禍話リライト 夕方放送

禍話の語り手であるかぁなっきさん。
その高校時代に、同級生の方々が体験したという、何とも不思議な話である。
 
 
現実に存在しない現象に遭遇した、目撃した。
『そう思い込む』
……ということは少なくない。

例えば、幻覚や擦り込み。
或いは、ホラー映画を見た時に恐怖心に煽られ、実際には存在しない場面を実際に見たと思い込んでしまう、というようなこともある。

だが、あくまでそれは主に幼少期、小学生の頃までの話が大半である。
ある程度の、分別のつく歳になると、そのようなことは滅多に起こらなくなるものだ。


……しかし、この話は高校生が二人同時に体験したものだという。
そんな『不思議な話』である。
 
 
そもそも、最初は単なる笑い話だった。
ある朝、教室で友人たちが談笑しているのを見て、何だろうと思い話に加わった時に聞いた話だそうだ。
 
かぁなっきさんの地元であるO県を始めとして、田畑の真ん中を突っ切るような道路を通学路として使用する、ということは地方の学校ではよくあることだ。
交通量の多い車道を避けるため、
『よくそんなルートを見つけたな』
と思うような、そんな裏道を使って登下校する生徒も決して珍しくない。

正にそんな生徒であった、この話の体験者である二人(仮にAさん、Bさんとする)
彼らが昨日の夕方、通学路を通って帰ろうとしていた時のことだという。
(余談だが、禍話の中でもよく言及される『出入口が一つしかない、怪しい団地』そうした場所が近くにあったそうだ)
 
夕方に流れる、児童に帰宅を促すための、行政による放送。
自転車を漕ぐ二人の耳に、その音声が聞こえて来た。
普通、そういう夕方の放送といえば『予め録音しておいたもの』を流すもののはずだ。

だが、その日は何故か『生放送』だった。

その声を聞いた、当時高校生である二人が『お姉さん』と表現したので、話していたのは恐らく二十代後半くらいの若い女性だったのだろう。
そんな、テレビのナレーションのような、原稿を読み上げているかのような。子供たちに帰宅を促す女性の声が聞こえる。
 
 
その内、急な上り坂に差し掛かり、二人が自転車を押して歩いていた時だという。
放送内容を読み上げている途中、ある部分で女性が『噛んでしまった』のだ。
 
 
慌てて言い直そうとしているが、いわゆる『噛み癖』がついてしまったか、女性は二度目でも同じ場所で噛んでしまった。

『……噛むのかよ!』

二人はまるでコントのように、押している自転車ごとズッコケるマネをしてツッコミを入れた。
あくまでその場のノリ、二人にしかわからない笑いである。
 
あたりはだんだんと薄暗くなってきている。
誰かに見られていたとも思えないし、周囲には他に誰もいない。

それなのに。
倒れた自転車を起こし、また歩き始めた二人の耳に、女性がまるで照れ隠しのように笑いながら言う声が聞こえたのだという。
 
 
『もう! 真面目にやってるんだから! そんなことしないでください!』
 
 
明らかに自分たちに向けて喋っていた。
その時は二人とも、
(おっと、見られてたのか!)
そう考え、そのまま帰ったのだという。
 
 
いつもと違う夕方放送の中で、話している女性が噛んでしまい、それに対して笑っていたら向こうが反応を示した。
AとBが仲間に披露していたのはそんな内容の話だった。

そうしてケラケラ笑う二人に対し、話を聞いたかぁなっきさんを始めとする友人たちは次第に表情が曇っていく。
「……え、おかしくね?」
「いや、お前ら。おかしいだろ」
「……何が?」
キョトンとする二人に、皆がその話の奇妙な点について説明を始めた。
 
 
まず、第一に。
その手の夕方放送というのは概ね、事前に録音しておいたものを決まった時刻に自動で流す、という仕組みである。
仮に何かの事情で音声が新しいものに、話し手が新しい人に変わったのだとしても、事前に録音したものを流すわけだから、彼らが聞いたようにぶっつけ本番で生放送のような形では普通やるはずがない。
 
それに、その手の放送を流しているのは役場や警察署にある放送室のような場所だろう。
どこかにそういう放送を行うための建物があって、そこから自分たちを見ていたのだろうと、二人はそう考えていたのだが、確認してみたところ通学路の近辺にはその手の施設は存在しなかった。

さらに言えば、今から二十年ほど前の、地方の田園地帯の話である。そんな場所に監視カメラがあったとも考えにくい。
つまり、常識的に考えられる形で、誰かが二人の様子を見ていたとは思えないのだ。
 
「……勘違いなんじゃないの?」
そんな友人の言葉に対し、確かに聞いた、あの放送は間違いなく自分たちに向けて喋っていたと、二人は頑なに主張する。

というのも、実は彼らの聞いた内容は、実はそれだけではなかったからだ。
 
 
『もう! ボクたち!』
 
 
そんなに笑わないでと注意される前、確かにそのように呼びかけられたのだという。

というか、正確には、
『そこの高校生のボクたち!』
と、もっとハッキリと自分たちのことだとわかるような呼びかけをされたのだそうだ。

先述したように、声の様子から喋っているのは二十代後半くらいの女性だと二人は感じた。
それくらいの女性が『ボクたち』と呼び掛けるのならば自分より年下。恐らく未成年の男子に向けて、と考えるのが道理だ。
 
(となれば。例えば放送室内に同僚の男性がいて、彼に向けて照れ隠しで言った内容が放送されてしまった。そんな可能性も低い、と言えるだろう)

 
(……また、これは筆者である自分の考えなのだが。

警察署や役場なら迷子の子供を預かることもあるだろう。
その預かった子供がはしゃいでいるのを注意する際の声、それが流れてしまったのではないか。
この話を聞いた際、そう思ったのだが。
そういう場合、万一に備えて職員がその子をちゃんと監視しているものだろう。
迷子を預かるための部屋で、担当の職員と一緒にいるはずであり、勝手にそこを抜け出して放送室まで勝手に向かおうものなら、途中で職員に注意されたり止められたりするのではないのかと思うのだ。
それに、それでは友人たちの聞いた『高校生のボクたち』という言葉の説明がつかないわけだ)

 
……ともあれ。
明らかにその言葉が自分たちに向けられたものだったため、二人は彼女はどこかから自分たちを見ているのだと思ったわけだ。
しかし、当時の状況から推測すると、その女性が二人の様子を見ていたとはどうしても考えられないのである。
 
 
高校卒業後、同窓会で二人と再会した時にもこの話題が出たそうだ。
二人はその時も見間違いや幻覚や幻聴の類ではないと強く主張した。
何しろ、ズッコケた時に片方の自転車のリム部分が折れてしまい、修理する羽目になったというのだ。それを確かに記憶しているというのだから、絶対に何かの勘違いなどではないと二人は主張する。
 
 
あれはいったい何だったのか、未だに全くわからないままだそうだ。
 
 
10月10日はかぁなっきさん、余寒さんのお誕生日です


この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『ザ・禍話 第十八夜』(2020年7月18日)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/629180678
から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:06:45くらいから)
題はドントさんが考えられたものを使用しております。
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禍話リライト 夕方放送
https://venal666.hatenablog.com/entry/2022/10/10/182317

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