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冬のまま

「帰り道、家まで送ってくれない、彼はバスで帰るからまだ冬だ」彼女はそう呟いた。

三月七日、二十一時五十三分、通知がなった。明日か明後日、会えないかという内容だった。

何か抱えているものがあるのだろうなと悟った。そしてそれは大きいものであると文面から感じた。

(明日会うことになった。)

朝起きると雪が積もっていた。延期かなと思ったが、ちょっとしたら止んだため、予定は変わらず、十時に地元のパン屋に足を運んだ。

はじめはお互いに髪型、服装を褒め合い、笑みを溢しながらパンを選び、席に着き、パンを口に運んだ。(わたしの髪色を見て、可愛い、この色のお財布が欲しいとそう言った。)

その瞬間は来た。彼女は口を開いた。「○○さん(彼女の恋人)と昨日喧嘩して…」と。何となくそうだろうと構えてきた。まさか本当だったとは。

わたしは彼女の恋人の事はずっと好きではなかった。書き出すと止まらないが、彼女の恋人は彼女の頑張っている姿に興味を持たない。応援をしない。わたしはそこが一番嫌だった。ずっと悔しかった。苦しかった。しかし、彼女にどう伝えたら良いのか分からなかった。きっとその恋人にはわたしの知らない素敵な一面もあるかもしれない。彼女がその恋人と一緒にいる姿を見ると幸せそうだなとそう感じるときもあったから、何言えなかった。伝えられなかった。

しかし、彼女が溢した言葉は別れようか悩んでいるものであった。そこでわたしは伝えた。何故だか涙がぽろぽろと、彼女もぽろぽろと流していた。

お互いに伝え合った。綺麗な言葉ばかりではないし、うまくもまとめられない、それでも必死に伝え合った。

「ここ最近は寒いからと言って帰り道は送ってくれなくなった。寂しい。春になったら、暖かくなったら送るからって言われた。けどまだ送ってもらっていない。もう暖かいのに、。」

わたしはもっと早く伝えれば良かったと思った。そうすればいくらかは寂しい思いをしなくて済んだのだろうか。


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