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Moloch

YouTubeサーフィンをしていたら、新しいボスキャラの名前に遭遇した。

その名を「Moloch」

それは、イギリスのプロポーカープレイヤー、テレビ司会者、サイエンスコミュニケーターとして活動するLiv Boeree氏が提唱する「効果的利他主義」という考え方の中に登場する。

Boeree氏によるとMolochとは、社会における個人/集団の競争を表す比喩的な存在であり、個々人の目標の追求が全体の利益の破壊につながるという,
なんともたちの悪い奴
とのこと。

Boeree氏は天体物理学の修士号を取得した後、ポーカープレイヤーとして成功を収め、現在は意思決定の科学や利他主義の倫理などのテーマで講演を行っており、また、ポーカープレイヤーに賞金の一部を効果的な慈善団体に寄付することを奨励する慈善団体、Raising for Effective Givingの共同設立者でもある。

Molochの存在は、私たちの周りに様々な形で見受けられる。

例えば、

ビューティーフィルター
「現実の世界よりちょっと盛れた私」を実現してくれるSNSのフィルターは、「フィルター無しの私」より「いいね」やフォロワー数が増えやすい。なにせ周りもみんなフィルターを駆使してよりエキサイティングで魅力的な画像を載せるのだから、私だけ使わない、なんて選択肢は残らないのだ。
フォトショップを拒むファッションモデルが簡単に他のモデルにとって代わられてしまうように、世間の「美しさ」の基準についていくことは、半ば現代のサバイバルスキルと化している。
たとえそれが、自己顕示や他人との比較を助長し、リアルな人間関係や精神的な健康を犠牲としようとも、「みんな」が「いいね」という限り、そのみんなの一部である私は、すでに美しい私には目もくれず、加工した自分を発信し続ける。

ファストファッション
Tシャツで過ごす時期に発表される、秋冬のトレンド情報。
今季のトレンドカラーは緑!とされた瞬間、数万、数十万のフォロワーを抱えるYouTuberはファストファッションブランドの提供を受けて購入品を紹介する。
するとあら不思議、
今まで自分でも必要に気が付かなかった、「持っていないもの」があらわれるのだ。
去年流行った、1,2回着たきりの紫のシャツを押しやって、オンラインショッピングのサイトを開く。
こんなに安いなら、他にもいくつか買っておこうかな、、

どこか遠い場所で規格外に安い製品を次々に生み出し、搾取される労働者が犠牲になる事実は、目の前に立ち現れなければ、私に関係する問題ではない。
ただでさえ不景気の中、お洒落にも気を使わなければいけないのだから、できるだけ安いものを購入するのは当然じゃないか。

今年数回着ておしまいになるワードローブの肥やしを増やし続ける消費者の購買は、搾取のサイクルを企業利益の元許容する社会の維持に貢献し続ける。

畜産業
ステーキ、ソーセージ、焼き鳥、から揚げ、ハム、、、
当たり前のように手に入るそれらの食べ物を、生き物であったときの姿と結び付けて考えることは少ない。
牧場の牛がスーパーのトレイに値札つきで並ぶまでの過程は、消費者の知ったところではないのだ。

だが、健全な生き物が自ら積極的に人間に食されることを選んで死を選ぶなんてことはない。
スーパーで売っている肉は、消費者の需要に応え、畜産業者が時に、動物に成長ホルモンを投与したり、過密状態で飼育したり、過剰な飼料を与えたりして育てた生き物を、人の目に触れない場所で殺め、利益創出を目指して商品化した結果に他ならないのだ。

過剰な飼料の使用や過密飼育は、動物の排泄物の増加につながり、これが地下水や河川の水質汚染が進み、人間を含む周辺生態系に悪影響を与える。
また、大量の飼料生産のために森林伐採がすすみ、温室効果ガスの排出量が増加する。

他の畜産業者も同様の方法を取るのだから、個人で畜産方法を転換することは激化する競争からの脱落を意味する。結果、資源の過剰消費や環境破壊がますます進み、地球はどの生き物にとっても住みにくい環境となっていくのだ。

軍事
自分に対し敵意を見せる相手が、足元の石ころを拾い上げたら、どうすべきか。
ぼやっとしていては、次の瞬間にその石ころが頭に飛んでくるかもしれない。
すぐに自分も石ころを手に入れて、こちらにも同じ攻撃能力があることを示さなければならない。
相手が先のとがった枝を拾い上げたなら、今度はそれより長い枝が必要だ。

各国が軍事力を高め、ライバルに差をつけるために軍拡競争を行うことで、緊張は高まり、「最悪のシナリオ」はより最悪に、危険度を増していく。

自分たちを守るため、の「自分たち」はいつのまにか境界をなくし、気づけば世界中のだれもが手に負えない危険にさらされている。

いずれも、個人や企業、国家が自己の利益のために行動し、長期的な影響を考慮せず、共有資源からできる限り多くを奪うことでMolochを生み出している。

個人の利益を優先させるゲームをみんながプレーすることで全体の利益が破壊されれば、全体の一部である個人は、その結果を否が応でも受け入れなければならない。
たとえプレーヤーが自分自身でなく、他の知らないだれか、自分より前の時代に生きていた人であってもだ。


では、悪いのはだれか。
それはプレイヤーではない。
Molochを倒すために他のプレイヤーを憎み、新たなMolochを生み出しては元も子もない。

ゲームの仕組みを理解し、Molochを倒すためのゲームチェンジの方法を考えるべきなのだ。


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