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NXTの未来を勝手に案じて

WWEが誇る利益度外視の治外法権エリアことNXT。トリプルH、リーガル卿を中心に優秀なスタッフとコーチが集結。大企業WWEの資金をジャブジャブ使いながらメジャー、インディ、国籍問わず世界中の優秀なプロレスラーをリサーチ、獲得。リングでドリームマッチをお届けする夢のようなブランド。が!この度ビンスマクマホン御大の意向によって大幅リニューアルするとのこと。今後は初期NXTのコンセプトに近づけた育成ブランドとして再始動するらしい。

直近のニュースの中でもコレは個人的になかなかショックな出来事だったので今回は忘備録として簡単に現在までのNXTブランドの歩みを振り返り、今秋よりビンス・マクマホン御大がメスを入れて何を目指したいか。を、勝手ながら整理して考えてみます。

① 2009年〜若手育成番組NXTの始まり。

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NXTはコーチとほぼ無名の新人レスラーを組ませて毎週あらゆるチャレンジをしながら優勝者=WWEデビューを目指す発掘オーディション番組として2009年に開始。

シーズン1の優勝者はウェイド・バレットに決まるも脱落者含め一期生がNEXUSというユニットを発足。メインロスターを襲撃。脅威の新人軍団が突如としてWWEに侵略を仕掛けるというストーリーに発展。衝撃的な展開でカンフル剤としては大いに機能したものの、NXTの当初のゴールとは全く違う形に。その後二期生、三期生とシーズンを重ねる中で徐々にコンセプトも破綻。シーズン4、5辺りではファンダンゴでお馴染みのジョニー・カーティスやEC3になる前のデリック・ベイトマン等若手がRAW本放送前辺りでストーリーと試合を繰り広げる前座番組に変貌。ここで一旦、打ち切りとなる。

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リニューアルしたNXTはダスティ・ローデスやリーガル卿の指導の元、パフォーマンスセンターでレスラーを育てながらフルセイル大学で収録、WWEネットワークでの配信放送として姿を変える。旧OVWや旧FCWの収録の延長線のような位置付けで育成中の若手が試合する場としてリスタートした新NXTだったが、ストーリーの結末があやふやなままメインロスター昇格するレスラーもいたり、あくまで誰しもが「早くメインロスターに行きたい。」自分を磨くための場所として機能していた記憶があり、そんなに面白くはなかったような。。正直この頃はあまり熱心には見れていませんでした。。

② 2014年〜 NXT5の台頭

NXTも2014年からWWEネットワークの中で特番TAKE OVERシリーズを導入。徐々にメインロスターの番組のようにしっかりとしたストーリー展開が出来るようになります。ドラマの中でそれぞれの成長を表現する手法は当初のオーディション形式の育成番組よりも見やすいものでした。

特にサミ・ゼインとネヴィルのNXT王座を巡る一連の物語は2人をNXTの象徴に成長させました。そんな中、更に拍車をかけるようにヒデオ・イタミ。ケビン・オーウェンズ。フィン・ベイラー。と、WWEの外で既に成功を収めたり支持を集めてきたの3人の猛者がNXTに加入。

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NXT5と呼ばれる5人が揃ったことで徐々にマニア層が毎週チェックする番組となっていきます。ダスティ・ローデス亡き後にトリプルHが更なるテコ入れとして考えたのはWWE内における第3ブランドとしての確立でした。

③ 2015年〜 バランスの良い新陳代謝

その後もサモア・ジョーの加入、中邑真輔、アスカの加入、ととてつもない勢いで有名レスラーがNXTに参戦。

ビッグネームがRAWやスマックダウンではなくNXTでデビューをさせるのは急にメインロスターにアジャストさせるのは酷なので先ずはある程度自由に試合をさせて魅力を出させてから徐々にWWE流スタイルに慣れてもらう。という理由と言われていますが、恐らく先に根強いファンを付けさせてからメインロスターに登場させることでビンスマクマホンや重役陣に「凄いレスラーを獲得して送り出した。NXTは順調なブランドだ。」と評価を貰うことがトリプルHの打算だったように思います。

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また、新陳代謝を維持して番組の主役がシーズナリーで入れ替わる施策も成功。長く留まる者はブランドの地固めへの貢献。巣立たせる者にはNXTファンのサポートを背にメインロスターでデビュー。と、それぞれNXTブランドと共に成長していく姿を見せてくれました。同時にシャーロット、サーシャ・バンクス、ベイリー、ベッキー・リンチの4人からなる4フォースウィメンのメインロスターでの活躍もあり、恐らくビンス・マクマホンのこの頃のNXTに対する評価が現時点までのNXTのピークだったのでないでしょうか。

そして外から獲得するトップレスラーだけでなく新たなタッグチームや、インディで活躍する若手を積極的に加入、育成していくことでブランドの地固めは盤石になっていきます。

④2016〜 夢のプロレス団体 NXT

この辺りからNXTはWWE内の別団体ともいうべき治外法権エリアと化します。トリプルHの中のプロレスイズム、プロデュース論が完全に発揮されることで数々の傑作試合が誕生。ジョニー・ガルガノとトマソ・チャンパのタッグチームDIYがリバイバルと重ねた名試合、抗争等、メインロスターでは見れそうにない試合やリアルなドラマによってファンもメインロスターのための育成要素よりも「理想のプロレス団体」としてNXTを見るようになります。

その後もロデリック・ストロング、リコシェ、アリスター・ブラック、アダム・コール、カイル・オライリー、ボビー・フィッシュ等、インディや日本マット経験者を根こそぎ獲得することでその流れは更に加速。

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特番TAKE OVERシリーズは毎回マッチオブザイヤー候補が生まれるような名シリーズと化し、米プロレスファンが注目するのは、新日本プロレス、PWG、NXT(WWEではなく)と言われるほどにプロレスファンのホットトピックとなったNXT。その熱狂ぶりにはこの繁栄の先にWWE、そしてプロレス界の未来はあると誰もが信じて疑いませんでした。

また、2018年にはNXT UKというイギリス、ヨーロッパで新たに加熱しているプロレスシーンに特化したNXTの新ブランドも番組として本格始動。第1世代のスターとしてブリティッシュストロングスタイルの3人を始め、新日本プロレスと競うように新たなレスラーの獲得に乗り出します。

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この頃WWEは世界中にローカルNXTを発足させることを意図していたと言われており、トリプルHはプロレス界自体をもテイクオーバーする勢いを生み出しました。

⑤ 2019年〜 夢の完成/競合との闘い

2019年上半期。トリプルHが長年夢見たプロレスの完成形が思わぬ形で産まれます。NXT王者であったトマソ・チャンパの王座返上によって実現したジョニー・ガルガノとアダム・コールのNXT王座戦は誰が見てもわかる勧善懲悪かつスリリングな試合となり、その後の再戦も含めた一連の抗争は「夢のプロレス団体」としてのNXTの集大成とも言える代表作となりました。

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同じく2019年、兼ねてより噂されていた新団体AEWが発足し、秋よりレギュラー番組Dynamiteの放送を開始。WWEはWCW以来の脅威となり得るAEWの新番組の放送にNXTの放送をぶつけることを決意。NXTもAEW Dynamiteと同尺の2時間番組に拡大。10月2日から水曜テレビ戦争と言われた視聴率競争が開戦。結果としてNXTは視聴率では負け続けることになります。

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「完成形」を経た後に視聴率戦争に駆り出されたNXTは視聴率を気にすることでメインロスターへのスターの輩出が鈍化。番組尺も2時間に変更したことで新しいスターは獲得してもNXTでのトップスターは殆どメインロスターへは送り出せない状態に陥ります。恐らくこのタイミングから「視聴率でも勝てず、RAWやスマックダウンへ新しいスターを輩出しないNXTは一体どうなっているんだ。」というフラストレーションがビンス・マクマホンにはあったのではないでしょうか。2021年、約1年半続いた視聴率戦争はNXTが放送日を変更することで終わりを告げます。

そして2021年夏、NXTロスターを含めたWWEの大量解雇。アダムコールの離脱など耳に痛いニュースが続く中、NXTはビンス・マクマホンも関わることで大幅なリニューアルを噂されています。「理想のプロレス団体」としてトリプルHが紡ぎ続けたNXTはここで一旦の終焉を迎えることになります。


⑥ビンス・マクマホンの理想のNXT

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ビンス自らメスを入れる改造計画によってNXTはどう変わるのかは今後を見守らないとハッキリしませんが、これまでWWEを振り返ることでビンスがどう見てきたかを考えることで推測できるような気がします。

■ハルク・ホーガン期

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やはりこの時代の成功がビンスのビジネスとしてのプロレス論を1番形成している?超人的な体格や筋肉にダイナミックなキャラクター。お茶の間に最も浸透させやすい主役像というビンスの理想形で作り上げた王朝。

■ニュージェレーション期

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ブレット・ハートを主役として、またそれを追い掛けるショーン・マイケルズの2人を中心に沿えたものの、恐らくビンスのプロレス観には最も則していない時期だったのでは。複数スター制にした辺りにも半信半疑や迷いを最も感じる時期。※WWE史の中でトリプルHがサンプリングして使いたい要素はショーンマイケルズが活躍したこの時代?

■アティチュード期

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ストーンコールドの爆発的人気こそビンスの中で「体のサイズは別として魅力があるものは売れる。」が腑に落ちた代表例。恐らくビンスの中でも数十年に一人の例外だったのではないか。また、同時に高身長でサラブレッドのザ・ロックの台頭もあり、ホーガン期以来の2度目の成功を実感した時期。

■ルースレスアグレッション期

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ストーンコールド退団、ザ・ロックの映画界進出によって突如終わった前期から一転。基本方針であるビッグマンを主役にしたコンセプトでレスナー、バティスタ、シナ、オートンをそれぞれ順に主役として育成。特に長きに渡って貢献したシナにはホーガン以降初めて自分のプロレス論に則した上での現在形のプロレスラーを生み出せたという実感があるのでは。

■シールド三銃士~現在形

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ファンの多様化も意識した全く素養の違う3人をスターにしながらも恐らく最初からロマン・レインズ一択でビンスは見てきたように思う。現在のロマン・レインズにどれだけ満足をしているかはわからないものの、この次の主役をビンスは探しているはず。


■その他世界王座戴冠レスラーについて
ディーゼル、トリプルH、カート・アングル、クリス・ジェリコ、エディ・ゲレロ、エッジ、CMパンク、ダニエル・ブライアン、AJスタイルズ...etc。名を挙げるとキリがないがWWEの主役としては君臨せず(シーズナリーや次世代育成中に一時的に主役の役回りを努めることはある。別格アンダーテイカーはファシリティレベルの存在なので除外)世界王座を巻いたレスラーは多数いるものの、ホーガン体制を築いた後のビンスはこういったレスラーに関してはそれぞれの時代にお気に入りも勿論いるものの、売り出してきたり台頭してきた者にその都度チャンスを与え、結果を出してくれた。という功労者的な認識を持っているイメージがあります。

と、超主観的に御大の視点を想像してみるとトリプルHが育てたレスラーはビンス視点では常に「その他のレスラー」で一時的に世界王座を任せることが出来ても、ワークホースとして会社に貢献してくれても主役には不向き。という認識だったのではないか。そしてビンスがNXTをリニューアルすることで求めているのは次代の主役に相応しいレスラーの発掘なのではないか。


⑦最後に

長々浅い推測を書いてしまいましたが、書きながら後半でな、ぜ、か、手塚治虫を思い出しました。手塚治虫が誇りを持って送り出した鉄腕アトムやジャングル大帝よりも本人が「アニメーションを作る金のために書いた。失敗作だった。」と称する読み切り短編の劇画タッチなホラーやSF、サスペンスってメチャクチャに面白かったりするんですよね。

同様に、ビンス・マクマホン本人の意図とファンの評価が反比例するタイミングもWWE史では何度もあったように思います。

ビンスが自信をもってピックアップしたスターが活躍する時代もあれば、迷いながら選んだレスラー思わぬ活躍やファンの支持を得た時代もあり、その紆余曲折の歴史こそがWWEを豊かにしてきたのだと感じます。

また、プロレス自体が興行であり完結しない大河ドラマ、ナマモノであることを考えると「永遠に完成を迎えない」からこそマクマホン御大は未だに涸渇感を持って次世代の主役となるスーパースターをずっと探し続けているのでしょう。そしてトリプルHは己の手腕と人望で早期に「理想のプロレス団体」を完成させてしまったことで一時的ではあってもクリエイター、プロデューサーとして満たされてしまったんだと思います。この辺り、天下のトリプルHと言えどもやはりまだまだビンス・マクマホンに見習う部分があるのかもしれません。

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と、締めくくりたかったのですが、新NXTはこれまでと同様にオペレーションはトリプルH達が引き続き担当しつつもビンスがこれまでよりも影響力を持つ体制になる。という続報を目にしました。

恐らく新しい体制のNXTでトリプルHが求められている動きは「職業作家」としてビンスの期待に応えること。治外法権下ではなく、RAWやスマックダウンにいる構成作家たちと同種もしくは近いプレッシャーを受けながら新しいNXTを創るのでしょう。受けるモノを創るのがWWE流のクリエイティブ。(良いものを創るのがAEW流のクリエイティブ)。だとすればステータスや高給だけでなく、充実感や労働環境をより重視する現代からすれば、AEWが魅力的な場所というのも頷けます。

ただ、トリプルHとそのチルドレンであるNXT所属レスラー達には、抑圧があることで爆発するクリエイティビティを信じて、ニーズに応えつつも、自分たちの理想も折り込んで是非奮闘して欲しいと思います。




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