セボフルラン麻酔におけるメデトミジンCRIの臨床有用性

通常、馬の手術時の全身麻酔には、吸入麻酔薬が用いられている。
中でもセボフルランは血液溶解度が低く、
・麻酔導入が迅速
・麻酔深度の調節が容易
・覚醒が円滑 

といった利点を持っている。

その一方、セボフルランは用量依存性に呼吸循環系を抑制することが知られており、麻酔のリスクを高めている。

それゆえ、吸入麻酔薬の必要量を減少させることを目的としたバランス麻酔法
(吸入麻酔薬と麻酔補助薬の併用法)が、応用されている。

一般に、α2アドレナリン受容体作動薬が麻酔補助薬に用いられており、
特にメデトミジンはデトミジンやキシラジンと比較して、
・α2受容体への高い特異性
・ウマにおける半減期が短い
・作用が強力

などといった特性から、CRI に適した薬物と考えられている。


本報告では、関節鏡手術下において
・セボフルラン単独で麻酔維持した群(S 群; n=25)
・セボフルランとメデトミジン CRI を併用して麻酔維持した群(SM 群; n=25)

との間で、セボフルラン必要量、呼吸循環系指標、覚醒の質を比較した。

両群において、メデトミジン(5.0 μg/kg)による鎮静後、
チオペンタールナトリウム(2.0 g)& 5% グアイフェネシン(1,000 ml)の急速静脈内投与により導入、セボフルラン & 酸素(5L/min)により維持を行なった。

SM 群の麻酔維持には、セボフルランに加えて、
メデトミジン CRI(0.05 μg/kg/min)を併用した。

麻酔深度は、眼瞼反射、 眼球位置、眼振、呼吸循環系の反応などのバイタルサインに基づき、評価した。

また両群において、ドブタミンのCRIを実施し、MAP を60~80 mmHg に維持した。

麻酔終了時まで以下の項目を記録した。
・ETSEVO
・HR
・動脈血圧
・ドブタミン投与速度

また馬の全身麻酔において、通常は覚醒前に鎮静薬(主にα2作動薬)を投与する。本報告では、S 群では麻酔終了時にメデトミジンを静脈内投与し、SM 群では麻酔終了時に追加の鎮静剤は投与しなかった。

覚醒は自由起立とし、Gozalo-Marcilla et al の報告に基づき、以下に示すスコアを用いて、覚醒の質と起立に要した時間を記録した。
G5(excellent; 運動失調を伴わず に、1回の試みで円滑に起立)
G4(good;若干の運動失調を伴い、1あるいは2回の試みで起立)
G3(fair; 2回以上の試みで、穏やかに起立)
G2(marginal; 興奮を伴い、2回以上の試みで起立)
G1(poor; 著しい興奮を伴い、負傷に至る)


結果は以下の通りであった。
平均 ETSEVO SM 群: 2.5±0.1 %
        S 群: 2.8±0.1 % ※有意差有

平均 HR SM 群: 28±3 bpm
                 S 群: 28±4 bpm

平均 MAP SM 群: 71±7 mmHg
                    S 群: 67±5 mmHg ※有意差有

平均ドブタミン投与速度 SM 群: 0.55±0.34 μg/kg/min
            S 群: 0.89±0.21 μg/kg/min ※有意差有

起立に要した時間 SM 群: 62±23 分
                            S 群: 64±20 分

また覚醒スコアは、SM 群が S 群に比較して有意に優れていた。


本報告において、メデトミジン CRI はセボフルランの必要量を減少させ、麻酔中の循環抑制を軽減すると同時に、覚醒の質を向上させることが示された。
したがって、本麻酔法は、臨床上有用な麻酔法であると考えられる。


太田稔
「セボフルラン吸入麻酔下のサラブレッド種競走馬における麻酔管理法に関する研究」より抜粋


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