【エッセイ】西日とおそ松くん

おはようございます。

あなたは、自分の【はじめてのおつかい】を
覚えているでしょうか。
今回は私のはじめてのおつかいを、
ご紹介致します。

*****

私が小学校1年生の頃。
当時は身長107cmの小柄な小学生だった。

母からのおつかい内容は簡単。
自宅裏の公園を抜けた駄菓子屋にある、煙草の自販機で煙草を買って帰るというシンプルなもの。

30年前だから、当時の煙草自販機は年齢確認機能は付いていない。
近所の友達もよく親に頼まれて、買いに出かけていた。

意気揚々と小銭片手に握って、おつかいへ。
自販機までの道程は、自分の庭の様に慣れた道のためスムーズに進めた。

問題は自販機の前で起こった。

自分の背が低い事と重なり、夕方の西日が煙草自販機の商品ガラスに反射して煙草が良く見えない。
精一杯背伸びをして、煙草を眺めるがオレンジ色にしか見えない。
自販機の前を少しウロウロして過ごした。
見えないものは仕方ないのだ。

やっと西日が移動してくれたのか、少しずつ煙草の内容が見え始めた。
驚愕だった。
煙草をよく眺めるが、全て同じに見えた。

「おそ松くんみたい。」

同じ背丈に、同じ箱。
色は違えど見慣れない、使い慣れない者にしたら一緒だ。
小学1年生のため、mg数も解らない。
味も知らないから、煙草たちの性格も読み取れない。

困り果てて、自販機の前に座り込んでいた。

そこに母の知人が声をかけてくれた。
良く母と話している井戸端おじさん。

その人に事情を説明しようと顔を上げた。
おじさんの眼鏡に西日が反射して、目が見えない。
オレンジ色の眼鏡をかけた、見知ったおじさん。
おじさんの気持ちも読み取れない。

一息ついて、おじさんに事情を説明した。
おじさんから母の好きな銘柄を教えてもらい、無事に買う事が出来た。

時間はかかったけれど、一仕事終えて安堵した。
帰り道も行きと変わらず、スムーズに帰れた。
母に煙草を渡した。

母は激怒した。

同じ銘柄でもmg数やメンソールなどの違いがある事を、母から説明を受けた。
どうも自分は、母が一番苦手なメンソールタイプを買ったらしい。
母に時間がかかったことも含めて、事情を説明した。

母は、今度はおじさんに激怒していた。


何故、おじさんは私に母の嫌いな銘柄を買わせたのだろう。

純粋におじさんも知らなかったのか、
又は間違えて記憶していたのか。

「子どもに煙草なんて買わせるな。」という戒めを込めて買わせたのか。

真相は、おじさんしか知らない。
そんな事を思いながら、西日があたってオレンジ色に染まった自宅の窓の隅に自分の顔が映るのを見つけた。

私は激怒する母をみて、笑っていた。

山中雪子

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