【読書ログ】折りたたみ北京 近代中国SFアンソロジー

はじめに

中国SFと初めて出会ったのはケン・リュウ氏の短編である。
ケン・リュウ氏の作品の中でも短編傑作集『紙の動物園』、『もののあはれ』までしか読めていないが、欧米系のSFしか読んでこなかった私には新鮮だった。

西洋の宗教的価値観とはまた違った東洋的価値観が良く表現されていると思った。SFで (直接的な) 妖怪の類は見たことなかったのだが、『良い狩りを』では妖狐が出てくる。それこそ古の妖怪という要素、近未来的なSFの要素、家族愛という要素をうまく落とし込んだ作品が多いと感じる。

本書の解説でも書かれていたが、このようなSF作品が登場したのは比較的最近のことらしい。

目次

陳 楸帆 (チェン・チウファン)

  • 鼠年

  • 麗江の魚

  • 沙嘴の花

夏 笳 (シア・ジア)

  • 百鬼夜行街

  • 童童の夏

  • 龍馬夜行

馬 伯庸 (マー・ボーヨン)

  • 沈黙都市

郝 景芳 (ハオ・ジンファン)

  • 見えない惑星

  • 折りたたみ北京

糖 匪 (タン・フェイ)

  • コールガール

程 婧波 (チョン・ジンボー)

  • 蛍火の墓

劉 慈欣 (リウ・ツーシン)

  • 神様の介護係


特に印象に残ったところ

本当はすべての作品について感想を残そうとしていたのだが、
読んでから1か月以上たった今もかけていない危機感を感じ、特に印象に残った作品にのみ焦点を当てたいと思う。以下、ネタバレ注意。

  • 鼠年
    人工的に発生した鼠を駆除する部隊に配属された内気な少年の物語。
    徐々に表れる不穏さについてはどんでん返しとも言えなくはない。

  • 百鬼夜行街
    やはりこういう東洋的な作品は東アジアが多いなと思う。というより文化的に類似しているのだろうが。ただ、日本ではSFとして取り扱われることは少なくせいぜい江戸時代を舞台とした (もしくは当時の) 小説に出てくるものくらいだと感じているが、中国SFには妖怪の類がSFとして出てきて、近代化との葛藤する描写が良く見られる。これは文化的な違いだろうか。妖怪をSFとして扱うセンス (これはもしかしたらケン・リュウ氏のものである可能性がある) には腹落ちさせられる面もあった。SFとはどこまでを言えるのだろうか。

  • 龍馬夜行
    中国では龍馬というのが坂本以外にもいるらしい。伝説の生き物らしいが、これは過去の人間の反映した世界が終了した世界を描いたお話。
    見世物として存在していた機械の龍馬だが、人類がそんざいしなくなった 世界のあと、自身は何者かを問う旅に出る哲学的な小説。人間の命題でもある、善く生きるを多面的に考えさせられた。

  • 沈黙都市
    言わずもがな作品で言及されているジョージ・オーウェルの『1984』に影響を受けている作品。『1984』ではビッグブラザーによる統治であったが、
    この小説では、統治しているのは当局 (想像に任せる) である。
    内容を知っているからこそのハラハラドキドキを感じられる。
    本編を読まずにここにたどり着いた読者は、最初に『1984』を読むことをお勧めする。古い小説家の作品であればあるほど新訳版をお勧めする。

  • 見えない惑星
    どこかで読んだ、もしかしたら同じ作品を別の短編集で読んでいるのかもしれない。とりあえず、私はこういう形式のおとぎ話がが好きだ。
    ○○星人はこの生き方をしている。
    ××星人はこの生き方をしている。
    この両者は同じ惑星に生きているがお互いを知らない。
    △△星人は自身の生まれについて語ってくれるがだれ一人話がかみ合わない。
    どちらかというと哲学よりなのかなぁ。


  • 『三体』の一部分を改変みたい (多分表現は間違っている) な小説らしいが、正直『三体』を読んだことがないので新鮮な気持ちで読書をできた。
    0, 1を使った円周率計算に対する謀略と科学的探究心がうまく詰め込まれている。フィクションと知っていても理系の読者ならばラストシーンに胸がキュッとなることであろう。

  • 神様の介護係
    東洋の宗教観だからこそ出せた価値観である気がする。
    似た話にテッド・チャン氏の短編小説に天使が出てくる話があった (調べてから修正します) が、そちらに関しては天使を全く悪者として扱っていなかった。しかし、この話は宇宙船から現れた地球生命を育てた神様を蔑ろに扱う話になっている。そして神様が複数出てくる。これは東洋の八百万の神に近い考え方であるとは私は思う。


思い出したら追記します、、、

記録を嫌いにならないための一時的な記録なので。

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