新型コロナ感染の経緯
わたしは新型コロナウイルスに感染しました。
2022年2月16日(水) ある工事の第一期最終日
youtubeでみた「The Backrooms」の事を考えていた。主人公が1人迷い込んだのは、無機質な黄色い壁と蛍光灯とタイルカーペットが延々と続く、目的不明の迷宮。まるでテナント退去後の改修現場のようだ。設定では何億平米もあるらしい。
そこを、なんか殺意を感じる雑な機械が絶叫しながら徘徊している。主人公はカメラをまわしながら出口をもとめてさまよう──というショートフィルム。粗いハンディカメラの映像が異次元に現実感をもたせていて楽しめた。
ただ、この手のソリッドシチュエーションホラー的な作品でいつも思うのは「トイレどこ?」という問題だ。例えば映画「CUBE」。俺だったらあんな状況におかれたらマジ膀胱絶好調(ラップ)になってしまう。女性もいるし困った。トイレを探しに行って死ぬだろう。ギャー
映画「SAW」もソウ。劇中けっこう時間がたっているが、誰もトイレに行かない。鎖で繋がれている場所がトイレみたいなもんだが、もし腹が痛くなってもトイレットペーパーがない。(以下ネタバレ注意)もしおれが真ん中の人だったら、もらして、生きてるってバレちゃう!
そういえばゲームの「バイオハザード(初代PS版)」にはトイレがあった。でも、あんなに広い館の中に便器いっこしかなかった。あんな広い館だったら使用人だけでも10人は要りそうだが…(しかもトイレのドアを開けるとゾンビが入っていた気がする)。トイレがないことは、せっかくのホラーがコメディーになりかねない。
逆に、書籍「新耳袋 第4集」に収録されている「山の牧場」という話では、山奥の放棄された牧場にあるトイレが男子小便器ばかりずらりと10個以上もあることのおかしさに一同が気づく場面で鳥肌がたった。多すぎるトイレはホラーだ。
──そんなことばかり考えながら仕事して、明日休んで明後日から新しい現場へ行く予定。こう見えてURECCOなのだ。簡単な工事だったので午前中には作業を終え午後は使った道具や機械をメンテナンスしたり事務作業したりであまり疲れずに済んだ。所長に挨拶して現場から撤収した。
帰宅途中にちょっと寒気がしたので、あ風邪ひきそうかもと思って薬局でエスタックイブを買って帰る。あと子のために牛乳や和光堂の幼児食。育児の忙しさで食べる時間がなく、やせてしまった事を気にしている妻のためにカロリーメイトを二箱買った。
帰って熱を測ると36度3分だった。安心したが、念のため食後エスタックイブを飲んだ。心臓の薬は風邪薬と飲み合わせが悪いのかもしれないので(様態も安定しているので)飲まなかった。さらに念を入れて妻と子とは別の部屋に布団を敷いてマスクをして寝た。
22年2月17日(木)
朝、震えと節々の痛みとともに起きた。最悪だ。熱が39度あった。発熱相談センターに電話して近所の発熱外来を教えてもらった。診察を予約し、受付開始の11時を病院の駐車場で待っていた。「まだコロナと決まったわけじゃない。今のところただの風邪と同じ感じだし。」と震えながら思った。
その時、昨日まで行っていた現場の職長会LINEに「現場で働いている当社の作業員にコロナ陽性者が確認されました。ご迷惑おかけします」と◯◯社のアカウントから発信されてきた。
そういえばめちゃめちゃ咳こんでる◯◯社のやつ同じ詰所にいた。こないだ詰所の一斉清掃の時にうちの会社の席のほうにゴミ飛ばしてきたから「この辺もう掃除終わりましたんで。」って言ったらゲホゲホしながら無視したやつだ。
あと数分でお医者さんに診てもらえるタイミングで、なんか完全に絶望してしまった。全く俺らしいストーリーだ。妻と、1歳の息子に伝染してないだろうか、それだけが心配だった。
今、どの現場でも、入口で必ず体温チェックとアルコール消毒をするようになっているが、専門の要員がいる現場と、作業員がセルフで行う現場がある。
俺が昨日まで行っていたのは後者だった。
昔よりは減ったが、作業員の中には残念ながらバーバリアン(野蛮人)のような人間がいる。車のダッシュボードに斜めに立て掛けたカップラーメンを直線道路になるたびハンドルから手を離して食べている(そして急に割り込まれてカップラーメンをひっくり返す)人間(井崎)もいれば、ズボンのチャックを下ろし、性器を露出させ「アー、しょんべんシテエ~!」と叫びながら詰所に勢いよく突っ込んできて、
「あ、間違えた(ピュ)」
と、ちょっと出しながらドアを閉めて出ていった人間(セミ?)もいる。
そんな人間がもし同じ現場で働いていたら、果たしてセルフ消毒や検温をちゃんとするだろうか?
誰も責めるつもりはない。本当に責任を負うべき人間も知っているが、糾弾するつもりはない。責めるとしたら、転職する機会も時間も十分ありながら今現在もそんな仕事をして妻と子をウイルスの脅威に晒している、俺自身だ。
スラッシュ・メタルにもサラリーマンにもなれずドカタを続けているバーバリアンだ。
ただ、俺は「みんなが危険な目にあったり汚れたりする必要はない。それは俺がやればいい。それに、ドカタがいないと建物は建たない。」と思っている。
──医者は定型文のような質問をしてきた後、手際よくPCR検査を済ませ、わたしは2日後の検査結果を待つことになった。明日行くはずだった現場の担当者に事情を伝えた。担当者は「それ絶対陽性ですね」と言った。もう!そういうの良くないぞ。
22年2月18日(金)
熱は38度。家では妻と子の生活空間を侵すことのないよう気をつけて過ごす──が、完璧とは言えない。できることな疫病パニック映画みたいなビニールとか吊るしたい。
昨日、家を出て療養施設へ、または妻と子を安全なホテルへ、と試みたが上手くいかず、ただ家で息を殺していた。
扉の向こうから聞こえる妻と子の元気そうな声に安堵する。が、暗い気分もつのる。
これがゾンビ映画だったら俺は凄く悲しいゾンビになるんだ
理性を失い妻と子を食べようとするシーン。そうなってしまったら誰か主人公!さっそうと現れ俺を殺してほしい。
妻のために買ったカロリーメイトは結局全部俺が食べることになってしまった。
夜、妻と子が39度の発熱。
泣く子を必死で看病する妻。俺は妻を安心させ負担を減らそうといろいろやったつもりだが今覚えていない。
22年2月19日(土曜日)
妻と子は今朝も39度。最悪だ。二人は病院に向かった。
それと同時に病院から検査結果の電話が来た。また変なタイミングだ。──まだ0.1%ほど「ただの風邪」を期待していたが、現実を突きつけられた。
「(とんかつ)さんのPCR検査の結果は陽性です。」
その後保健所や都から電話がきたり支援物資の手配をスマホでやったりしていたら憔悴した妻が子を抱いて病院から帰って来た。体調がかなり悪そうだ。
俺自身の熱は36度まで下がっていたので妻を休ませ息子の世話をする。生まれてから1年7ヶ月、こんなに高い熱が出たのは初めてなので怖い。ネットや本で見た知識を頼りに、祈るような思いで冷やしたりシロップを飲ませようとしたり抱いて好きな歌を聴かせたりしていた。ずっと泣いていたが、いつの間にか眠ってくれていたので呼吸に注意して見ていた。
22年2月20日(日曜日)
わたし、妻、息子ともに36度台まで熱が下がった。ただ幸運に感謝する。しかしまだ油断できないのがコロナの怖いところだ。
昼に「ザ・ノンフィクション 山奥ニートの村に赤ちゃんが誕生」をみた。おばあちゃんの美しさに泣いた。本当に我慢して耐えてきた人間とはああいう人だ。
22年2月21日(月曜日)
朝、妻のPCR検査陽性の連絡が来た。乳幼児はPCR検査ができないので、父と母が陽性の場合は子も陽性とみなされるということだ。俺のせいで本当にすまない。一番大切な家族を危険に晒した俺はこれからは全身をラバーで覆う思いで清潔と消毒に気を付けなければならない。
今月いっぱいは一家揃って家にいることが確定。いつも仕事ばかりで家にいれないし、あまり体調が優れない妻のためにも、家事や育児をたくさんがんばりたい。体温は今日もみんな36度台。昼ごろ俺の支援物資が届いた。
これプラス水2リットルが段ボール1箱分。心臓病で食べるのを避けていたものがたくさん!赤いきつねと緑のたぬきがまた食べられるなんてうれしい。しかし心臓病、コロナともに油断しないように区の保健所のLINEや都のHER-SYSなどに体調を送信した。
22年2月22日2時22分
こんなに2が並ぶことなんてあんの!?
引き続き療養を続けます。みなさんもお気をつけてお過ごしください。 おわり 完
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