北の橋/息子のまなざし/クリーン

 DVDをガサッと(と言っても3枚)借りて帰る。テンション上がる。今行かないと観れないから、と映画館に行くのとも、やってるから観るかーとサブスクのコンテンツをかけるのとも違う、数ある歴代の映画の中から、今私が観たいのはコレ!と選んで持って帰るワクワク感。主体性を発揮したときならではの爽快さ。

『北の橋』タイトルからして堪らない感じがする(シンプルなのに/シンプルゆえに)。家をもたずパリをさまよう二人の女を夭折のパスカル・オジェとその母ビュル・オジェが親子共演。お話は荒唐無稽でナンセンスでも、ところどころ現実の人生の苦味が散りばめられて、引き締まる。パスカル演じるバチストは、遍在する〈敵〉に果敢に闘いを挑む。敵はライオンの銅像、女の顔写真が引き伸ばされたポスター、公園の遊具、謎のおじさん… ものすごく挙動不審だが、彼女の眼には街はそういう場所に見えているのだということは伝わってくる。そういう人もいるだろうと信じられるし、そういう人が正しいと言うことだってできるだろうと、思わされる。目に見える(カメラに映る)街がどんなに平和で平凡に見えても、相反することなく同時にそこはとても危険で怪しくて面白い場所でもあるのだ。にしてもあのものすごく変なラストシーンは、何でこんなに泣けるんだろう。

『息子のまなざし』本編が始まった途端「あ、これ観たことあるわ」と記憶が蘇った。学生のとき、こーたろうという、変でおもしろかったフランス語の先生が、授業で見せてくれたんだった。他にハネケの映画とかも見せてくれたりした。元気かな、こーたろう。まだ教えてるのかな、こーたろう。彼の自虐は今思い出しても私を温かい気持ちにさせる。映画の方は、手持ちのカメラでずっと主人公のオリヴィエという独り身の男性を追っていて、音楽は1秒もかからず、パッと見地味そうだが、その実めちゃめちゃサスペンスフルでエンタメ性が高い(と私は思う)。オリヴィエと少年との間に、ものすごく緊迫した関係性があり、しかも少年はそれを知らずにいるから、「いつ言うんだろう/何を言うんだろう/その時何が起こるのだろう」という疑問だけで、ずっと引っ張っていける。そこがシンプルであるのと、全てが生々しいから、そしてオリヴィエという人が寡黙で無愛想なのにとても信頼できる人だということが早い段階でわかり、好きになるから、ずっと観ていたいと思える。

『クリーン』すべてのキャラクターにわざとらしくないクセがあって、ああ、いそう、きっといるこういう人…と思えて愛おしい。イレーナ(だっけ?)という女性と秘書の女の子は特に奇妙で印象深かった。エゴと愛情と理想と現実がみんなそれぞれにある、その感じがリアルなんだろうか? どれが100になっても人間じゃなくなってしまう。その見せ方に品がある。マギー・チャン演じるエミリーはジャンキーで自分勝手だが、闘い続け、決して周囲に好かれているわけではないが、かと言って完全に一人ぼっちなのでもないーー彼女が這うように生き延びていく姿を通して描き出される希望に泣いた。あとあの髪型をいつか真似してみたい。

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