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おじさんにナンパされた話

人生で初めてナンパされた。
ただし、相手はおじさんで、僕もおじさんである。

その日僕は某大手古本屋で目当ての小説を探していたのだが、突然、後ろから「いい本あった?」とおじさん(推定40代)に話しかけられた。
最初はただの変な人だと思っていたので、はあ、とあいまいな返事をするに止め、小説探しに戻ろうとしたのだが、おじさんはそんな僕の態度にもくじけることなく話しかけ続けてきた。

「どんな本を探している?なぜ探している?」
「君は第二次世界大戦について詳しく知っているか?」
「終戦記念日に、ただ習慣として黙祷を捧げる人間は愚かだと思わないか?」
「日本史すき?」
「『信長の野望』やったことある?」

しつこいし、そんなこと聞いてどうすんだよっていう質問ばかりで正直意味不明だった。しかし、一方でこのまま会話を続けていたらどうなんだろうという興味も少しあり、無視はせず、適当に返事をしていた。

しばらくして、おじさんはなんらかの頃合いと判断したのか、
「じゃ、これからどっかで語る?」
と誘ってきた。えっと思い、おじさんの顔を見ると、デートに誘う中学生の陰キャみたいな、ドキドキをこなれ感を出すことで悟られないようにしていますみたいな、絶妙な表情をしている。
僕はここでようやくこれはナンパかもしれないということに気がついた。

いや、妻子持ちなんで、とか、家が遠いからもう帰らなくちゃとか、もしナンパじゃなかったら訳がわからない理由を並べ立ててその場を離れようとしたが、おじさんは食い下がってきた。なにかにつけて「じゃ、語る?」を連呼してくるので問答がしばらく続いたが、結局はとにかく今日は無理!ということで、偶然会ったら語りましょうという条件つきのもとLINEを交換して事なきを得た。

帰り道、「[某大型古本屋] [店舗名] ナンパ」で検索をかけると、おなじような手口でナンパをされた男性の口コミがいくつか見つかり、僕がナンパされていたという疑惑が確信に変わった。あの店はおじさんの狩り場だったのだ。

ただ、不思議なことに感情としてはこわいという気持ちはなく、むしろ、悪い気はしないなと感じているくらいだった。どういう形であるにせよ、僕に目をつけて、つながりを作るためにおじさんがアクションを起こしたというその事実が、不意に自分の承認欲求のようなものを少しだけ満たしたような気がした。
今までナンパについていく人の気持ちとか考えたこともなかったけど、もしかしたら、そういう人は今の僕と似たようなものを感じているのかもしれない。(こんなこと言ったら怒られそう)

なお、その後おじさんは僕を脈なしとみたのか、ネコノミクスの経済効果を示すネット記事を一度LINEに送ってきたきりで、連絡はない。

余談だが、妻にこの話をしたら「あなたはガードが甘い!」と説教されてちょっとおもしろかった。

以上、それなりに自分にとって貴重な体験をしたので備忘として記録に残しておこうと思う。

おわり


おまけの小話を書きました。100円を何かにつかいたくて困っている方、どうぞ

生きられそうです