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お前は苦しむ しかしなぜ?(You suffer but why?)


退院して、昨日から仕事(リアルガチ土工)に復帰しました!2週間ぶりに現場に行ったらさあ困ったのが「ヘルメットどこ置いたっけ。」
1000個のヘルメットの中から見つけよう!キミだけのヘルメット。

あった

(画像をクリックすると世に素晴らしい才能を輩出し続けるおもしろサイト・ハイエナズクラブにリンクします。)

これは誇り高きハイエナズクラブのヘルメットーー
2015年からハイエナズクラブに所属していますが記事を1つも書いてないのはわたし(とんかつ)だけ!とんかつじゃなくてお荷物。そんなわたしが、心不全で死にそうになってから、生きた証を残すために必死に始めたインターネットの文章を見よう。はじまるよ!


2013年 夏

街宣車から工事中止を求める怒号が放たれている。
歩道ではチラシが配られていた。
"日本有数の大企業による超大型プロジェクトーーその陰で横行するパワハラ、隠された死亡災害、劣悪な環境での作業員の酷使"
告発するためのツイッターアカウントが印刷されたジャーナリストの名刺も手渡されたが、わたしたちは捕らえられた亡霊のように現場に吸い込まれて行った。

午前8時 朝礼会場

「おはようございます!(オザース )昨日素晴らしい作業員を見かけました。彼は足場での作業中、ーー」
朝礼で3000人の作業員を前にマイクでスピーチするわたし(とんかつ)。
(おれはいったい何をしているんだ…)
と思いながらも、この魔界村のような現場で上手く立ち回るためには積極的に前に出て目立つしかない。やる気のない業者には赤字作業が半ば強制的に振られるというパワハラが待っている。
昼夜60名の人間を率いる責任者として、自分の感情は捨てた。
「ーーというわけで私は彼に拍手を送りたいと思います。みなさんも一丸となって、この現場を無事竣工に導いて行きましょう!」(パチパチパチ)
心にもない事をよくもあんなにスラスラ言えるもんだと自分に呆れていると、背中をくすぐられた。
「O(とんかつ)さ~ん」「キャ」
解体工(=ハツリ工、ハンマードリルやブレーカーなどを用いコンクリートを砕く)の職長、Mさん(52)だ。
「あ、おざいます。」
「またね。」
ごった返す作業員をかき分けて、それぞれの仕事へ向かった。

職長は朝礼後自分の会社の作業員を集めてKY(キケン・ヨチ)活動をします。ヨチ!

午前9時30分 喫煙所

ひとしきり朝やるべき事が終わり、わたしはサボろうと喫煙所に来た。そこにはもうMさんがいた。なんか元気がなかった。
「おざいます。Mさんあら、顔色わるい」
「Oさん、俺ガンだってさ。」
「えっーーマジすか。」
「来週から入院するわ。明日から新しい職長に引き継ぎするからよろしくね。」
「今は早期なら完治しますから、大丈夫ですよ。ゆっくり休んで下さい。」
「いろいろありがとね。」


午後12時 詰所

思い思いにひるめしを食べる作業員。外からはまだ街宣車からの怒号が聞こえてくる。(いいぞ もっとやれ こんな現場潰してしまえ)誰もがそう思いながら、それでも明日の食い扶持のために、またこの現場に来る。わたしたちには現場を選ぶ自由はないのだ。

我が儘ばかり言う作業員は露骨に仕事を干されます。

食事が終わって喫煙所にいくとまたMさんに会った。
「やばいな 今日残業だな。」
「無理しないで下さいよMさん。具合悪いのに…」
「余計な仕事増えちった。」
「何ですか。」

「ロボット乗る」

…ロボット?

「何ですかそれは。」
「何か解体重機のメーカーがテストしたいんだって。」
夕方に搬入されて来るから多分残業になりそうだという事だ。
「断れねんだよなこの現場は」
頼まれた事を断らないのは同じ会社の仲間をパワハラクソ作業から守ることになる。
Mさんの気持ちと辛さがよく分かる。力になってあげたいが、わたしはロボットに乗ることができない。

…いやもしロボット乗らせてくれるならめちゃめちゃ乗りたいですけれども



午後21時 地下3階 掘削エリア(逆打ち工法)

夜勤の朝礼が終わり作業の指示、段取りをしていると

ウィーン ガシャン ウィーン ガシャン

めちゃめちゃベタなロボットの音が聞こえてきた。

ウィーン ガシャン ウィーン ガシャン

(絵:とんかつ)

「Mさん!」
「オーイOさ~ん!」

「エイリアン2」(1986年 米 ジェームズ・キャメロン監督)のラストで、リプリー(シガニー・ウィーバー)がエイリアン・クイーンと戦うため乗り込んだパワーローダーをちんちくりんにしたような珍妙なロボットに乗ったMさん(52)は、子供のような笑顔で(ロボットの)手を振っている! 

「かっこいい!めちゃめちゃかっこいいですよMさん!」

Mさん「さっさと彼女から離れなさい、このアバズレ!」(リプリー/シガニー・ウィーバー 吹替え:戸田恵子(Mさん))

ガシャン!地中障害(コンクリート)が砕け散った。ウィーンガシャン。

「このアバズレ!」ガシャン!
「このアバズレ!」ガシャン!
「そっくりです!そっくりですよMさん!」


「ジョン・レノン拳をくらえ!」(Mさんはジョン・レノン似)
ガシャン!

私は爆笑した。と共に、ガンで痛む体を抱えながら、こんな時間まで珍妙なロボットに乗せられて阿修羅残業をしているのに、今までに見たことがないぐらいの笑顔でふざけているMさんの気持ちを思い涙が出てきた。

彼は人生に怒り、運命に怒り、それでも笑顔でいることでケンカをしている!!

「Mさん、最高です!最高にかっこいいですよ!」私は涙が止まらなかった。


Mさんは一昨年亡くなった。しかしMさんの笑顔とジョン・レノン拳はわたしの目に焼き付いている。 おわり  完


つづく

#創作大賞2022

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