見出し画像

教習所記録 卒検編

卒検の朝は早い。休日であるにも関わらず、出社時間の起床しいつものように猫に餌をやる。
起床からずっと心臓はドコドコしっぱなしで、頭の中で何度も縦列と方向変換のイメトレを繰り返した。第一段階、第二段階ともにみきわめで一度「不良」判定を食らっているため、卒検についてもきっと再検定になるだろうと踏んでいたが、そうなると二輪免許の申込みがさらに遅れることになる。
私の本来の目的はハンターカブに乗ることだ。なんとか自分を鼓舞して、少し早めに教習所に着いた。

卒検会場には前回登場したおじいちゃん指導員がいてホッとしたが、私の担当からは外れてしまった。そこそこお世話になった(失礼)指導員と、大学生とおぼしきギャルの3人で教習車に乗り込む。注意事項の説明を経て、運良く車も人通りも少ないコースに当たった。

ホッとしたのもつかの間、検定が始まりしばらく車の後部座席で順番を待っていると、先に運転しているギャルが交差点近くで突如停車しているバスを追い越そうとしているではないか。

(おい…やめとけ…よりにもよって何故卒検でそんなことしちまうんだ…)と心の声が漏れそうになったが、指導員もぎょっとした顔をしている。ブレーキは踏まれなかったものの指導員がキレていることだけは伝わり、ギャルの表情が曇っていく。
「ちょっとなにしてんの!やめて?!」
「…いや、バスを追い越そうと」
ギャルの強さにびびる。次に運転する私の身にもなってくれ。おまけにギャルは指示に対し返事をしないのでその後も静かにキレられていた。
そしていよいよ私の順番が来た。大きな交差点がいくつかあるだけで、歩行者保護と信号の変わり目、速度制限に気を付けていれば問題はない。路上走行は思ってきたよりあっけなく終了し、続いて場内で縦列駐車を行った。方向変換だったら危なかったかもしれない。

ロビーで待つこと待つこと30分、集合場所に出向くと担当指導員が何名かを廊下に呼び出し始めた。=不合格ということらしい。残された私達は気まずそうに席についた。指導員からの講評の際には、呆れ気味に「一応合格ですけど、左折のときは左にちゃんと寄せて下さいね」と注意を受けた。これまでも何度か同じ注意を受けていたため思わず「ハハ…すみません…」と乾いた笑いが出た。
ちなみにさっきのギャルは「自分の力量に見合う運転をして!」とかめちゃ怒られてたから気まずかった。よくブレーキ踏まなかったな。


配られたアンケートを記入している間に「今から原付乗ってみたい人ー?」と声がかかった。これはチャンスとばかりに手を挙げると、一人の若者も挙手し急遽二人で原付講習を受けることになった。
どうやら春の交通安全運動の一貫で行っているプログラムで、卒検合格者は無料で受けられるとのことだった。
案内された先で貸出のヘルメットやプロテクターを装着し、一通りの操作を教わる。

その昔、ミャンマーを訪れた際に乗った電動バイクを思い出した。e-bikeと呼ばれていたそれは無免許でも乗れたのだが、原付きと感覚や操作はほぼ変わらない。

キルスイッチを押してエンジンがかかったときの喜びはひとしおだった。外周をぐるぐる回ったあと、右左とあれこれ言われたとおりに走る。
夢にまで見たバイクに乗っている!
ようやくスタートラインに立てたような気持ちだった。バランスのとりにくさはあまり感じなかったが、これが原付というものなんだろう。講習を見に来た他の指導員には「ここにいるってことは卒検受かったってことだね!」と明るく声をかけてもらい、なんだか照れくさい気分だった。
最後に飲酒時の視界の変化を感じるためのゴーグルをかけて、数メートルを歩く体験を行った。視界がぼやけ、まっすぐ歩いている感覚を掴めず、近くにあるベンチに足をぶつた。これが酩酊状態というのだろう。
最後にサービスのお茶をもらって教習所をあとにした。あとは卒業証を受け取り、県の免許センターで筆記試験を受けるのみとなる。
実質、この日で私の半年間の教習所生活が終了した。

追記


指導員に小型二輪を取ろうと思っていることを伝えると、「コマ数が少ないから中免のほうが安心して受けられるよ。バイクは車と違ってセーフティプラン(補習無料)もないし…」と言われた。中免は小型より4万ほど金額が上乗せになるが、コマ数はその倍だから同じ項目を何度か練習出来る時間がある。小型についてはそもそも時間数が少ないため、途中で再履修になってもオプション金額がかさんでしまうようだった。
これについてはしばらく悩んでみようと思う。