馬の全身麻酔におけるプロポフォールの使用

近年、馬の全身麻酔において、バランス麻酔やマルチモーダル鎮痛の概念が導入されている。

プロポフォール(Pro)は、短時間作用型の注射麻酔薬であり、CRI の速度調節で麻酔深度を容易に調節でき、蓄積が少なく、麻酔からの回復も優れていることから、馬における全身麻酔に利用されている。

今回はプロポフォールを用いた全身麻酔について紹介する。

用法

前投与
メデトミジン 5〜7 μg/kg

導入
ミダゾラム(0.02〜0.06 mg/kg)
ケタミン(1 mg/kg)
プロポフォール(1〜2 mg/kg)

ミダゾラムとケタミンは混注、プロポフォールはミダゾラム+ケタミン投与後、30秒ほど間隔を空けてから投与。

維持(TIVA)
プロポフォール単独(0.14〜0.33 mg/kg/min)

プロポフォール+ケタミン
 Pro(0.12〜0.18 mg/kg/min)
 Ket(0.24〜0.3 mg/kg/hr)

プロポフォール+メデトミジン
 Pro(0.1〜0.11 mg/kg/min)
 Med(3.5 μg/kg/hr)

プロポフォール+ケタミン+メデトミジン
 Pro(0.14 mg/kg/min)
 Ket(1 mg/kg/hr)
 Med(1.25 μg/kg/hr)

プロポフォール+ケタミン+キシラジン
 Pro(0.05 mg/kg/min)
 Ket(1.8 mg/kg/hr)
 Xyl(1 mg/kg/hr)

メデトミジン+リドカイン+ブトルファノール+プロポフォール
 Med(3.5 μg/kg/hr) 
 Lid(3 mg/kg/hr)
 But(24 μg/kg/hr)
 Pro(0.1 mg/kg/min)

維持(PIVA)
セボフルラン+プロポフォール+メデトミジン
 Sevo(1.5〜1.9 %)
 Pro(0.05 mg/kg/min) 
 Med(3 μg/kg/hr)

いずれの方法においても、プロポフォールを用いた全身麻酔は、吸入麻酔薬単独による麻酔と比較して、循環抑制が軽度であり、覚醒が良いと報告されている。

一方でプロポフォールには、呼吸抑制作用、投与時の興奮・パドリングといった副作用が存在する。

全身麻酔の麻酔深度は、正常意識レベルのステージIから深麻酔のステージIVまでの4段階に分けられる。 外科手術に適切な麻酔深度はステージIIIであるが、移行期であるステージIIでは、意識的な運動は消失するものの上位中枢である大脳皮質の抑制的支配が解除されることから、一時的な活動性増加や異常興奮を呈する発揚期が認められることがある。

馬は体格が大きく、薬物分布容積も非常に大きくなることから、プロポフォール投与後に、濃度が十分に上がるまでに時間を要し、発揚期を経過している際に興奮・パドリングが認められるものと推測されている。

この副作用は、麻酔導入前の鎮静薬や筋弛緩薬により軽減される他、高濃度のプロポフォール製剤の使用、急速投与により解決される。

その他に、プロポフォールは鎮痛効果が弱いので、局所麻酔薬や神経ブロック等を併用すべきとの意見もある。

また、0.1 mg/kg/min 以上の CRI 速度は、体内にプロポフォールを蓄積させ、覚醒などに悪影響を与えるといった報告も存在する。

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