見出し画像

洗張りとアイロン

「先生…なんか生地の色が変わりました」

和裁を始めた頃は予算が無かったので、リサイクル店で見つけた古い反物とか、呉服屋さんで長く在庫になっていたお値打ち品を買い求めることがよくありました。最近では私の趣味が和裁だと知っている知人から『もう縫う人が家族の中にいないから』と反物を頂くこともあります。

こういった反物、というか生地って全てそうだと思うんですけど、どんなにきっちり仕舞ってあってもうっすらと塵というか埃というか、そういった類いを集めてしまうんですよね。なので古い反物や、仕立て直しをする反物は「洗い張り」が必要です。要するに洗濯して、その後に生地が縮まないように気をつけて乾かすという工程を加える訳です。

これをやらないと、冒頭のような事が起こります。

反物にアイロンをかけた時、特に蒸気アイロンをかけたとき、かけた部分とそうでない部分にうっすらと線が浮かび上がるのです。佐古先生が、昔、「なんて言うのかな、水がね、ふわぁーって埃とかを浮かせて、その浮いた埃が端に集められたって感じ?上手く言えないんだけど、とにかくそんな感じ」と仰っていました。いえ、先生、よく分かります。ほんっとにふわぁって、際限なく広がっていきますよね…そして誤魔化せない。

今年に入って、カナダで古い反物を仕立てようとした時に、この事態に遭遇しました。久々に古い反物を扱ったので、洗い張りの事をすーっかり忘れていて。襟肩明(えりかたあき)のところにアイロンをかけた時に、あの『ふわぁー』が出ちゃったんですよ。瞬間、血圧が急降下しましたね…目眩をおこす勢いで。

だって、カナダの友人からお話頂いて、彼女が日本に帰った際に反物を実家に送ってもらって、それを母が呉服屋さんに持って行って、胴裏と八掛(裏地です)を用立てて、それを別の友人が日本に立ち寄る際に合わせて彼の滞在するホテルに送り、好意でカナダに持ち帰ってくれた反物だったんですもの!

たーっぷり落ち込んで、でも仕方ないので、実家にまた連絡し、別の友人の好意で反物はまた海を渡り、呉服屋さんに届けられ、洗張りを済ませ、また別の友人の好意で海を渡って帰って来ました。今、その反物は私の手元にあります。ちょっと諸用が立て込んでいて、縫い始めていませんが、今年中には仕立てようと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?