J2第23節 ヴァンフォーレ甲府vs東京ヴェルディ

前節アウェイで新潟と引き分け、7試合負け無しとした甲府だが4試合連続引き分けと勝ちきれていない。
今節は東京ヴェルディをホームに迎え、後半戦反撃の狼煙を上げる一戦としたい。

一方のヴェルディは前節首位北九州に勝利し、8位につけている。
5連戦の4戦目となる今節だが、今のところ1勝1分1敗となっている。

直接対戦の成績は7勝2分6敗。
ホームでは2勝1分3敗となっている。
対戦成績は良いが、ホームでの成績は良くない相手。
また、現在は3連敗中となっている。
前回対戦はアウェイで2対4の敗戦。

あの屈辱的な敗戦からおよそ2ヶ月。
あの時とはもう違う。
あの日を境にチームは変わった。
勝ちきれない現状を打破するには最高の相手となる。
悔しさを晴らす時が来た。

1.両翼

スタメンはこちら。

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前節から中3日の甲府は10人を変更。
小柳が2試合続けての出場となる。
また、前回対戦時より6人の変更となった。
注目は河田晃兵。
再開後初戦となった新潟戦で負傷して以来の復帰となった。
昨シーズンまで甲府の守護神といえば河田であったが、今シーズンの岡西の活躍で今の河田は追う立場となった。
降格したシーズンJ1からのオファーがありながら残留した恩も、昨シーズン終盤の神がかった活躍もサポーターは忘れていない。

前節から中2日のヴェルディは前節より3人を変更。
前回対戦時より4人の変更となった。
注目は山本理仁。
U19代表の左利きのボランチの選手である。
プロ1年目の選手だが、高校3年生である昨年は22試合に出場していた。
15試合目の出場となる今節はアンカーでの出場となる。

序盤はヴェルディがボールを握る展開。
甲府はそれに対してハイプレスには行かず、中盤のエリアに来たらプレッシャーを強めていく形を取る。

お互いに可変しながらサイドの幅を使い、攻撃を組み立てていくチーム。

甲府

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甲府は山本起用時には山本がアンカーに上がり433を形成する。

ヴェルディ

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この可変は甲府にとっては狙いどころにもなった。

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攻守が切り替わった瞬間ヴェルディのSBの裏には広大なスペースがあり、狙い目となった。

甲府がチャンスを多く作れた要因は左サイドで泉澤が優位性を保っていたから。

ゴールキックから始まった場面だが、内田から1本のパスで泉澤が抜け出しファーサイドの松田が合わせた。

今度は後ろでビルドアップしながら山本のロングパスから泉澤へ。
泉澤のクロスにファーサイドの宮崎という形。
この2つの場面はどちらも左サイドからのクロスにファーサイドの選手が合わせる形だが、この形は甲府の狙いの形。
ここ数試合似た形が見られている。

磐田戦の松田のゴール。

新潟戦の太田のシュート。

チームとして狙っている形の中で泉澤の優位性を発揮しチャンスを演出する。

今度の場面はその泉澤が相手を引きつけることにより作ったチャンス。

泉澤が若狭と森田を引きつけ、空いたスペースに武田が走り込み最後は野澤のシュートという場面。

サイドからチャンスをいくつも作る甲府に対してヴェルディが取った対策は、以下の永井監督のコメントを見てみたい。

試合後の永井監督のコメントより。

『泉澤選手に関しましてはウチでプレーしていたこともあり、一応彼の特徴的な短いビデオを全員に見せましたし、若狭が泉澤選手の得意な方を切る。そこにもう一人が来て数的優位を作って奪うというプランでした。』

しかし、その対策も甲府の左サイドを止められない。
その理由は逆サイドにある。
前回のヴェルディ戦以降3バックを採用し、次の大宮戦以降可変システムを採用しているが、右のシャドーのポジションに入り泉澤とコンビを組んだ選手はこれまで松田が7試合、ドゥドゥが3試合、太田が2試合となっていたが今回初めて宮崎とペアを組んだ。
この起用が当たる。

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今節であれば泉澤が左サイドで幅を取っていたが、ターンオーバー組では荒木が主に幅を取る。
この左サイドは誰が出てもチャンスは作れるのだが、より左を輝かせるために必要なのは逆サイドの存在。

2.失われた翼

一方でヴェルディも試合中に修正を施してきた。
試合後の永井監督のコメントより。

『ボールの出どころをしっかりと抑えるということが第一で、少しサイドを使われてしまうので、そこは最初に組んだ4-3-3の守備から4-4-2の形にすぐ戻して中盤のゾーンのところも端を埋めるというプランの下でやりました。良かったところと、反省点が両方きっちりと見えたので、そこは次に繋がると思います。』

前半の途中から2列目の4人の内1人が甲府のビルドアップに対してCBを牽制する形へ変更する。

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40分頃にはより明確に442に近い形で守るやり方へ変更する。

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後半に入り左サイドの松橋に代え山下を投入したヴェルディ。
前半は左サイドからの攻撃は多かったものの井上のミドル以外はチャンスは作れていなかった。

投入後すぐに山下が持ち味のスピードを活かしチャンスを作る。

甲府も参考にできる崩しであった。

56分の宮崎のクロスから武田のシュートの場面。
前節新潟戦でも60分に似たようなクロスを上げていたが新たな武器となりそう。

60分に野澤と宮崎に代え、中村とドゥドゥが投入される。
この交代により松田が右のシャドーに起用されたが、サイドの優位性が失われてしまう。

松田、ドゥドゥ、太田はサイドに目一杯開いてそのポジションで我慢することができない選手たちでありドリブルで仕掛けることも得意としていない。
一方で背後へのランニングは得意としておりカウンター時には効力はある。
この3人が起用された時の特徴としては、ボールを保持することができた場合のスタートポジションとしては幅を取るが、押し込むことができるとサイドにはWBの選手が張る形が多い。
3バック変更以降、WBでは藤田が14試合と最も多く起用されているが、サイドの高い位置では仕掛けることができないため停滞してしまう。
そのため左サイドに依存する形となり、相手のDFラインを広げきれない。

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一方で北九州戦では小林が起用され、高い位置での仕掛けからアシストも決めている。
藤田の起用が多い現状は宮崎のように仕掛けることが得意でありサイドの位置で我慢できる選手を起用することにより泉澤をより活かせる。
小林の復帰や関口、須貝と特別指定選手が帯同している時には松田、ドゥドゥ、太田を起用しフィニッシャーとして使うことができる。

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藤田にしても宮崎がサイドの高い位置を取ることにより28分の低い位置から逆サイドに展開したような場面や、クロスを活かせる場面は増える。

上記のように右の高い位置を取れないため相手DFが全体的に甲府の左サイドへスライドし停滞が起きてしまう。

3.ビルドアップ

今節の驚きはヴェルディ相手に意図してボールを動かし、チャンスを作れていたこと。
ボール回しに長けているヴェルディを相手に対等にボールを保持できたことはチームが成長している証と言える。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『ヴェルディさん相手にもしっかりとボールを握れてましたし、崩しの部分やラストのクロスの精度、これらの部分も私自身は今日は良かったと思います。』

ポジショナルプレーを行なっている甲府において重要なのは、個で打開できるサイドアタッカーとボールを運べるCBの存在。

ポジショナルプレーについては上記を参考にしていただきたい。
伊藤監督が影響を受けたというマンチェスターシティのグアルディオラ監督による説明が載っている。

個で打開という観点は上記のように左サイドでは作れている。
あとは右サイドでの打開が求められている。
一方でCBがボールを運ぶことに関しては山本、新井、中塩は得意としているが今津や小柳は得意なタイプではなかった。
この2人の成長がビルドアップが上手くいっている要因である。
相手の立ち位置を見ながらパスやスペースがあればボールを運び、前進しながら相手を引き付け空いてるスペースを突いていく。
前進出来なければバックパスでやり直し、相手を誘き寄す。
今節はGKの河田もビルドアップの部分で貢献していたことも大きい。

試合後の河田選手のコメントより。

・ビルドアップにも積極的に参加していました。
『最初は感覚が良くなかったけど、やっていかないと感覚はつかないので。チームのやり方でもあるのでしっかりやりたい。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『河田に関しては去年からプレーを見ているので、しっかり出来ることはわかっていました。怪我とコンディションという部分で苦しいシーズンを送っていますが、久々のゲームの中で90分冷静にビルドアップやシュートストップの部分、本当にミスが少なかったと思います。シーズンの前半戦はしっかりと岡西がゴールマウスを守ってくれていましたが、今後は2人でしっかり切磋琢磨して、チームのゴールに鍵をかけて欲しいと思っています。 』

伊藤監督も河田のビルドアップについて触れているようにミスが少なかった。
相手GKのマテウスは得意としていながらもいくつかミスがあったのに対し、得意とは言えなかった河田の貢献は見事であった。

甲府の狙いとしては最終的にサイドアタッカーに時間とスペースを与え、相手DFを壊す作業をしていくことであり、そのために後方でのパス回しが重要となる。
GKやCBの選手が成長することにより攻撃がより活性化する。

4.最後の質

試合後の泉澤選手のコメントより。

『崩しの部分やビルドアップはうまくいっていたので、最後にネットを揺らすだけだった。最後の質が大事だと思いました。』
『シュートを打てるところで打つことが大事だけど、そこで落ち着いて見ればフリーの選手もいると思う。ペナルティーエリアでの落ち着きも必要。チームとして積み上げてきたものがピッチに表れているので……。最後シュートのところで人生が変わってくると思うので、シュートやラストパスのところを練習からこだわってやりたい。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『最後の最後でヘディングをキーパーに当ててしまうとか、ボレーがキーパーの正面に行ってしまうなどの、「最後の質」の部分、ヴェルディさんは最後の質が上手かったので、我々としてもそういうところを見習いながら次のゲームに繋げていきたいと思います。』
『細部の部分だとは思うのですが、例えばボールをコントロールして右に打つふりをして左に打つとか、目線を変えてノールックでパスを出すとか、スルーして相手の背後へ行くだとか、個人で目の前の相手を外してから打ったりとか、そういったスキルの部分を身に着けていかないといけないと思います。もしかしたら選手全員持っているかもしれません。しかし今出せる状況ではないというのがあるかもしれません。そういった状況で変化に富んだシュートを打つとかなどをやっていかないといけないと思います。相手を外してからシュートを打つとか、キーパーを倒してから冷静になって決めるとか、ペナルティエリアの中の時間の使い方、今我々はペナルティエリアの中で時間が無いというイメージを持ってプレーをしている可能性もあります。ペナルティエリアの中で時間がしっかりあると冷静に判断しながら、「ゴールネットを揺らしていく」ということを、もう一回やっていかないといけないです。ただそうは言ってもゴールネットを揺らす結果を1回出せれば、冷静さだったりとか余裕だったりとかは出てくると思いますので、どうにかゴールネットをこじ開けることによってまた1つレベルアップするのかなと、前線の選手たちにもう一回芽生えさせることをやっていかないといけないと思います。』

泉澤も伊藤監督もコメントしているがビルドアップはできてきた。
崩すこともできてきた。
ドリブルでの仕掛けや背後を突くパスも何本も狙いチャレンジもしていた。
16本のシュートを放ったように足を振る勇気も持てた。
それでも1点が遠かった。

泉澤も伊藤監督も共通して言っているのは冷静さ。
一歩また一歩と成長してきた。
冷静さや遊び心が必要なのかもしれない。

本田圭佑の発言が有名だが、元はイグアインというアルゼンチン人ストライカーがオランダの名ストライカーファンニステルローイから受けたアドバイス。

今も甲府もあとは蓋が開けばゴールを量産できるだけのチャンスを作れている。
蓋が開いた先には大きな成果が待っている。

5.あとがき

またしても引き分け。
これで5戦連続の引き分けとなった。
今日は勝ちきらないといけない試合だったが、マテウスが凄すぎた。
あと一歩だが、その一歩が果てしなく長い。
ただ8試合負けていないことは大事なことであり、昇格圏との差も変わっていない。
今は変革期にある中で我慢の時期となっている。
あと一歩の先には大きな道が開けているはず。
そのあと一歩を次の金沢戦で刻みたい。

MOM マテウス
16本のシュートを浴び、枠内8本のシュートをセーブした。
マテウスがいなければ大量失点をしていたかもしれない。
ビルドアップでミスは見られたが、それを帳消しにするシュートセーブを見せた。

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