アメリカの技術士試験 / License Test of Professional Engineer in U.S.A
1. はじめに
少し前のことですが、アメリカの弁護士資格試験が話題となり、ニュースに流れていました。
自分はアメリカの修習技術者(Engineer in Training / EIT)の資格を持っています。
そのニュースに触れて、27年前に自分が受験したアメリカの資格試験について思い出しました。
今回、その時のことを書くことにしました。
2. 受験動機
大学院を修了して2年経過した頃でした。
まだ20代の後半でした。
その頃、担当していた仕事は、米国向け鉄道車両の構造計算と報告書の作成でした。(写真の車両)
ひょっとしたらアメリカで仕事ができるチャンスかもしれない。
そんな夢みたいなことを考えていました。
しかし、当時は今ほど通信技術が発達していませんでした。
当時はまだ、電子メールやインターネットは一般的なツールではなかったので、海外の情報をリアルタイムで入手することは困難でした。
そのような状況で海外向けの仕事をしながら、こんなことも考えていました。
『日本の大学は米国の大学と比肩できるだろうか。』
当時、主な通信手段は、手紙、電話そしてFAXしかなかった頃、こんなことも頻繁に耳にしました。
『日本の大学はレジャーランド化しており、米国の大学生の水準には遠く及ばない。』
そんな希望と不安を抱えていた折に目に留まったのが機械学の学会誌に掲載されていた告知でした。
それは(財)工業技術振興センターがアメリカの技術士試験を日本で開催するというものでした。
米国の技術士資格が取得できれば、アメリカ関係の仕事獲得も容易になるかもしれない。
日本の大学教育はアメリカの大学と遜色はない。
この2つの事を確かめるために、受験申請することにしました。
3. 開催場所
当時、米国の連邦試験理事会(National Council of Examiners for Engineering and Surveying / NCEES)で協議し、オレゴン州の試験理事会が主催することになったそうです。
会場は慶応義塾大学の三田キャンパスです。
試験当日は早かったので、前日に五反田で宿泊しました。
4. 試験について
試験は一次試験(FE試験)です。
日本で言えば、修習技術者資格試験(Engineer in Training, Engineer Intern)です。
合格すれば、米国にある四年制大学の工学教育課程カリキュラム(ABET)の修了生(卒業生)と同等のレベルであることが認められます。
現在、日本の大学ではJABEEと呼ばれる教育カリキュラムがありますが、米国のそれに相当します。
このFE試験に合格してもABETの認定証はありませんし、JABEEに認定されることもありません。
アメリカは自国における工学教育カリキュラムの有効性と、そのカリキュラムを修了し学んだことを社会で実践する人たちの能力を担保するためにFE試験を設けています。
日本にも独自の工学教育システムが構築されております。
しかし、資格試験の在り方は同じではありません。
日本は、工学教育の中にJABBEと呼ぶ工学教育カリキュラム制度を取り込みましたが、JABBE認定者を社会で活かす取組みが良く見えない状況です。
日本のJABBE制度は、アメリカのABET制度を参考に作られましたが、相互認証はなされておりません。
そのためFE試験に合格し、ABET修了者と同等の能力が有ると認定されても、日本のJABBE認定は得られません。
思うことはいろいろとありますが、いつか相互認証される日が来ることを願っています。
5.試験内容
100点満点の試験ではありません。
しかも採点されない試験問題が含まれいます。
採点されない試験問題は、次回以降の試験に出題される問題なのだそうです。
正規試験に潜り込ませ、正答率などを調査するのだそうです。
これは問題のレベルを一定にするための取組みなのだそうです。
試験はマークシート方式でした。
ただ、試験会場内はオレゴン州で開催される試験会場のルールが適用されます。
試験の実施場所は日本ですが、試験会場内は米国オレゴン州と同じになります。
したがって、試験に関する質疑応答は英語です。
日本側の担当者もいらっしゃいましたが、オブザーバーのため試験官補助員なので質問に答えられなかったのです。
計算に使う電卓は、理事会が認定している電卓のみ使用できます。
この電卓は逆ポーランド記法の電卓で、使いづらかった。
学校で学んだ 1+1= ではなく、
+ 1 1= となります。
この表記法は、人工知能の研究分野で利用される数式です。
この場合の読み方は「足す(+)のは、1と1です」と読めるため、人工知能向きなのだそうです。
試験問題は英語です。
問題の内容を理解しつつも、思考は日本語。
その結果を英語に置換えて選択肢を選ぶ。
そんなことを繰返し、試験を受験しました。
6.試験結果
試験結果は、正答した割合が点数になります。
採点される試験問題の70%以上が正答なら合格になります。
自分の場合、74%のだったようです。
以下は合格通知書。
そしてFE試験合格の登録カードです。
7.2次試験の受験について
アメリカの技術士資格は、現役で活躍することを前提にしています。そのため、受験資格に年齢制限を設けています。
高齢になってからでは、現役技術者として現場で指導ができたとしても指導的な実践ができない。
また高齢になると判断ミスも多くなるとの理由から、実践を求められる現役をリタイアされる方も多いようです。
日本は逆で高齢になると受験される方が増え、実践より指導の方が重視される傾向にあります。
ここには国民性や工学教育における人材育成システムの違いがあるため、どちらが良いとは言えません。
また米国技術士(二次試験)の受験には5人以上の推薦が必要です。
そのうち3名は米国技術士の有資格者であることが求めらます。
推薦を得るためには、修習技術者のうちに米国技術士の方々と仕事をし、実力を認められる必要があります。
米国で技術者として働く夢を抱きつつも、自分は、その機会を得る事はありませんでした。
そして、年齢制限を10年ほど前に超えてしまいました。
8.日本での技術士資格の取得
米国技術士資格の受験を考えていた頃、日本の技術士制度と相互認証される可能性について新聞記事が出ました。
それを信じ、しばらくの間、様子を見ていたのですが、結果は1999年のワシントン条約の締結と、米国の大学で実践しているABET制度を日本の大学にも取り入れるというものでした。
これがJABEE制度の始まりです。
これに伴い日本の技術士資格制度も変更されましたが、相互認証には至りませんでした。
待っていても仕方がないと思い、2009年に技術士一次試験を受験し、2010年、2011年と二次試験を受験して現在に至っています。
そのため、米国の修習技術者としての期間の方が、日本の技術士よりも長いです。
その間、米国の修習技術者であることを意識して仕事はしてました。
9.米国技術士資格の受験について
現在でも、日本で米国の技術士資格試験は受験できます。
場所は日本にあるアメリカ。横田基地の中になります。
そのため、試験日には国境を超えるためパスポートが必要になります。
詳細については、こちらのサイト(日本PE・FE試験協議会)にお問い合わせください。
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