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レザールフロリサンの夏の音楽祭 今年もティレで開催

1980年代、現在への古楽興隆の流れをつくることに大きな役割を果たしたレザールフロリサン Les Arts Florissants。
その創設者のウィリアム・クリスティー William Christie は、現在ではポール・アグニュー Paul Agnew と共同ディレクターを務めています。
二人の主導のもと、毎年夏にティレの街で音楽祭が開かれています。

ティレのクリスティーの庭園

クリスティーはフランスの大西洋岸に面するヴァンデ県ティレ Thiré という小さな街に、40年近く前から徐々に土地と建物を買取り、年月をかけて整備して、芸術家が心置きなく音楽を練り演奏する場所をつくり上げてきました。
ここには同時に庭園が造成され、地方有数の緑の地として多くの人々が訪れる憩いの場所となっています。

このティレで、今年11回目となる「ウィリアム・クリスティーの庭園  音楽祭 Festival dans le jardin de William Christie 」が、8月20日土曜日から27日土曜日まで、1週間にわたって行われました。今日は写真ルポルタージュで音楽祭の雰囲気をお伝えしましょう。

水上舞台のメインコンサート

メインは週末、水上に設けられた舞台で行われるコンサートです。

筆者が現地取材に赴いた最初の週末には、モーツァルトのアリアとシンフォニー他が演奏されました。オーケストラは、レザールフロリサンの常連メンバーに加え、レザールフロリサン・ジュニアの他に、提携を結んでいるニューヨークのジュリアードスクールの選抜学生から成る混合オケで、若手養成も兼ねています。

水上舞台でのコンサート © Julien Gazeau
モーツァルトのアリアを歌ったエヴァ・ザイチック(メゾ・ソプラノ) © Julien Gazeau

庭園各所を巡るプロムナードコンサート

午後には「プロムナード Promenades 」と銘打って、庭園の各所を巡る形で1回15分程度のミニコンサートが2、3カ所同時並行で30分ごとに開かれます。庭を散策しつつ&立ち止まって、またはじっくり腰を落ち着けて、自由に音楽を楽しむことができます。これはかつてヴェルサイユ宮殿の庭園などで行われていた形態を現代風に蘇らせたものです。無料なので、自然の中で良い音楽を聴きながら週末の午後を過ごそうと、近隣各地から車でやってくる人で賑わっています。常連は携帯椅子持参で、お目当のコンサートに早くから陣取っています。

今急上昇中のテオティム・ラングロワ=ド=スワルトとウィリアム・クリスティ。二人は『ジェネラシオン』というCDをリリースしています © Julien Gazeau
普段着で気さくに演奏 © Julien Gazeau
ポール・アグニュー、ミリアム・リニョル、トマ・ダンフォール © Julien Gazeau
少人数で演奏家と聴衆の距離も近い © Julien Gazeau
「プロムナード」の最後は、クリスティーの家兼リハーサル会場となっている建物の前のテラスで、午後最後のコンサートが開かれます。椅子持参で来る人も多数。© Julien Gazeau

教会でのコンサート

水上舞台のコンサートの他に、教会でもメインコンサートが開かれます。今年は、ソプラノのレア・デザンドレ Lea Desandre、テオルボのトマ・ダンフォール Thomas Dunford、そしてウィリアム・クリスティがトリオを組んで夏の間ヨーロッパ各地で披露した「愛のレシピ Les Recettes de l'Amour」というプログラム。これが彼らの今夏のツアー最後のコンサートとなりました。リュリ、ラモー、シャルパンティエ、クープランからラヴェル、オッフェンバック、レイナルド・アーンまで、古今のフランス音楽から、愛の様々な形を歌った歌を披露。アーンやオッフェンバックではクリスティとダンフォールが「男声コーラス」を担当し、アンコールではヴァリエテ(日本の歌謡曲のようなもの)の「愛のレシピ」(コンサートの題名はここから取られています)や、バルバラのよく知られたシャンソンの他に、コーラス付きのアーンのオペレッタのアリアを、会場参加の大合唱で歌いました。オッフェンバックやヴァリエテをクラヴサンとテオルボの伴奏で聴くのは、誰もがおそらく初めてだったのではないでしょうか? 皆とても陽気な気分になり、今歌ったばかりのメロディーを鼻歌や口笛で繰り返しながら会場を後にする人が多かったのが印象的でした。

レア・デザンドレ。クリスティーとダンフォールの赤い靴下に注目! © Julien Gazeau

1日の最後のコンサート 「メディタシオン 」

夜のメインコンサートの後は、22時45分から教会で「メディタシオン」 Méditationと銘打ったコンサートが。ポール・アグニューの提案で、1日の喧騒を忘れ、安らかな夜の眠りを準備する時間となるよう、拍手は一切なしとなっています。目を閉じて瞑想に浸れるような選曲が心地よく響きます。

ポール・アグニューがジュリアードスクールの学生とともにブクステフーデを歌う © Julien Gazeau
全ヨーロッパ的に注目されているテオティム・ラングロワ=ド=スワルトがセナイエの曲を独奏 © Julien Gazeau

庭園を楽しめる楽しい企画

この稿のはじめに、ウィリアム・クリスティとレザールフロリサンがティレの村の土地や建物を区画ごとに購入し整備していると述べましたが、それは現在でも続いており、最新の整備対象は音楽家たちのための宿泊・練習・リハーサル施設です。また、最近亡くなったクリスティのお母様を忍んで、彼女の名前を冠した庭園をつくるための土地もすでに購入しており、今後整備が進む予定です。
音楽祭では、コンサートの他にも庭園を楽しむための楽しい企画が盛りだくさんで、庭園のガイド見学のほか、整備済みの場所で、歌やダンスのアトリエなどが行われています。

庭園のガイド見学 © Julien Gazeau
歌のアトリエ © Julien Gazeau
バロックダンスを楽しみながら庭園を散歩 © Julien Gazeau
ダンスの合間に © Julien Gazeau


単に演奏会を開くだけにとどまらず、自然の中で音楽を奏でようという精神が息づいた音楽祭が、「ウィリアム・クリスティーの庭園  音楽祭 」なのです。




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