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龍天に合唱団は袖へ消え/大野朱香

季語「龍天に・春(時候)」
「龍天に昇る」の傍題。

中国の『説文解字』に「竜ハ鱗虫りんちゅうノ長、能く幽、能く明、能く細、能く巨、能く短、能く長、春分ニシテ天に登り、秋分ニシテふちニ潜ム」とある。・・・略・・・時至れば雲を巻いて天に登る勢いに、活力ある春の季節感が結びついた季語である。

綾部仁喜「カラー版新日本大歳時記愛蔵版/講談社」

「説文解字」というのは、中国最古の漢字辞典のようなものらしいです。
このような、故事と結びついた時候の季語で俳句を作るのはとても難しいですよね。無駄に長いし・・・
この句の面白さは、やはり「龍が天に昇る」という故事と合唱団という目の前にある現実との取合せの妙だと思います。しかも、龍が天に昇るほどの明るく勢いのある陽気だというのに、目当ての合唱団は歌い終わって袖に引っ込んでしまったのです。
見ていた作者は、十分満足しているのかそれともちょっと物足りない気分なのか。
私は後者と読みました。もしかしたら家族や知人が合唱団の中にいるのかもしれません。いや、押しの合唱団なのかも・・・
美しい合唱を聴いて、すご~~~く充実した気持ちだけれど、なんか物足りないような寂しいような・・・そんな不安定さこそが、春の気分なのです。


写真は、先日行ってきた鹿沼秋まつりの最中だけ全景が見える仲町屋台蔵の天井に描かれた雲龍図です。






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