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わたしは死にたくない①


さあいよいよ退院が11月10日に決まりました。退院後の心不全再発防止に向けて栄養指導の先生のカウンセリングを受けたところ、塩分が特に心臓に悪く、また脂肪分、糖分などによるコレステロールにも気をつけて暮らしていかなければならないと勉強しました。特にフライドポテトなんかはかなり心臓に悪いようですね。
おや…?

おやおや…?

倍盛りポテトですって…!?

おれが入院している間にそんな暴力的な名前の食べ物が出てたのか!?やめてくれ~(食わせてくれ~)

この調子では伝えなければ永遠に失われてしまう物語が本当に失われてしまうので拙いながらもここに記します。

ちょっとだけ怖いですよ



1997年 代田橋の木造アパート2F

ミュージシャンの夢はどこへやら、プレステのバイオハザード(1996年 カプコン)にはまってしまったわたし(とんかつ)はこの日もタイムアタック(ゲームクリアまでの時間を競う)で一時間を切るべく夜更かししていた。

ヤングとんかつ:バ~イオ~ハッザ~~ド。何となく分かってきたがおれには音楽の才能はあんまりない。そしてそのことを人に知られるのも怖いからこれ以上新曲も作りたくない。あ~ゾンビになりたい。タイムアタック一時間切ったら新曲つくろう…

音楽と真剣に向きあえる時間はお前(ヤングとんかつ)が思っているより遥かに短いと教えてあげたかったが宇宙の法則が許してくれなかった。

バイオハザードは怖くて不自由でおもしろい。来年(1998年)にはバイオハザード2も出るらしい。きっともっと怖くて不自由で面白いだろうな~不自由な操作性でずっとゾンビの大群に追い回されていたいな~などと思っていたら時計は午前3時を回っていた。すると、

ピンポーン

ピンポーン

こんな時間にドアチャイムが鳴った…。



一瞬居留守を使おうと思ったが、

ピンポーン!

ゲームの音を出してたので起きてるのがばれていた。一体誰だ?息を殺してドアスコープに近づく。
覗いてみると、こちらに背を向けた赤いコートの女性がいた。そのコートには見覚えがあった。

貧乏なのに音楽にも仕事にも真剣に取り組んでいないわたしは、付き合っていた女性にその事を指摘され、図星だったので悔しくて大ゲンカし別れたばかりだった。赤いコートは、かつてその女性へのプレゼントとして買ったものに間違いなかった。

新しい彼氏もできたと言っていたその女性。こんな時間にその彼氏と何かあったのか?わからないがわたしは「カチャ」カギを開けた。すると

「ガヂャ!ガヂャガチャガヂャガヂャ!!」

ドアチェーンのおかげで完全には開き切らなかったドアの隙間から、サバイバルナイフの切っ先が現れて不器用に乱舞しだした!

反射的にわたしは後ろに飛び退いた。あまりの事に声が出なかった。
ただ早鐘を打つ心臓の鼓動だけが聞こえる凍りついた一瞬の後、今度はドアの隙間から大きなワイヤーカッターがゆっくりと現れ


バツン


ドアチェーンを切った。
冷たく、絶望的な音だった。つづく

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