禍話リライト 哀しき修学旅行

※加藤よしきさんによる語り、それへのかぁなっきさんの相槌を文章に起こしたものです。

(怖い話ではありません)

 

(前話を受けて)

……それで思い出したんですけどね。

一人取り残された人間がね? 

どれだけ不憫な思いをして、しかもその人間がどれだけ勇気を振り絞ったとしてもこんな扱いを受けるのか?

っていう話なんですけど、ちょっといいですか。

 

……これ。僕の実体験で、小学校の修学旅行の時の話なんです。

正直な話、小学校の修学旅行で覚えていることが二つしかなくて。

まず、どこに行ったのかも正直覚えてないんですよ。

例えば京都だったりとか、何かあるじゃないですか。北海道とか東京とか。覚えてないんです。どこに行ったかすら覚えてないんです。何をしたかすら覚えてない。

ただ、二つだけ覚えていることがある。

何回かこの禍話にお邪魔させてもらう度に僕、小学校の頃の話をしてると思うんですけど。

僕の小学校、学級崩壊を起こしていて。皆ハイパーヨーヨーしに学校に来てるんですよ。

僕はそういう行為に馴染めなくて。

(僕はそういうのを)買ってもらえなかったし、そういうこともあって僕は距離を置かざるを得ない状況にあったわけですよ。毎日毎日、図書館で『はだしのゲン』を読んでたわけです。

 

かぁなっきさん(以下『か』)

「『広島カープ応援団物語』とかね」

 

なんであの人(中沢啓治先生)縛りなんですか。

とにかくまあ、そういう感じになってた。

で、そんなメチャメチャな環境にある子供たちが修学旅行に行く。もう大変ですよ。

 

それで、覚えていることの内の一つ目ですよ。

出発時にまず、何かよくわからないけど、バスのフロントガラスが叩き割られるという事件が起きたんです。

 

(か)「え⁉︎『ウォリアーズ』じゃないよね? ウォルター・ヒル監督の。マーシーも大好きな」

※『ウォリアーズ』 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ウォリアーズ_(1979年の映画)

 

『ウォリアーズ』じゃないです。

それは正直、僕も事故だったのか、人がやったのかわからないですけど、ただ人伝に聞いた話ではどうも『岩が飛んできたらしい』と。

 

(か)「嘘つけ! 岩が飛んでこないでしょ(笑) 中止でしょ(笑) え、中止になんない?」

 

だから一瞬、それで『中止にしよう』みたいな話になったんですよ。

でも、何かよくわかんないけど、先生が、

『これは風だ。風に吹かれて落下物が飛んできたんだ』

という風に説明して、代わりのバスが来て停まってましたね。学校の前に停まってたバスが叩き割られたんで。

 

(か)「誰かが投げたんでしょ、石」

 

いや、まあ。『風だよ』って先生が説明したから、風だよ、ってことになって。

 

(か)「『本陣殺人事件』みたいにね。『風がしたことだよ』みたいな」

 

そうそう。

で、それで出発したわけですよ。

僕も正直、出発した後も何も覚えてないんです。小学六年生、もう何十年も前のことですから、何が起きたか全然覚えてないんですけど、その日の夜ですよね。(旅館での)外泊ですよ。

宴会場みたいなところで晩ごはん会みたいなのが開かれて、それが終わった後、寝る前の自由時間になったんですよ。

僕は(図書館で『はだしのゲン』とか)『広島カープ応援団物語』とか読んでた人間だから、別にみんなとワイワイするでもなく歓談したりするわけでもなく、おみやげコーナーにいたんですよ。

おみやげコーナーを見るのが好きで。変なアクセサリーとか、その場所の名産品とか民話集とかあったりして、そういうのを見て楽しんでたわけですよ。

 

で、どこの世界にも『はぐれもの』っているもので。

女の子が一人、同じくおみやげコーナーにいたんですよ。別に仲がいいわけでもないので話すこともなく、お互い距離をとっておみやげコーナーを見てたんです。

 

したら、同級生のすごい悪い子たちの一派が鬼のような形相をしてこっちに来たんです。

で、バッと来て。

(アレ? 何かみんな雰囲気、ヤベエな)

と思ってたら、

『加藤、ちょっと時間稼いでくれ』

みたいなこと言われて。

「え、時間って何? 時間稼いでって何?」

って訊いたら、

『俺ら、ちょっと人集めるから』

って言われたんですよ。

(どういうこと?)って思ってたら、彼らは僕たちの小学校が泊まっているフロアに向かっていって、僕はおみやげコーナーに一人残されたわけです。一人、というか、もう一人女子がいるんですけど。

 

(え、何だ? 人を集める? 時間を稼ぐ? 何?)

と思ってたら。

そしたらそれから数分と経たない内に、ホントに『クローズZERO』みたいな感じに、全然知らない学校の小学生たちが横一列になって来たんですよ。

『ダララララ、ダララッダ、ダララッ……』

みたいな感じで。

(※クローズZERO Into The battle Field 
https://youtu.be/KBY_lctAECc)

 

(アレ、何だ?)

って思ってたら、その中心に立ってる、たぶんリーダー格の男子生徒が、

『オメエ、◯◯小か?』

って(訊いてきた)

「え? まあその、◯◯小ですけれども……。あの、どうしましたか?」

って言ったら。

簡単に言うと、他校の生徒の宴会場に僕らの学校の特にヤンチャな、血気盛んな子たちが行って、何というか、大暴れしたというか、狼藉を働いたらしいんですよ。その(相手の)小学校のことは知らないんですけど。

 

(か)「ヤベエことしたから、むこうがキレて……」

 

ヤベエことしたから。そう、その報復で来てしまった。

 

(か)「来たんだけど、みたいなね。要はそんな言葉じゃないんだけど、報復で来たんですけど、って言ったわけね」

 

って話になって。

(あ、時間を稼ぐっていうのはこれか!)

ってなって。

っていうことは、今時間を稼げって言われたけど、このままステイしていると、まあ僕は当然やられるし、あと、うちの学校の人たちも来てしまう。

 

(か)「そうしたらもっとひどいことに……」

 

もう、おみやげコーナー破壊ですよね。そうなったらもう。最悪ですよね。

 

(か)「大変なことになるよね(笑) 岩どころじゃないね」

 

もう先生呼ばないと。というか、先生どころか下手すると普通に警察沙汰になってしまうし、みんなこの場で捕まってしまう、本当に大変なことになってしまう。

 

(か)「小学生だけどね(笑) 一応、補導される」

 

で、本当に大変なことになる、と思って。

で、どうすればいいんだろうと、僕、思ったんです。どうすれば、どうすれば、って。

で、

『オマエ、◯◯小か。ならオマエ、何か知ってんだろ』

って言われて、

『アイツらどこの階に泊まってるかまでは知らねえから、案内せえや!』

って言われて。呼んでこいや、みたいな感じで言われて。

で、とにかく事態をフラットにしなきゃいけないなと、僕思ったんですよ。とにかく何でもいい、どう思われてもいい、って。

とりあえず、

 

「いや、すいません! 今うちの生徒、皆さんもう、ちょっと黄泉の国に帰ってしまって!」

って言って。

 

(か)「(笑) 下らないこと、適当なこと言ったのね」

 

適当なこと言って。もうとにかく、

「みんな死んじゃって、もういないんですよ! 」

と。

 

(か)「もう、ギャグでね。ギャグで行くしかないと(笑)」

 

もう、

「みなさんにね、みなさんにご迷惑かけたと思うから、今頃地獄とかに行ってちょっと裁かれてると思う」

って言って。適当なことを言ったんですよ。

したら、リーダー格のやつがちょっとウケたんですよ。

 

(か)「まあまあ、そう言うとは思ってないもんね」

 

緊張が極限まで高まってるから。

で、オマエ、何言ってんだって言われたんですけど。

「いやスイマセン! ホンット、スイマセン!」

って感じで謝って、僕。

 

(か)「『ホテル・ルワンダ』じゃん(笑)』

 

「申し訳ない! 本当に申し訳ない! みんな、もう死んじゃってるから! アイツら、本当にしょうもないやつらだから、今頃は地獄で苦しんでますよ!」

って言って。

ホンット、スイマセン! って言ってたら、リーダー格の横にいたNo.2みたいなやつが、

『なんだよコイツ』

みたいな。

『こんなヤツいいから、もう帰ろうよ』

って言い出して。

 

(か)「ああ。でもそれはたぶん、No.2は(加藤さんと同じように、大事にならない内に)終わろうと思ってたから、そういうこと言うんだよね」

 

ああ、そうです。乗っかってくれたんでしょうね。

 

(か)「コイツはそういうことをしたいんだ(と察した)、と。

……小学生だよね? お互いに」

 

小学生です、小学生です。

 

(か)「気ぃ使いすぎだろ! で、それで?」

 

で、(向こうの生徒たちは)それでバァッて引き上げていって。

ああ良かった……。

と思ってたら、今度はうちの連中がブワァッて来て。

そこで、

「(相手は)もう帰ったから!」

って(うちの連中に)言って。

「大したことないやつらだったよ」

みたいな。

「言っても、むこうもそんなやる気じゃなかったから、みんな気にしなくていいよ。この件、これでオシマイ!」

みたいな感じで。

そしたら、うちの学校の偉い人が、

『ふざけんな、こっちはやる気なんだよ!』

と。

 

(か)「こっちの方がバカだ! ってなったわけね」

 

(ヤバい、コイツらもバカだ!)

って思って、

「いやいや、そうじゃないんだよ。しょうもない連中だったから。もう俺が言ったらもうピャーッと逃げる感じで行ったから大丈夫。大丈夫大丈夫!」

って言って。

「そんなやつらと関わったら、それこそしょっぱいことになりますよ!」

みたいな。

 

(か)「おお、なるほどね。まあ、事実、いないわけだからね。来てないわけだ」

 

そう。来てないわけだから。

「もう、いないいない! しょっぱい連中だから、相手にしなくていい! クソみたいな連中!」

って、さっきまで敬語を使ってた相手をボロクソに、もういないから、どうせ二度と会わないしと思って。ワーッて言って。

そしたら、こっち側も途中で誰かがプッて吹き出す感じになっちゃって、

『そっかぁ、そういうことならもういいよ』

って言って帰っていったんです。

で、もう僕の人生的にはたぶんもう、屈指のイベントですよね。

 

(か)「まあちょっと、加藤くんの中のエディ・マーフィが出てしまった、というのかな。そういうことでしょ? 『YOYOYO、やめろYO!』って」

 

そう。『やめろYO! みんな、やめろYO!』って。

で、何とかなって、フゥッ……ってなって。

これでとりあえず、おみやげコーナーは無事だ、と。

確かにいろんな人に笑われたしバカにされたけど、でもこの場所は守り抜いたし、今夜みんなが何事もなく平穏な夜を過ごすことができる。

良かった……、と思ったんですよ。

そしたら、その一部始終を見ていた女の子がいるわけですよね。

 

(か)「ずっといたわけね」

 

その子は、要は僕がワーッと攻めて来た他校の子に(対応してる)ところも見てるし、来た自分の学校の連中に……。

 

(か)「嘘言ったところも見てるし」

 

見てるんですよね。

で、

「ああ、◯◯さん。ゴメン、ちょっと大変なことになってしまったけど、もう大丈夫だから。戻っても大丈夫だと思うよ?」

みたいなことを適当に言ったら。

したら、その子が、

『加藤さぁ、アンタさぁ……』

って言う。

一瞬、何かちょっと、一応、抗争を回避したみたいな感じだから褒めてもらえるのかなと思って。唯一見ててくれた人だから。

そしたらその人から、

 

 

『……アンタさ、ダッサイね』

 

 

って言われて。

(……エッ⁉︎)

って思ってる内に(その女の子は)去っていっちゃったんですよ。

もうね、これだけです。これだけしか覚えてないです、修学旅行は。ショックで、あまりのショックで。

……だからね。一人で頑張っても、通じない時は通じない、って話ですよ。

 

(か)「まあ、わかんない人はわかんないからねぇ……」

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『禍ちゃんねる 百怪忌念スペシャル』(2019年4月13日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/538231091

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:05:30くらいから)

題はドントさんが考えられたものを使用しております。

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禍話リライト 哀しき修学旅行 - 仮置き場 https://venal666.hatenablog.com/entry/2022/02/22/220311

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