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若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(1)

トルコのクラシック音楽雑誌「アンダンテ」誌とジャン・チャクムル君との付き合いは長い。コラムへの寄稿は少なくとも2015年(17歳)頃から現在まで続いている。発行人・編集長のセルハン・バリ氏は、チャクムル君のピアニストとしての才能だけでなく、研究家として、また思想家として、あるいはコラムニストとしての才能をそれだけ近くから見つめてきた人物であり、2人の間に知的な信頼関係が築かれていることは間違いないだろう。

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「アンダンテ」誌の第156号(2019年10月号)に掲載されたチャクムル君へのインタビュー記事で、セルハン・バリ氏は彼をこう評している。
「ピアニスト ジャン・チャクムルは、近年のクラシック音楽界において我が国から国際舞台へと登ったもっとも類稀な才能の筆頭に上げられる。〈考えるピアニスト〉という個性をもち、作曲家独自の美学的世界だけではなく作品の精神的次元をも聴衆の目の前に提示して見せることができる点、各音符の陰に横たわる意味を追求する解釈者としての奥行きにより、同世代のピアニストより一歩先を行く(後略)」

両者のこれまでの信頼関係があって初めて成立したとしか考えられないこの第156号掲載のインタビュー記事は、紙面にして優に13ページに及び、要約も言葉の切り貼りも文意の改変も無闇な誇張も施さず、発言をそのまま余すところなく書き留めてあることが十二分に推察できる内容であり、ジャン・チャクムルの人物像、音楽観、音楽家としての哲学を知る上で貴重な資料となっている。

私は直接セルハン・バリ氏に対し、翻訳権の問題についても理解していることを言及した上で、一部記事の日本語への翻訳・紹介の可能性について訊いてみた。

するとバリ氏からは、次のような返事がきた。

そしてこの度、おそらくページ数の都合で割愛せざるを得なかった質疑応答も新たに盛り込んだ、文字数にして4万字に及ぶ完全版が「アンダンテ」誌上に公開された。チャクムル君の言行や音楽家としての評価に注目し続ける私のような者にとっては、待ちに待った大きなご褒美といって差し支えないだろう。

一般公開を機にセルハン・バリ氏の許可を得たうえで全訳を試み、ピアニスト ジャン・チャクムルに関心のあるできるだけ多くの方々とこの場を借りて共有できればと考えている。


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