*「無名草子」(作者は藤原俊成女と言われているが不詳)
… 12世紀頃に書かれ王朝時代の女性評が中心という移植の随筆。
扱われている女性たちは、清少納言、紫式部、和泉式部、小式部内侍、大和宣旨、小侍従など多岐にわたるが、多くが酷評されている。
この随筆の中で絶賛されているのが、一条帝の中宮だった藤原定子で、一族の不運の中でも気品を失わない様子が枕草子を素材に説明され、後産が降りずに急死した定子の辞世の歌を知った一条帝の悲嘆が描かれている。
◆ 雪中の定子の葬列
皇后宮、御みめもうつくしうおはしましけるとこそ。院もいと御こころざし深くおはしましける。
失せさせたまふとて、
知る人もなき別れ路に今はとて心細くも思ひ立つかな
夜もすがら契しことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき
など詠ませたまふらむこそ、あはれにはべれ。
後に御覧じけむ帝の御心地、まことにいかばかりかは あはれにおぼしめされけむ。
◆ 本朝最高の貴婦人と讃える
さて、御わざの夜、雪の降りければ、
野辺までに心ひとつは通へども我がみゆきとは知らずやあるらむ
と詠ませたまへりけむも、いとこそめでたけれ。
おはしまさぬ後まで、さばかりの御身に御目も合はずおぼしめし明かしけむ ほどなども、返す返すもめでたし。
平安朝の随筆や歴史物の多くが、現体制や成功者を賛美するものが多い中で、美しい敗者を描いた異色の随筆は、雪降る中の葬列を切々と描き、筆者は、才色兼備の定子こそ当代随一の貴婦人であると絶賛している。
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