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まん延防止措置で「酒類提供停止」の告示改正、国会答弁と矛盾 政府「時短より制限の程度小さい」と主張

 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん延防止等重点措置(以下「重点措置」)として、酒類提供の終日停止やカラオケ設備使用の停止を要請・命令できるよう、田村憲久厚労相が4月23日、告示改正を行った
 改正特措法案(2月3日成立、13日施行)の国会審議では、西村康稔経済再生担当大臣は、重点措置では営業時間の変更(短縮)より制限の強い措置はできないと明言し、衆参両院の附帯決議でも確認されていた。
 今回の措置は、居酒屋やカラオケ店にとって事実上の休業要請に等しい。
 実際、この告示改正に基づき、酒類提供終日停止の要請が行われた地域では、居酒屋等が休業に追い込まれている。

酒類提供停止 事実上の禁酒令、神奈川の居酒屋「客来ない」(神奈川新聞)
「まん延防止」 酒類停止「休業」の飲食店 千葉市など12市拡大スタート(東京新聞)

 ところが、4月23日の国会では、政府側が「酒類提供の停止については、営業時間の変更に比較すると私権制限の程度が小さい」と、酒類提供停止などの新措置の導入を正当化する答弁を行っていた。
 今回の告示改正について、京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)は、特措法の委任の範囲を超えて違法の疑いがあるとの見解を示している(参照:重点措置での酒類提供停止は「委任の範囲を超え違法の疑い」 京大の曽我部教授が見解)。

国会答弁

(1)衆議院内閣委員会(2021年2月1日)

山尾志桜里議員(国民民主党)
 端的に伺います。政令を改正してまん延防止措置で休業要請をかけることは法的に可能ですか。

西村康稔大臣
 営業時間の変更よりも私権の制限を小さいものを考えておりますので、休業要請は考えておりません。

山尾議員
 質問にお答えになっていないんですね。
 私が言ったのは、政令を改正して休業要請をかけることは今回の法制度上可能か不可能かと聞いています。
 考えているかどうかではないです。

西村大臣
 代表的に挙げている例が営業時間の変更でありますので、それはできないというふうに考えております。

山尾議員
 そうすると、政令の改正の限界を超えるということですね。
 休業要請をかけることは、政令を改正してもまん延防止措置ではできないということを明確にしていただいたと。
 もう一回確認させてください。

西村大臣
 そのとおりであります。

山尾委員
 では、その上で、事業者に対する措置で、緊急事態宣言ではできるけれども重点措置では政令改正してもできないという措置、休業措置はできないと今伺いました。
 ほかにありますか。

西村大臣
 いわゆる全面的な外出自粛、こういったこともできないものと考えております。

(2)参議院本会議(2021年2月2日)

西村康稔大臣
 まん延防止等重点措置の対象区域の都道府県知事は、期間、区域を定め、措置を講ずる必要があると認める業態の事業者に対して、営業時間の変更等の必要な措置の要請、これに正当な理由がなく応じない場合の命令等をできることとしております。
 これらに加え、政令で入場者の整理や発熱症状を呈している者の入場禁止、従業員に検査を受けることの勧奨など定めることを想定しており、営業時間の変更より私権制限の程度が小さな内容の措置を規定する予定であります

(3)衆議院内閣委員会(2021年2月3日)

西村康稔大臣
 緊急事態宣言の下では休業要請までできますけれども、まん延防止等重点措置では営業時間の変更というものは最も私権の制約が大きいものと考えておりますので、休業要請まではできませんし、それ以上のことを考えているわけではございません。

衆議院附帯決議

四 まん延防止等重点措置の実施に当たっては、緊急事態措置以上に、国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとすること。また、「まん延を防止するために必要な措置」とは、主として営業時間の変更及びみだりに出入りしないことの要請であり、営業時間の変更を超えた休業要請、イベントなどによる施設の使用停止、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)第四十五条第一項と同様の全面的な外出自粛要請等を含めないこと。

五 まん延防止等重点措置においては、国民の自由と権利の制限は必要最小限とすることについて、緊急事態措置における場合より一層配慮すること。また、適用できない「正当な理由」が認められる場合を、具体的なケースを含めガイドラインで明確に示すこと。

(衆議院・新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
※なお、参議院での附帯決議にもほぼ同じ内容が盛り込まれた。

国会質疑文字起こし(4月23日衆議院内閣委員会)

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後藤祐一議員(立憲民主党)
 立憲民主党の後藤祐一でございます。・・・(略)・・・
 まず冒頭ですね、今日、緊急事態宣言が決定されて25日から、大阪・兵庫・京都、そして東京で実施されると決まるということですが、今回、お酒が提供される飲食店に対しては休業要請を行うと、ということでございます。
 これを受けまして、神奈川、千葉、埼玉の知事が昨日テレビ会議をやってですね、この3県でも同じような対応、つまり、お酒を提供する飲食店に対する休業要請が取れるように、制度改正、まん延防止等重点措置の制度改正をするよう政府に要望したと報道されておりますが、今日、内閣官房のなお内閣審議官お越しいだたいてます、急遽お越しいただきすみません。
 現行の新型インフルエンザ特措法上、このまん延防止等重点措置で、お酒を提供する飲食業の休業要請は可能なんでしょうか。

内閣官房内閣審議官
 お答え申し上げます。
 まん延防止等重点措置でございますが、委員ご案内の通り、都道府県知事が、期間区域業態を絞った措置を講じて、感染拡大を抑えるという趣旨でございます。
 都道府県知事が、事業者に対して要請できることはできる具体的な措置といたしましては、法律上、営業時間の変更がございますけども、特措法施行令上で、客に対するマスク着用等の感染防止措置の周知、当該措置を講じない者の入場禁止など定めていることに加えまして、特措法施行令では、厚生労働大臣の告示に具体的措置を委任しておりまして、現状ですと、施設の換気、アクリル板の設置等の飛沫感染防止に効果のある措置を定めてございます。
 今この現状におきましては、酒類の提供の自粛や禁止というのはございませんけれども、専門家からの、感染リスクが高まる場面といたしまして、飲酒を伴う懇談会、懇親会等というのが示されてございます。
 これを踏まえまして、酒類提供の停止について、本日、厚生労働大臣の告示という形で、追加する予定としてございます。

後藤祐一議員
 これ驚きですね。
 この内閣委員会で、附帯決議がございます。
 この特措法改正したときの附帯決議4には、まん延を防止するために必要な措置とは、営業時間の変更を越えた休業要請を含めないこととされていて、実際私が質問で、休業要請含まないですよねと聞いたら、西村大臣は、営業時間の変更を越えた休業要請とか、あるいはイベントなどによる施設の使用停止とか、あるいは45条1項と同様の全面的な外出自粛は含めないこととしております、と明確に答弁しています。
 これ法律違反じゃないですか?

内閣審議官
 お答え申し上げます。
 特措法施行令におきましては、緊急事態宣言時に、都道府県知事が要請できる事項といたしまして、制定当時から、新型インフルエンザ等の感染防止のための必要な措置として、厚生労働大臣が定めて告示するもの、というものを規定してございます。
 これは、発生した新型インフルエンザ等の、性質や感染の状況、発生動向等踏まえて、新たな措置が必要となると、そういった場合に、最新の知見をもとに措置をとることができるというために規定されているものでございます。
 まん延防止等重点措置について申し上げますと、要請できる事項としてはこれと同じような考え方でございますけれども、政令に規定してございまして、専門家から、感染リスクが高まる場面として例示されております、飲酒を伴う懇親会等、これが示されていることを踏まえて、酒類提供の停止と、新たに告示に規定するということにしているものでございます。
 お尋ねの、政令で定める措置でございますが、これ法律で、まん延防止等重点措置につきましては、営業時間の変更がございまして、これよりは私権制限の程度が小さなもの、ということは必要でございます。
 今回、酒類提供の停止については、営業時間の変更に比較すると、私権制限の程度が小さいのではないかと、というふうに考えてございます。

後藤祐一議員
 憲法違反ですよこれ。営業の自由を、制限する。公共の福祉があるかどうか。45条で、緊急事態宣言になるときは、これは必要だということで、緊急事態宣言のもとにおいては休業要請ができる。その時にまん延防止等重点措置においてはできないということを確認しているんです。
 政令以下に受任、授権されてませんよ、休業要請は。
 我々立法府が、政府に委ねた、裁量の範囲を超えてますよ。
 「休業要請はできない」と西村大臣答弁したんですよ。
 飲食を提供する、飲食店において、お酒を提供する飲食店が、お酒が提供できなくなったら、それは休業要請なんじゃないんですか?
 休業要請じゃないんですか?

内閣審議官
 お答え申し上げます。
 ふたつにわけて申し上げますと、緊急事態措置下におきましては、法律上、施設の使用制限ということで休止ができるというふうになってございます。
 今、もしお酒を出さない、出すという場合には、使用制限ということで施設の休止というのは緊急事態宣言下の話でございます。
 対して、まん延防止等重点措置の場合には、ご指摘の通り、施設の休止はございませんので、あくまでお酒を出すことを、停止して欲しいと、そういった要請にとどめるというものでございます。

後藤祐一議員
 日本標準産業分類7651、酒場・ビヤホールは、休業要請になるんじゃないですか?お酒を出せないということは。

内閣審議官
 休業となりますと、それは緊急事態宣言下の話でございます。
 飲食店については、特措法施行令上、11条でございますけども、そちらのほうで緊急事態宣言下におきましては、施設の休業の対象になっているということでございますけれども、まん延防止等重点措置につきましては、施設の休止というのは含まれてございませんので、あくまでお酒を提供しない、という要請でございます。

後藤祐一議員
 神奈川・千葉・埼玉は緊急事態宣言を出すよう要請すればいいんですよ。
 私はそういう見解です、私神奈川ですけども。
 緊急事態宣言になれば酒屋、お酒出すお店はだめですよ、お酒出しちゃ、と。わかります、休業要請できます。
 ですが、酒場・ビヤホールで、お酒を出さないと営業できない形態のお店に対して、休業要請ではなく、違う形で、営業自粛要請ができるんですか?

内閣審議官
 お答え申し上げます。
 まん延防止等重点措置の対象区域でございますので、休業要請という形にはできません。
 できるのは、あくまで特措法施行令で、法律はもちろんですけども、特措法施行令12条に出ております、あ、5条のほうに出ております、列挙されている事項でございまして、その中で、酒類提供の停止というのを、告示に加えるということになりますと、酒類提供の停止だけが、今回の例でいうとできうる措置になるということでございまして、施設の休止というのは含まれないと考えております。

後藤祐一議員
 皆さん、ちょっと今の質疑聞いていて、これは脱法行為ですよ。
 憲法違反ですよ。
 特措法上は、緊急事態宣言を要請すればいいじゃないですか。
 どうしてもまん延防止措置でやるんだったら、今日にでも議員立法出して法律改正してくださいよ、そういう話ですよ。
 こんなズル抜けができるんだったら、法律って何なんですか。
 そんなこと政府に委ねてませんよ、我々は。
 与党の先生方どう思います、これ。おかしいですよ。
 しかもこれ憲法問題だから。
 営業の自由を制限するんだから。
 だめですよこれ。
 脱法行為だと、明確に申し上げます。
 そして、神奈川・千葉・埼玉は緊急事態宣言を要請して、お酒の提供は、24時間止める、休業要請を出すと、これが、本来あるべき法律の運用だと、改めて主張申し上げたい。

(追記)国会質疑文字起こし(4月28日衆議院内閣委員会)

高井崇志議員(国民民主党)
 ・・・まず西村大臣に聞きますが、先ほどから議論になってますけれども、まん延防止措置で休業要請に、事実上同じような、お酒の提供禁止とかカラオケの機器停止、これが告示で行われてるわけですね。
 これは、2月1日の内閣委員会、特措法改正の時に山尾委員がですね、西村大臣に再三確認をしてまん延防止措置で休業要請は法的にできるのかと言って、大臣は2回できないと答えてるわけです。

 しかしですね、やはりこのお酒を出すお店、ノンアルコール出せばいいじゃないかっておっしゃるかもかもしれませんけど、やっぱりあるいは他に料理を出してる店ならそれでもいいですけど、お酒だけを出すお店が世の中にたくさんあるわけですし、あとカラオケですよね。

 これカラオケ店がカラオケできなかったら、これ明らかに休業要請じゃないですか。
 これをですね、営業のやり方の問題で、営業そのものは禁止してないってのは、これも明らかに、詭弁で、明らかに、法を潜脱する、脱法的な告示改正だと思いますけれども、いかがです。

西村康稔大臣
 特措法の規定に基づいてですね、政令において、この感染の防止のため、必要な措置として、厚生労働大臣が定めて公示するもの、という規定に基づいて、今回告示を改正して、酒類の提供停止、あるいはカラオケ設備の使用の停止などですね、措置を取らせていただいたところでありますけれども。

 2月1日ですかね、答弁をさせていただいたとおり、休業要請はまん延防止等重点措置ができないということで私、答弁をさせていただいてます。
 ですので営業時間の変更よりも、私権の制限の程度が小さなものとして、営業そのものを制限するんではなく、営業のやり方に関するこの要請ということでありますので、私ども、議論をし整理をして、このような形で、やり方に関する、営業のやり方に関する要請であるということで、対応可能というふうに判断して、対応させていただいているところでございます。

高井議員
 もう一度聞きますけど、カラオケ店、カラオケをやる目的で営業している店がカラオケ機器、使えない、これはもう営業そのものの規制じゃないですか。

西村大臣
 カラオケ、昼カラオケやスナックなどですね、カラオケを機として、感染が、クラスターがもう数多く発表しているという観点で、カラオケに対する一定の停止が必要だと。
 で、これは、まさに法律上、まん延防止のため、必要な措置として、政令で定める措置ということで、政令において、この感染防止のために必要な措置ということで、規定をされております。

 その上で、営業そのものを制限するのではなく、営業のやり方、カラオケはやめていただいて、その代わりに食事を出すとか、他のサービスを何か提供されるということで、これは可能だというふうに私ども判断をして、このような対応を取らせていただいてるところであります。

高井議員
 どう見ても苦しいですよね、私もしょうがないと思いますよ、カラオケでクラスターが発生するから、それを止めてもらうのはしょうがないんですけど、であればやっぱり、法律できちんとそういう法律にしておかなきゃいけなかったと。

 やはり、それを告示で、しかもこれパブリックコメントもやってませんし、報道発表すらしてないんじゃないんですかね。
 知らないうちにこっそり、告示が改正されて、このような強大な私権の制限が行われるということを、繰り返しますけど、やるなとは言いません。
 法改正で、私はちゃんとやるべきだということを、申し上げておきたいと思います。ぜひ今御検討いただきたいと思います。

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