N A T O W A V Eとそれっぽい動画(YouTubeの謎ミーム #6)

最近はYouTubeを見ていても面白いミーム動画に出くわさなくなりました。最近普通の音楽動画とかばっかり見ていたせいでおすすめ動画に変な動画が出てこなくなったのです。仕方がないので今回は、以前から認知はしていたもののそれほど盛り上がっているというほどでもないミームを取り上げます。
これらの動画には「NATOWAVE」というキーワードがあったり無かったり、あるいはミームのフォーマット的にはNATOWAVEと同じだけども全然NATOと関係ないそれっぽい動画だったり、あんまり厳密な形式があるものでもないです。ミームだから当然ですが。
あと、WAVEと名前についているのでわかるようにVaporwaveの派生の系統の末端ですが、音楽ジャンルというわけではないです。BGMには適当な既存の音楽を付けているだけです。Vaporwaveには音楽としての側面とミームとしての側面が両方ありますが、NATOWAVEはミームの側面だけを受け継いだ系統の末裔とみるべきでしょう。
若干危険な匂いもするミームなんですが、製作者の意図や背景があんまりよくわからず、もしかしたらそれほど大した意図はないのかもしれません。


やはりここでもパトリック・ベイトマンが出てくる


JUST THE TWO OF US。とりあえずミームだからミームっぽい音楽を付けとこう、という感じが見えなくもない。ただ夕焼けをバックに飛行するF-14トムキャットは普通に映像として素晴らしい。戦闘機の映像だけでここまで穏やかな気分になる動画を作ってしまうセンスに脱帽。



自衛隊とシティポップを組み合わせようという発想は日本人には出てこないかもしれない

やっぱりトップガンの影響は大きそうだ

なぜBlurなのか





自衛隊と韓国軍。もはやNATOはなんも関係ない

これらの動画ミームとしてのフォーマットは、VHS的なローファイな画質もしくはそれっぽく加工された、戦闘機やさまざまな兵器の映像に、いかにもミーム動画ですと言わんばかりの選曲のBGMが付いているというものです。
実際の兵器の映像がいろいろ使われていますが、どれも演習とかデモンストレーションのようで、実戦の映像は全然ないのが特徴です。ローファイでトロンとした画質と相まって、なんとも緊張感のない、むしろノスタルジックな雰囲気に仕上がっているのが多いです。
戦闘機がただ飛んでるだけだったり、誰もいない野原にミサイルや砲弾を撃ち込む様は、なかなか虚無を感じるものがあり、その映像にミーム世代の喜ぶようなBGMが付くことによって、さらに虚無感を際立たせることに成功しています。なんか初期のVaporwaveやSynthwaveの動画が持っていた虚無感にも近い感じがあります。そういう意味ではミーム動画としては正統派なのかもしれません
あとは時期的にロシア・ウクライナの戦争が始まったり、トップガン・マーヴェリックの映画公開などのイベントがあったので、割とその辺の影響もあるんではないでしょうか。もうみんな忘れているかもしれませんが、ロシアが攻め込んだ時の口実はNATO加入がどうのこうのという話だったはずです。

一応Aesthetics WikiというサイトにこのNATOWAVEについての解説記事があります。

この記事に書いてあることが、動画制作者たちの認識に基づくものなのか、それとも記事を書いた人の独自研究なのかは不明です。まあ所詮ミームですから。
このWikiによると、最初のNATOWAVE動画は、2019年2月19日にSchizo Pilledというユーザーによって投稿された動画だそうです。記事によるとそれはMGMTのLittle Dark AgeをBGMとしていた模様。ということはこのミームは以前書いたLittle Dark Ageのミームとつながる事になります。しかし残念ながらLittle Dark Ageを使った動画は著作権の問題からか日本からは見れないようにされてしまうので、この動画もどんな動画だったのか見れません。

RedditにもNATOWAVEについてのSubRedditがあります。

現在2万人くらいの登録者がいて、思ったより多いですね。
ガイドラインには「Vaporwave、Synthwave、VHS風の動画や画像を投稿してね」と、身もふたもない指示があります。また、「ここは中道右派のコミュニティだよ」というような事も書いてあります。
Aesthetics Wikiにもこのミームの政治的な位置づけについての考察がありますが、基本的には中途半端な立ち位置のような印象を受けます。もしかすると、昔しょうもない炎上を起こした某Waveを上書きするようなミームなのかもしれません。

上で紹介した動画の投稿者の名前を見ると、「gopnik」とか「slav」という文字が目につく人がいます。もしかするとスラブ系のミームとのつながりも何かしらあるのかもしれませんが特にそれ以上の形跡は見つけられませんでした。

このミームにつながるかもしれない他のミームとしてこんなものもあります。YouTubeの関連動画として出てくるので見ている層がかぶっているのかもしれません。


Jörmungandrという投稿者が何年か前から作っている動画で、ほかにも同じようなスタイルの動画を作っている人がいるようです。ミームとしての名前があるのかどうか不明です。
緊迫した感じの効果音に、何とも言えないBGMを乗せることでなんか映画のワンシーンのような物語性を作り出しています。ただ単に既存の素材を組み合わせた動画をアップロードしているだけなのに、なんとなくミームとしてのクリエイティビティが表れているのが面白いところです。

というわけで、NATOWAVEを見ていきましたが、ぶっちゃけのところ色んな兵器の動画を作りたいだけなんじゃないかという気もします。言ってみれば撮り鉄が電車の写真を撮るのと同じような感じで。(撮り鉄も写真の撮り方に厳密なルールがあるらしいので、もしかしたらミームなのかも?)
ミームという枠があることで、とりあえず枠に沿ってさえいれば自分の趣味をただ垂れ流すだけの動画を発表できる。VHS風のエフェクトやSynthwaveやシティポップのBGMは、どっちかというと体裁とか様式のためだけに使われているんでしょう。
何が彼らにこのような動画を作らせる動機となったのか、いまいちよくわかりませんが、それがAestheticというものなんでしょう。