憂いを帯びたディストーションから崩壊系FUZZまで――OBNE Alph Haunt Fuzzレビュー
最近のエフェクターのトレンドといえば、やっぱり「再現」系ですよね。
最近でいえば、Wren and Cuffからトライアングル期のレアなビッグマフのコピーが発売されました(されるようです?)。
上述のビッグマフ・コピーは、トライアングル期のV1、2nd Editionにあたる個体……だそうです。
きっとこの売り文句がぶっ刺さる人が一定いるのでしょう。
ビンテージビッグマフにことさらの興味を持てない私にはちんぷんかんぷんですが。
どんどん、ハイコンテクストになってきていると感じる今日この頃です。
複雑な文脈(ここではマフの歴史)を共通認識として持ってないと楽しめないっていうのは、なんとも内向きな気がしてしまいます。
まぁ、私の感想ですけど。
そんななか、私の大好きなOld Blood Noise Endeavorsはやっぱり一味違いました。
Alpha Haunt Fuzz、コレですね。
輸入代理店のHPの売り文句、少し長いですが、引用してみましょう。
まさかのポエム。
ちなみに、そのほかの商品説明の中でも、マフ、トーンベンダー、ファズフェイスなんて言葉は一切出てきません。
というわけで、Old Blood Noise Endeavorsの安易なコピーをせず自分たちの音で勝負しようとする姿勢にほれ込んで、買ってしまいました、Alpha Haunt Fuzz。
Old Blood Noise EndeavorsはDark Star Pad Reverbに引き続いてふたつ目ですね。
Dark Starに関しては、ここにレビューしています。
いずれにしても、「これがオレたちのかっこいい音なんだ!」っていうメーカーの主張が非常に強いエフェクターだと感じました。
Reverbのデモ。
これがOBNEが出しているテクニカル・デモ。
日本語字幕がそこそこ機能します。
Dark Star同様、これらのデモが刺さった人は買いだと思います。
また、以下のOmokageという曲のBASS VIに全編を通してAlpha Hauntを用いており、クリーントーンはベース側のボリュームを絞ったりして作っています。
参考になるかもなので貼っておきますね。
ちなみに、ギターでもベースでもどっちでもOKだとは思いますが、ギターの方がいろいろなコントロールが使いやすいかもしれません。
エフェクターとしての素性
とはいえ、まずどんなエフェクター、ファズなのかを書かないわけにはいきません。
ただし、OBNEも発表していないので、○○系とは言い難く、回路をみてもわからず、ビンテージファズに造詣が深いわけでもないので、音を聞いてもわかりません。
なんもわかんねぇ。
が、
「多くの選択肢を提供しつつ、OBNEらしいどこかダークで憂いを帯びたオルタナティヴな響きは完全に貫かれています」
という一言に間違いはないと感じます。
とりあえず、ダークで憂いのあるファズにクリーン(?)な音を付け足すことのできるEnhanceというつまみがあり、その後段に3バンドのEQがついているというのが、私にできる精一杯の説明でしょうか。
というわけで、次はコントロールに移りましょう。
つまみが6つ、セレクターが3つ、スライダーが3つ
多いぞ……。
アンチ・ノブ多い歪み党の構成員の私にはキツい。
つまみはファズ、ゲート、トーン、ファズのボリューム、クリーン(?)音のボリューム(Enhance)、そしてマスターボリュームですね。
セレクターはバイアス、ディストーション、LPF(ローパスフィルター)の3つ。
スライダーは3バンドEQですね。
あまりに多く、一つ一つを説明していくとアレなので動作の面から整理していきましょう。
コントロールを詳しく知りたい人以外はすっ飛ばして大丈夫です。
公式で書いてあるように、相互に影響しあうコントロールなんで難しいんですよね……。
まず歪み
歪みは、ファズのつまみとディストーションのセレクターの2つでコントロールします。
これは簡単で、ファズのつまみで歪み、ディストーションのセレクターを右にすればより歪みが深くなります。
ちなみに、ディストーションのセレクターを左(歪みにくい方)にして、ファズを0にしても、完全なクリーントーンにはなりません。
また、ファズのボリュームで歪みの音量だけをコントロールできます。
ブチブチ感
ブチブチ感のコントロールはゲートのつまみ、バイアスとLPFのセレクター。
ゲートのつまみは簡単で、右に回すほどブチブチします。
当たり前なのかもしれませんが、歪みが深くなるほど、ブチブチしやすくなります。
バイアスのセレクターも簡単で、左にすればブチブチ、右にすればよりディストーションっぽくなります。
問題はLPFのセレクターで、左、真ん中、右の3点なのですが、真ん中にするとLPFがカットされてよりレンジが広くなり、ブチブチ感も薄れます。
LPFの左右は、次項。
トーンコントロール
トーンは、トーンのつまみ、LPFのセレクターの2つでコントロール。
LPFのセレクターを右にすると、トーンのつまみは一般的な変化、ハイのキラキラ感の上げ下げになります。
LPFセレクターを左にすると、トーンつまみはより明るいサウンドを保ちつつ、ハイミッド当たりを上げ下げするような印象になります。
注意すべきは、歪みの音にしか作用しない点。
次項のクリーン(?)音には効かないため、クリーン(?)上げ目のセッティングではほとんど効果がありません。
クリーン(?)上げ目にした状態で動かして、「トーン薄味だな」とか思ってたよチクショウ。
もう一つ注意すべきなのが、LPFを真ん中にすると、トーンがカットされるので、トーンつまみは効きません。
LPFカットして、「トーン薄味だな」とか思ってたよチクショウ。
あと、以上のトーンコントロールはベースだと効きが分かりにくいかもしれません。
クリーンミックス
そして、最大の特徴だと思われるのが、Enhanceのつまみですね。
これでファズの音にクリーン(?)音を足せます。
が、単にギターから入力された音をそのまま出力するようなものではなく、"ファズに混ぜる"ことに最適化されたサウンドだそうです。
この最適化されたサウンドというのは、軽く割れたような歪みが乗り、少しミッドに寄るような音。
テレのフロントのシングルコイルでも歪むので、たいていのギター・ベースで軽く歪みます。
ずっと、クリーンに"(?)"をつけていたのはそのせいです。
そのため、ファズのボリュームをゼロにしても、独特なサウンドになります。
これはこれでカッコイイ。
これがなぜか、ファズに混ぜると極めて美味なクリーンミックスに聞こえてくるんですよね。
OBNEの妙技です。
ちなみに、最初に挙げたOBNEのデモでは、「トランジスタ・ブースター」って言っていた気がします。
(1:00過ぎくらい。)
Reverbのデモでは「Dirty Clean Tone」って言ってた気がします。
(5:00過ぎくらい。)
発振音
以上のコントロールについて、基本的にブチブチする方向に動かすと発振します。
あくまで「基本的に」ですが。
また、ファズのつまみが右に行くほど発振しやすくなります。
が、例外もあって、あまりにブチブチさせすぎると、発振音もブチっと切れるようになります。
あとは、ブチブチしにくくはなりますがLPFを真ん中にするとかなり発振しやすくなります。
特に発振音はいろいろと連動してしまうので、こうすれば発振する、と簡単に処理することができません……。
下記EQの上げ下げでも発振音のピッチが変わったり、Highを上げると発振しやすくなったりします。
3バンドEQ
書くことがないくらい、普通に3バンドEQです。
Lowが100Hzをピークとしたシェルフ、Midが250~1kHz(ピーク500Hzくらい)、Highが2kHzをピークとしたシェルフ、って感じでしょうか。
特にミッドが大味な感じの効き具合ですね。
スペアナ見ながら触ってみた感じで適当に書いているので、参考程度にしてください。
そしてマスターボリューム
ほとんど書くことがないのですが、かなりの爆音になります。
最後に――サンプルセッティングから始めると吉
というわけで、コントロールが多すぎかつ複雑なので、サンプルセッティングから始めるとよいと思います。
公式の日本語マニュアルをご確認いただければ……。
ちなみに、歪み、ファズのボリューム、Enhance、あたりをすべて最大にしておくと個人的にはいい感じです。
コードを弾いてもいい感じにつぶれつつ、芯は残ってきちんとコード感が出るサウンドになります。
さらに、発振するセッティングにしておけばギリギリ保たれていたコード感がどんどん崩壊していく……、そんなファズになります。
もし仮に、クラシックなファズトーンが欲しいのであれば、LPFのセレクターを中央に、発振しないギリギリまで歪みを上げて、欲しいコードの解像度までEnhanceを上げるとよいと思います。
ただまぁ、クラシックなファズトーンを求める人はAlpha Haunt Fuzz買う前にビンテージファズか、それのクローン買えって話なんですけど。
また、Enhanceを最大にして好きなようにEQをセッティングし、ブースターとして真空管アンプをプッシュしてもかなり良いと思います。
真空管サウンドにファズ的なニュアンスが出てきます。
そのファズっぽさをプラスしたいときに、ファズのボリュームを上げてもグッときますね。
ちなみに、このマニュアルの中にあるような
は過言です。
基本的に、OBNEが思う最高のファズサウンドの枠から外れる音は一切出ません。
表題にあるように、
憂いを帯びたディストーションから崩壊系ファズまで
これが限界です。
ファズフェイス、トーンベンダー、ビッグマフ、これまでのレジェンド・ファズの音を一台で!
みたいなコンセプトではありません。
このような、メーカーの主張がしっかりとあるエフェクターってのは、いいもんだと思いますよ、私は。
過去=ビンテージファズの再現にすがるでもなく、前向きだと感じますね。
上の動画で、BASS VIにクリーン多めでかけてます。
シューゲイズなバッキングになじんでいい感じでした。
Haunt Fuzzもあるよ!
最後に、Haunt FuzzというAlpha Haunt Fuzzの元になったペダルがあります。
試奏動画を見る限り、かなり音は似てるんじゃあないでしょうか。
OBNEのデモとか、OBNEのテクニカル・デモとか。
Alpha Haunt FuzzからEQとバイアスのセレクターを取り除いた感じだと思います。
Haunt FuzzにはMixというつまみがあり、クリーンミックスができるようですが、これはたぶん、普通のクリーンミックスだと思います。
なんの言及もみられないので。
Alpha Haunt FuzzのEnhanceのつまみのように、ファズに混ぜるために最適化したクリーン、というわけではなさそう。
パッとみMXRサイズなので、Alpha Haunt Fuzzの音は好きだけどデカいっていう人は、Haunt Fuzzでもよいかと思います。