馬原虫性脳脊髄炎(EPM)の予後

馬原虫性脳脊髄炎(EPM)は主に Sarcocystis neurona (稀に Neospora hughesi )が馬の中枢神経系に侵入することによって引き起こされる。

S. neurona の終宿主はオポッサムであり、オポッサムは糞便を介して環境中に S. neurona のスポロシストを排出し、馬がそれを摂取することで感染が成立する。
S. neuronaは馬に侵入後、腸管内と全身の血管内皮細胞で増殖し、中枢神経系に至ると考えられているが、その侵入経路は未だ不明である。
なお感染した S. neurona はほとんどの場合、馬の免疫系により排除されるようである。

一般に EPM は慢性的な経過をたどるが、馬によっては急性の神経症状を示すことがあり、罹患馬は虚弱・運動失調・筋委縮・頭部の振戦・沈鬱・顔面神経麻痺などを示す。また、その臨床兆候は S. neurona による中枢神経系の傷害部位により異なる。

EPM に罹患した 症例を紹介する。

症例 (6歳/ベルギー温血種/セン)は EPM と診断され、Rood & Riddle Equine Hospital に入院し、Steve Reed 獣医師の治療を受けた  。

症例の血中からは S. neurona に対する抗体が検出されたが、この結果はオポサッムが生息する地域では珍しいことではなく、報告によると、50~75% の馬に S. neurona の感染歴があるされる。

これはEPM の診断に、血中の抗体価測定は十分ではないことを示す。そのため、血中の抗体が EPM によるものか、S. neurona 感染によるものかの判断には脳脊髄液(CSF)中の抗体検査が実施される。

また 本症例では抗体価の CSF / 血液比も評価され、結果は6.25であった。そのため、本症例は CNS に S. neurona が侵入していることが推察された。

ちなみに他の診断法としては 、S. neurona の表面抗原を用いた ELISA がある。

症例は、重篤な運動失調( Grade 4 )といった臨床兆候を示し、Marquis (ポナズリル)による治療が開始された。

2ヶ月間の治療後、症例の運動失調は Grade 3 に、5ヶ月後には Grade 2 まで改善した。

しかし、この時点で Steveは、Marquis による寛解は困難と考え、Marquis からデコキネート&レバミゾールに治療薬を変更した。

症例はデコキネート&レバミゾールに変更後、臨床症状が悪化したため、治療薬を Marquis に再度変更した。

変更から6週間後、症例は曳き運動やロンジングができるまでには回復した。

治療を促進させるために、Steve は Protazil(ジクラズリル) とビタミン E を Marquis に併用し、8週間後には、 症例の状態は装鞍できるくらいまで回復した。

そのため週一の Protazil(1 mg/kg )以外の投薬を止めた。

次の8週間は症状の改善が続いたが、その後、症例の病態は急変し、再び Grade 4の運動失調を示すようになった。

そして今回は薬物治療の効果もなく、彼は予後不良となった。

Steve は語る。
「FDA認可 EPM 治療薬の効果は約62% と報告されているが、私の経験では約70-75% と考えている。そして、ほとんどの罹患馬は治療後、騎乗運動に戻ることができるとされるが、本症例では期待された効果を得ることができず、オーナーを失望させてしまった」


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