを2匹飼っているの。」
そう言って、チワワの写真を見せてくれた。家族に可愛がられて幸せそうな様子だった。

犬を旅に同行させるのは、車でなければ負担が大きいので、預けたり、家族と留守番をさせているケースが多い。
旅の途中で我が家の犬を見て、自宅に残してきた犬を懐かしむ人に随分出会ってきた。この人もまた愛犬に思いを馳せていたようだった。

そしてマルチーズを失った悲しみも。


▪️ビール工場にて
1842年誕生のピルスナー・ウルケル(ビール工場)を訪れた。
モラビア産の大麦、地下からくみ上げたピルゼンの軟水を使った芳醇な香りの作り立てのビール🍺が楽しめる。

前日までビールフェストが行われていたようで、広場のテントの片付けが行われていた。
ラッキーだった。フェスト開催中は大賑わいで、横の駐車場には車も停められないし、混雑でゆっくりできない。
それでもこの日は観光客が後から後からやって来ていた。

ピルスナー・ウルケル

レストランでは、出来立てのビールが楽しめる。買ったビールを外のテーブルで楽しむ人々が多い。

その列に夫が並んでいる間、入り口で風景を楽しんでいるところに、イタリア人の夫婦がやってきた。この人達は英語。

奥さんがいきなり犬の前にしゃがみ込む。
「まぁまぁ💕何て可愛いの?! 女の子かしら?
何歳? お名前は?」
矢継ぎ早に質問される。

全部の質問に答えたところ、我が家の犬を愛おしむように撫でながら、
「私もマルチーズを飼っていたの。12歳だったわ」

過去形。もしや?💦

「散歩をしていて、リードをせずに遊ばせていたの。
人懐こい子だったから、よくよその犬にも近づいていたわ。
そうしたら大型犬に突然噛みつかれて(T ^ T)」と。

この人もまた💦

亡くなったマルチーズの、小さい頃から亡くなる寸前までの写真を何枚が見せてくれた。
途中からご主人もやってきて、うちの犬に挨拶をした後、自分のスマホの写真を見せてくれた。

「この子はうちの子とそっくりだ(^-^)」
とご主人も懐かしそうに語っていた。

「今はドーベルマンと猫を飼っていてね。」
あ、マルチーズが被害に遭ったのに、大型犬も好きなの?、と思って聞いたところ、ご主人の趣味だそうで。

「他に猫が2匹よ🐈🐈‍⬛」


奥さんはそういいながらも、今はもういないマルチーズの写真を次々に見せてくれた。

もっと話したかったが、そこで夫がジョッキを2個持って現れた。
彼らの旅の安全を祈って声をかけて別れる。


車なのでノンアルコールのビールで乾杯🍻✨
出来立てのフルーティなビールはとても美味しかった。


▪️マルチーズとは
マルチーズは大きな黒い目、絹のような白い毛が美しく、愛らしい性質を持っている。
人の感情に敏感で、寄り添おうとする気持ちが強い。

しかし、その可愛らしい外見とは裏腹に、大変勇気があり、小さな身体で、主人を守ろうと大きな相手にも立ち向かう。
闘おうとしてしまうのだ。

三日連続で、大型犬に噛みつかれて亡くなったマルチーズの話を聞いてしまった(T ^ T)💦
他の小型犬たちのように、近づかないようにするとか、尻尾を下げて恐々逃げていれば、今も元気でいられたであろうに。

出会って話した人々は、犬の扱いに慣れているので、我が家の犬も警戒心を緩めてなつくが、それ以外の人に向かっては吠える時もある。
動き回る子どもには一番警戒する。

せっかく可愛がろうとした白いふわふわした犬に吠えられて、大抵の人がショックを受ける様子なので、すぐに叱って謝るのが常だ。

しかし、今回の元マルチーズの飼い主たちは、寧ろ懐かしそうに、

「うちの子もそうだったわ♪」
と遠い目をして微笑むのだった。


帰りの車中で、
「大きい犬と闘わないでね…」
と、膝の上の愛犬に何度も言い聞かせた私。

大きな黒い瞳は、
『あたちは闘うわよ!』
と相変わらず応えるのだった。


チェコ郊外の空





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