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「ゴールデンタイム」---解釈が結構難しいので解説します(ネタバレ)

設定としてはとても面白いストーリー。
普通に記憶喪失というだけで「えー、またそれ」と思いがちだけど、これは少しひねってあって、記憶が戻ると、記憶喪失時の記憶はなくなってしまうという話。

万里(ばんり)は高校3年生の卒業式の翌日に事故に遭い、全部の記憶を失ってしまう。1年浪人して大学に入学して出会うのが超お嬢様で美人の香子(こうこ)。
そして二人はお祭り研究会というサークルに入り、そこの先輩の林田(りんだ)という、実は万里の高校の同級生でかつて好きだった女の子と再会する。

二人の万里
つまり二重人格のように、二人の万里がいるというわけです。
記憶を失う前の高校3年生までの万里、記憶を失ってから大学1年生になった新しい万里の二人。
残念なことに、事故前の自分と事故後の自分は記憶の交流がないわけです。

だから事故前の万里は林田が好きで告白し返事を聞けないままになっていて、それが大きな心残りになっていて、深層心理で今の万里に対して過去を思い出そうとしないことに怒ってるんだよね。

だけど今の自分は香子が大好きなんですよ。過去を直視する恐怖も少しずつ乗り越えようとするのだけど、残念なことに事故前の記憶が戻る代わりに事故後の香子との関係もすべて忘れてしまうという悲劇なのです。

記憶の連続性
で、最終話の万里が事故前の記憶を取り戻した後で、恐らく1年くらい経って香子が訪ねてくるところからのシーン。コンパクトミラーがきっかけで香子を思い出すのだけど、事故現場の橋で事故前の自分と事故後の香子の記憶を持つ自分が出会うところ。
これ、なんか解釈が難しくないですか?

①まず走ってきたのは過去の記憶を取り戻した自分+少なくとも香子だけは思い出した自分。
②橋にいてずぶ濡れだったのは事故前の高校3年生の自分。

だいぶ前に記憶を取り戻したのに、なぜこれまでにずぶ濡れの高校3年生の自分と対話できなかったのか?というところです。

それはですね、こういうことです。
A. 事故前の高校3年生の自分(生まれてから18才までの記憶)
B. 大学に入って香子に出会った自分(入院、浪人から学祭で阿波踊りをやったところまでの19~20才までの記憶)
C. 事故前の記憶を取り戻してからの自分(学祭後に実家で過ごす20~21才までの記憶)

上記の通り、万里の記憶は大きく分けると3分割になる。過去の記憶を取り戻したけどBがない状態です。だから対話ができなかった。

そして、AとCは上手くいってる。どちらも過去からの記憶を持っているしね。
ところが、AとBは折り合いがついてない。Bは向き合うのが恐くてAを否定したわけです。過去がなくても新しく生まれ変わるような気持ちで大学生活を送ったと。
さらにBとCも折り合わない。メモを見ても、元彼女のことも深く追求しようとしないところから見ても、CはBを無視してるとも言える。

つまりBはかつてAを否定したように、今はAとCに無視されているといか封じ込められていたわけ。ところが香子の訪問でBの記憶の断片を思い出したことがきっかけで、ぽっかりと空いたBという時間の記憶がつながって、どれも自分だと気づいたと。

人というのは記憶の連続性でできていて、記憶が抜けていることは精神的にとても不安定です。特に自己否定したり心の傷というのは見たくないものですが、それでも見て記憶と時間をつなげていってあげないと安定しないものなのだと思う。

CがBを見つけたことによって、ようやくAとBも橋の上で会うことができた。なぜならばAのずぶ濡れで傷ついた高校3年生と同じように、Bもまた傷つきさまよう大学1年生という過去になったからです。

そしてすべての傷を受け入れて直視することによって、ABCすべてがつながって、傷さえも思い出となったということなのです。

ちなみにAの高校3年生が林田と会い返事をもらう場面は彼の自己肯定から来る妄想的なもので、実際に林田が来たわけでも返事をもらったわけでもありません。


余計なことだと思いますが、香子ちゃんはストーカー気質だけどとてもキュート。林田が邪魔だなぁと思いながら見てしまいました。
結局、最後には万里と香子ちゃんが結ばれて本当にホッとした。
途中でもしかしたら万里と林田がくっついてしまうのではいかとハラハラしました。

ちょっと解釈が難しいかもしれないけど、なかなか面白い記憶喪失モノだと思いますよ。


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