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ちょっと未来の生き方vol.05「物を運ぶ者、死者を送る使者」

 未来の配達業は、ほぼ全自動になっていた。ドローンや自動運転トラックが、町中を網の目のように飛び交い、商品を正確に運ぶ姿は、もはや日常の風景だった。しかし、その完璧なシステムの中でも、どうしても人間が必要な仕事が残っていた。つまり、最後の一押し、玄関先までの配達だ。  岳(がく)はその「最後の一押し」をする運び屋だった。彼の仕事はシンプルだ。自動運転トラックから荷物を受け取り、ドアまで運び、受取人に手渡す。ただ、彼の働く地域は、過疎地だった。受け取りの相手は高齢者が多く、彼の

    • 自己紹介 | 短編小説の作成

      こんにちは! 秋永凌と申します。「数年後、数十年後の未来の働き方や生き方」をテーマにした短編小説をnoteで連載しています。これまでに、地方と都市の対比、週四日勤務の新しい生活様式、都市の移設が引き起こす消費の問題など、さまざまなテーマを描いてきました。 未来に起こりうる出来事を、小説を通して読者の皆さんと一緒に考えていけたらと思い、身近な視点で未来を描いています。 これからも定期的に未来の物語を届けていきますので、ぜひお楽しみください!

      • ちょっと未来の生き方vol.04「水曜日の苦悩」

         会社から「週四日勤務」の導入が告げられた時、健太は何も言えなかった。同期たちは大喜びだったが、健太の顔は引きつっていた。  「給料はそのまま?ラッキー!」と誰かが叫び、周りもそれに続いた。だが    健太は内心、絶望していたのだ。  健太はワーカホリックだった。いや、正確には、"仕事以外に興味がない" というだけの男だった。週五日でさえ「土日なんてなければいいのに」と思っていたのに、今度は水曜日が完全に空くという。これは悲劇だった。そう、世間が羨望の眼差しを向けるその制度は

        • ちょっと未来の生き方vol.03「雨を知らない」

           タクヤは、物心ついた頃から外の世界をほとんど知らなかった。彼は生まれつき体が弱く、外出するたびに病気にかかることが多かったため、幼少期から家の中で過ごす時間が圧倒的に長かった。彼の世界は四方の壁に囲まれた小さな部屋と、窓越しに見える空の青さだけだった。学校にも通えず、友達もほとんどいなかったタクヤにとって、唯一の救いはゲームだった。  タクヤは、現実の制約を超えたバーチャル世界に自由を見出した。そこでなら、彼は健康な体を持ち、俊敏に動き、強さやスキルで他者に勝つことができた

          ちょっと未来の生き方vol.02「東京が負けた時」

           田中涼子が目を覚ましたのは、いつも通りの蒸し暑い朝だった。東京の夏は年々厳しさを増し、エアコンを入れなければ眠ることもできない。だがそのエアコンも、この酷暑には頼りにならない日も多い。外に出れば、湿気を帯びた熱気が全身を包み、街全体が蒸し風呂のような状態だ。だが、都会の生活は忙しい。涼子も例に漏れず、仕事に追われる日々を送っていた。  涼子は毎朝、コンビニで昼食用の弁当を買うのが習慣だった。冷凍パスタやサンドイッチ、ペットボトルの飲み物。手軽で美味しく、何より時間を取られな

          ちょっと未来の生き方vol.02「東京が負けた時」

          ちょっと未来の生き方vol.01「変わりゆくものを求めて」

           2040年。限界集落が少しずつ自治機能を失い始め、自分の町もいつかそんなことになるのだろうかと、そんなことを考えながら、リョーマは日々を過ごしている。自宅周辺の担当地域への物の配達、農作物の生産と販売、農村地域の状況の発信活動。様々な仕事を掛け持ちし、充実した気持ちを持ちながらも、貧困層である自分に対する劣等感も抱えている。  収穫した玉ねぎを手に取ると、リョーマは一瞬、誇らしい気持ちになった。これも自分の手で育てた、市場に出せば、それなりの収入にはなる。しかし、その収入は

          ちょっと未来の生き方vol.01「変わりゆくものを求めて」