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姉の浴衣と死装束

「あら、お姉さん死んじゃってるわよ〜」

私が縫ってきた浴衣を見た佐古先生は、冗談めかしてそう言った。

え、まだしっかり存命中ですけど…

鳩が豆鉄砲をくらったような気分で先生をみつめていると、先生は楽しそうに説明してくれた。

日本のお葬式で亡くなった人に着せる死装束の一つに着物もあり、長襦袢とほぼ同じ作りなのだそう。ただ、縫代の倒し方と着せ方が普通の着物と真逆になるという事だった。

着物を着るときには「左前」が絶対。つまり左側の襟が右側の襟の上になる。これが亡くなった人に着付ける時には逆になり、右側の襟が左側の襟の上になる。其れだけではなく、仕立てる時に縫い代の位置が全て逆方向になるそうで、私はその辺を全く意識しないまま姉の浴衣を縫っていたため、縫い代が死装束仕様になっているとの事だった。

何それ面倒くさい!

と正直思った私をお許しください…。

他にも、縫い目を大きくして仕立てるとか、糸に止め玉を作らないとか、細かい決まりがあるらしい。止め玉を作らないのは、天国に昇って行く時に、罪人がズルして一緒について行こうと袖を掴んで引っ張ったら、糸が抜けて袖と一緒に罪人が地獄に堕ちるようになんだそう。「蜘蛛の糸」と似た世界だなぁ…罪人を振り払うのは駄目だけど、容易に外れる袖を仕込むのはアリなんだ。

この着付けの「左側前が絶対!」というのは、カナダの人にはピンと来ないらしく、着物愛好家の友人が覚えるために語呂合せを編み出していた。

Lift over rice (残り物ごはん)、転じて Lift side over the right side と覚えるらしいです。私はこっちの語呂合せの方がしっくり来なかった。今はちょっと分かるけど。

浴衣の検分を一通り終えた先生は、良くできてるけど、ちょっと細かいところも教えたいから、最初は綿反で単の着物を縫いましょうと仰った。

なので、その「綿反で単」ってなんでしょうか?と私は尋ねた。話がなかなか進まない。

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