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カラオケの1曲目 なにうたう?

カラオケに行けてなくて久しい。最後の記憶は渋谷のカラオケ酒場でカラオケモンスターの友人と明け方まで熱唱したコロナ前のあの日だろうか(3人の若い女性客が帝銀事件よろしく朽ち果てていた)。多いときは週5でカラオケを楽しんでいた自分としてはシャワカラしか出来ず悶々とした日々が続いたので、いよいよ妄想カラオケに踏み切るかと筆をとった。カラオケを愛するすべての人のご健康とご多幸を祈りつつ。

Majiで考えるべきカラオケの1ターン目

カラオケの1ターン目ほど難しいものはない。1ターン目でその後の人生は決まる。たとえば合コンの3次会を想像してほしい。みんなでカラオケ、もしもここで1曲目にSOUL'd OUT『ウェカピポ』を歌い始める人がいたらどう思う?

私個人としては大爆笑してその人が2曲目に何を選ぶのか期待に胸を膨らませること請け合いであるが、一方この流れで自分が1ターン目になにを歌うのかはかなり悩ましい。ここに続いていくとなると、世代的に行くならKREVA『音色』がぱっと思い浮かぶが、まだ「カラオケ自己紹介」できていない状況からの『音色』は少しナルシストな感じがする。くるり『琥珀色の街、上海蟹の朝』も最近の邦楽だって聞いてますよという名刺交換にはなるけど、まだこのタイミングじゃない気もする。ケツメイシ『夏の思い出』あたりが安全牌な気もするが、あまりに安全牌か。カラオケのマシンを確認してJOYSOUNDだと気づいたならば、私はRIP SLYME『熱帯夜』をチョイスするだろう。なぜか?DAMには『熱帯夜』のMVが入っていないが、JOYSOUNDであれば『熱帯夜』のMVが入っている。そして『熱帯夜』は非常にクールなサウンドであり、MVが非常にセクシーなものだからだ。

カラオケとは「コミュニケーション」である

目は口ほどに物を言うと昔の人は言ったもんだが、カラオケはコミュニケーション力を現すものだと私は思っている。「私は、こういう音楽が好きです」「あなたは、そういう音楽が好きなんですね」「だとしたら、こんな音楽はいかがですか?」を繰り返していく高度なゲームであり、高度なコミュニケーションだ。レベルの高いスナックに行ってみると、DJのバックトゥバックのようなものが日々繰り広げられている。常連さんたち(フロア)の好きそうな感じを履歴から調べつつ、今起きている流れも確認。さらにカウンターのママを味方につけないといけない。仮にフロアが60代以上が多いなという印象のスナックであるなら、ひとまず初手は中村雅俊『俺たちの旅』『あゝ青春』あたりは個人的な経験から間違いないと踏んでいる。中村雅俊を悪く言うママはたぶんこの世にいない。

歌い終わると「兄ちゃん若いのによく知っているな」という話にだいたいなる。ここからはまさにコミュニケーションの醍醐味である。主題歌となったドラマの話をするもよし、それぞれの作曲家(小椋佳・吉田拓郎)の話をするもよし、「あゝ青春」がカラオケではトランザム版が無く吉田拓郎版か中村雅俊版しかないので原曲に近い中村雅俊版を歌ったとか。こういう話をしていると、どこかで誰かの琴線に引っかかって(だいたい吉田拓郎ファンが声かけてくる)、拓郎の流れが出来ていくか、フォークソングの流れになる。自分の歌った1曲から流れができて、みんなで和気藹々する。これこそがカラオケの魅力だ。

カラオケで大切なのは「自分の領域を広げること」

普通の自己紹介と違って「カラオケ自己紹介」は非常に自己分析が求められる。と言うのも、人は思っている以上に他人の容姿や職業、話し方をもとに「この人はこんな音楽を歌いそう」とステレオタイプを抱くことが多いからだ。で、大体このステレオタイプはあまり外れない。やっぱりあなたは椎名林檎を歌うんですね、というケースに何百回出くわしたことか。

しかし、こうしたステレオタイプのジレンマは、実は自分で自分の領域を狭めているから発生するのではないか、と考えている。カラオケでは往々にして「外さない曲(定番曲)」みたいなのがある。だいたいそれを歌っていればあまり交流のない人とのカラオケでも大きく間違えることはない。そこそこ盛り上がる。でも、私は声を大にして聞きたい。「その曲を歌うあなたは、本当にあなたですか?」と。別にマイナーな曲を歌えというわけではなく、場の空気を壊さないように選曲しているのだとしたら、それはあまりにもったいない。空気を読みつつ、その中で自分の歌いたい曲を歌う。上手にわがままに歌う姿こそ、人間の、カラオケの本懐だと思う。ちなみにこうした流れで私が歌う曲はMark Ronson『Uptown Funk ft. Bruno Mars』Jamiroquai『Virtual Insanity』

お堅そうな会社に務めるメガネをかけたナード丸出しな男がこれらを歌うと大体盛り上がる。この曲のおかげで仕事をゲットすることもできたし、被災地のフィリピンパブでも「マエストロ」と呼ばれて皆で歌い明かす夜もあった。人は他者にステレオタイプを抱くが、そのステレオタイプが崩された瞬間が一番楽しい。

自分はどう見られているか、そんな自分が何を歌うとギャップが生まれるか、どの曲であればフロアのみんなはわかってくれるか。そしてもちろん、その歌は本当に歌いたい曲か。

皆さん、コロナが落ち着いたらカラオケの1曲目、なにをうたいますか?

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