見出し画像

やさしい和裁

着付けにも慣れてきて、少しづつ自信がついた私は次の着物を買おうか迷い始めていた。

当時、私が住んでいたのは人口約3000人の村。村内にあるのはコンビニが2件、小さなスーパーが1件、旅館1件、ガソリンスタンド2件、車修理屋が2件、食堂と飲み屋が数件…という感じ。服を買うには近隣の市まで行く必要があり、そこまで行ったとしてもユニクロすらない。ある程度大きい規模の店に行きたいとなると、釧路まで車で2時間半かけて出かけていく
感じだった。それでも満たされない時は、帯広か旭川まで。

因みに各都市に通じる道路は限られるので、往復する最中に知り合いとすれ違う事がよくあった。当然、道中にあるガソリンスタンドも限られる。とあるガソリンスタンドが給油をしたお客さんに秋刀魚一箱(約20〜25本入り)を無料で配った週末には、村の同僚の約半数が恩恵にあやかり、ちょっとした騒ぎになった。誰も全部すぐには消費できず、かといって冷凍庫にも入りきらず、うち何人かは捌く事もできなかったので。

話を戻すと、ある日同僚と釧路の本屋に行った私は、「やさしい和裁」という書籍を見つけた。手にとって中を見てみると、着物の肌着から浴衣、その他に襦袢の縫い方などが図解つきで説明されていた。なかなかに丁寧。ぱっと見だと何言ってるのかわからないけど、順序立ててやっていけば私にもできそう。下着なら外から見えないし、節約にもなるし…いいんじゃないかな?

そう思ったのが和裁を始めるに至ったきっかけ。あと、村に若者向けの娯楽が皆無、そして一人暮らしなのに無駄に広い公宅をあてがわれていて、部屋が余っていたのも幸いした。縫いかけの生地を出しっぱなしにしていても、誰にも迷惑はかからない。超気楽。手仕事好きだし。やってみよう。

そう思った私は、意気揚々と本を手にしてお会計を済ませに行った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?