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久光スプリングス 2021-22シーズン躍進の理由

こんにちは。ぱんだ(@vball_panda)です。
気付けばnoteもだいぶご無沙汰になっていました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。

今回は日本代表ではなく、去年のVリーグについての記事です。
こちらは以前、Vリーグ女子会という場でプレゼンさせていただいた内容をほぼそのまま載せたものになります。
割とちゃんと作ったのでいつか公に出そうと思っていましたが、完全にタイミングを逃してしまったので、ここで供養させてください…

1. 2021/22シーズン成績の概要

2021/22シーズン、久光スプリングスは過去2期の低迷を乗り越え、3年ぶりの優勝を果たした。
とはいえ、最初から順風満帆に勝ち続けた訳ではない。
シーズン序盤の2021年は3連敗もあり7勝5敗。転機となったのは2021年12月の皇后杯優勝で、それ以降メンバーが固定され、チームは波に乗った。

優勝した2021/22シーズンと、8位に沈んだ2020/21シーズンのチームスタッツを比べてみると、ブロック決定本数/set以外の4項目で、前年度の水準を上回った。


2. 久光の勝ちパターンとは?

久光の快進撃の要因は何か。
本記事では、サイドアウト・ブレイクの各局面において、以下のような勝ちパターンを考えた。

次章以降で、これらのストーリーについてデータを用いて検証したい。

3. サイドアウト局面

上でサイドアウトの勝ちパターンとして挙げたストーリーは、
「安定したサーブレシーブ→ミドルブロッカーの高い決定力」
というものであった。

これをサーブレシーブ・セット・アタックの三要素に分解すると、以下のようになるだろう。

では、まずサーブレシーブから。
実は、昨季(2020/21)と比べて今季最も改善した要素が、このサーブレシーブである。

常勝期の久光は、OH新鍋・石井選手とリベロの3人でサーブレシーブを担当しており、その堅さは全チームNo.1であった。
しかし、新鍋選手の引退した2020/21シーズンは、3人目の受け手の確保に苦しんだ。野本選手も井上選手も、サーブレシーブは得意ではない。せっかく世界屈指のMBを擁していても、サーブレシーブが返らなければ宝の持ち腐れである。

2021/22シーズン、OP中川選手の台頭によって受け手を固定することができ、3人とも60%超という鉄壁の布陣が実現した。

サーブレシーブ成功比率。濃い赤がAパス、薄い赤がBパス、グレーが失敗。

次にトス配分である。
先に触れたサーブレシーブの改善によって、ミドルを使える機会が格段に増えた。昨季と比較すると、MBの打数比率が3%以上増加しているのがわかる。Aパスミドル、これが基本的な久光の得点パターンである。

また、2021/22シーズン中で比較しても、スタメンが固定された年明け以降はこの傾向がさらに顕著になっている。
サーブレシーブ成功時のポジション別打数比率を見てみると、2021年→2022年にかけて、MBの比率が約9%増加している。

ポジション別の打数比率をまとめてみ打数比率。左は全体、右はサーブレシーブ成功時。

それでは、上で触れたような徹底したミドル使いは、どの程度得点につながったのか。
結論から言うと、久光のミドル陣は上がったトスを確実に得点にしてくれた。アタック賞を受賞したアキンラデウォ選手を始め、全員が決定率40%超。打数が増えたにもかかわらず、それ以上に決定率を向上させた。

トータルでのポジション別得点比率。

本章ではサイドアウトでの勝ちパターンについて、サーブレシーブ→トス→アタックの三要素に分割して考察してきた。
繰り返しにはなるが、
「安定したサーブレシーブ→ミドルブロッカーの高い決定力」
というストーリーが成り立っているといえるのではないかと思う。


4. ブレイク局面

上でブレイクでの勝ちパターンとして挙げたストーリーは、
「サーブ・ブロック・ディグのトータルDFが機能→OHが決め切る」
というものであった。

サイドアウトの時と同じように、このストーリーをいくつかの要素に分解してみると以下のようになるだろう。

トータルディフェンスはサーブから始まる。
強いサーブで相手に思うような攻撃をさせないことこそが、最大の防御なのである。

その点、2021/22シーズンの久光のサーブ戦術は、見事に機能したと言ってよいだろう。
チームのサーブ効果率は昨季に比べわずか0.3%の伸びであるが、今季のリーグで記録が全体的に低調だったことを考えれば大きな進歩である。
上位3人が効果率10位圏内にランクイン。規定にわずかに達しなかった平山選手を含めれば、ビッグサーバーを4人揃えたことになる。
特にリーグ終盤にかけて中川選手のサーブは驚異的な効果を叩き出し、ブレイクを重ねた。

サーブ内訳。オレンジで囲った部分が「崩した」サーブの割合

そしてブレイクのための最大の関門が、相手のアタックを受け止めるブロックとディグ。

昨季はブロック賞を獲得したアキンラデウォ選手を中心に、岩坂・荒木選手とリーグ屈指の大型MBを揃え、全チーム1位のブロック力を誇った。
それに対して今季は、ブロックでの得点率こそ減少したものの、リベロ戸江選手を中心としたディグで粘り強く拾うスタイルへと変わった。
結果、被アタック決定率では昨季と変わらぬ水準をキープし、リーグ全体での順位は7位から5位にアップした。

被アタック決定率とは、久光の試合における相手チームのアタック決定率である。
低い方が相手に簡単に得点させていないということになる。


そして最後に、ブレイクを実現するためにはラリーを取り切る得点力が必要である。

この点、今季の久光は「ラリー中にもミドルを多用する」・「OH井上選手の高い決定力」という2つの解を見出した。
前者の点につき、昨季との比較はできなかったものの、21/22シーズンだけで見ても前半と後半では違いが一目瞭然である。チームが波に乗り出した2022年以降は、明らかにラリー中のミドル比率が増加している。

また、ミドルが使えない状況の時もサイドアタッカーが得点に結び付けてくれた。久光はバックアタックが少なくオポジットの打数も多くない分、ラリー中のレフトへの依存度が高い。
その中でも、OH井上選手は大きな飛躍を遂げた。OPを務めた昨季と単純な比較はできないが、アタック決定率・セットあたり得点ともに大幅に増加。直接失点の少なさも光った。

左:ラリー中のトス配分。MBの比率が増えているが、同時にOHへの依存度も高まった。


本章ではブレイクでの勝ちパターンについて、サーブ→ブロック&ディグ→アタックの三要素に分割して考察してきた。
こちらはデータが少ないため確証は持てないものの、
「サーブ・ブロック・ディグのトータルDFが機能→OHが決め切る」
というストーリーは大きく外してはいないのではないかと思う。


5. まとめ

本記事では、2021/22シーズンにおける久光の躍進の理由として、サイドアウト・ブレイクの2つに分けて考察してきた。
上で掲げたストーリーは、検証が不十分な点こそあれ。大きくは外していないと思うのだが、いかがだろうか・・・?

最後に、私が今季の久光について振り返った際に感じたことに触れたい。

今季の久光の体制を一言で表すならば、「組織的な分業」である。
大型選手を揃え、個の力が優れていることはもちろん大きな強みであるが、それだけでは優勝はできなかっただろう。事実、個の力が優れているチームは東レやNECなど、他にも複数思いつくところである。

これらのチームに対して、久光が優位に立っていた点は何か。それは、「選手の役割がはっきりしていたこと」ではないかと思う。
例えば中川選手。彼女はOPのスタメンを1年間守り抜いたが、攻撃に関して言えば正直他チームのOPに見劣りする点も否めない。
しかし、久光は中川選手に「サーブレシーブ」というミッションを与え、それをほぼ完全に遂行した。アキンラデウォがいる久光では、それが最も重要な要素であったのではないかと思う。

久光でスタメンを務めた他の選手についても、リーグ全体を見渡せば総合的にもっと優れた選手がいてもおかしくない。
しかし、今季の久光にとってはこの布陣が最適解であったのだろう。
パズルのピースのように、どの選手が欠けてもいけないという絶妙なバランスが成り立っていたからこそ、優勝という結果につながったと私は考えている。


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