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シルベストリ

私の友人がこの指揮者に取り憑かれている。私はLP時代の指揮者や録音など全く興味もないのに色々教えてくれる。喫茶店に入ると、どこのレコード店で良いレコードがあっただの、このレコードの前期後期があるだのと、とにかく詳しい。

シルベストリという名前は彼から始めて聞いた。聞くところによると、ルーマニア片田舎出身で、若い頃はロクなレコードを出していない。奇妙な動きでタクトを振ることに定評があるらしい。日本にも来日して、最後には日本語を少し習得したらしい。

少し彼のテイクを聴き込んだが、甘い味噌汁を味わっているような、ハッキリとした味付けの違いを感じ取った。それが彼の実家の味噌シルの味。再生芸術と言われるクラシックの領域で個性を出すのは難しいが、譜面そのものの捉え方が全く異なる。非常に面白い。

そのシルベストリな友人は、元々はSPレコードの人でLPなど聴かないような人物であったが、ある時、YouTubeでこのシルベストリの奇怪な動きを目にして、のめり込んでしまったようだ。確かに昔の演奏家の演奏は知っていても、動きまでは分からない。まさにYouTubeの齎した恩恵と言える。

新しい分野に入る時、変わり者から入って行くというのは私も同じ。人が手に取らないものを楽しめるようになる快感。私の中で最も顕著なものとして縦震動のレコードがある。パテやらエジソンやらレコードを手にすることも難しい上に専用針も中々売っていない。しかし情熱に駆られると新品CDを買うように欲しいレコードを見つけ、針も並べる程になる。

神保町の中古レコード店に入ると向かうのは店の片隅に置かれた縦震動のレコード。目垢手垢が付かないレコードを見るのは最高に興奮する。きっとシルベストリもそうなのだろう。

コンスタンティンシルベストリ。スイスの高級時計メーカーのような名前だ。コンスタンティンなのかコンスタンタンなのかは、時代によって呼び名が変わるのだろう。


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