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LOST CORNER

カズオ・イシグロさんの「私を離さないで」。
初めて読んだのは鬱で具合悪くて療養していた時。
何度も何度も読みました。

ネタばれしないように感想。
全編にただよう、悲しさ、そして希望。
その希望が、3年くらい先延ばしにできたら、とかって…。悲しすぎるんです。それでいいの…?

物語は、学園で寮生活みたいに暮らしている登場人物たちの、子どもの頃からの生活が丁寧に描写されていくんですが、時々違和感、そして、ずっと、なぜか、うっすら悲しい気配がある。まるで、生まれてきたときからずっと悲しくて、泣きそうで、けれど日常生活を送っているみたいな登場人物たち。
1人めっちゃ怒ってる子がいて、とにかく怒ってる。特に子ども時代。周りの友達がなんでそうなるの?って引くほど怒ってる。
その子は、物語がすすんで大人になってきて、さすがに子どもの頃みたいな周りの目に見えるような怒りは出さないようになってくるけど、でも、怒ってる。怒ってるから、反抗するし、抵抗している。
なぜ生まれてきて、存在しているのか、そして起きてゆく、回避しようのない悲しい未来、運命を、まだそれを知らないであろう子どものころから、「知っていた」のかもしれない描写、カズオイシグロさんの描写力よ。

前職で鬱になった私、なぜか、会社を辞める選択肢はない、とにかく定年まで頑張り続けるしかない。子どもだってまだ小さいし、中古マンションの住宅ローン主債務者自分で単独ローン組んだばかりだし、と、当時、パワハラマタハラの会社風土がすごくつらかったのにがんばりすぎて、つらいの出口なんて存在しないぐらいに感じていて、あの「どうにも解決策なし、耐えるだけ、日々過ぎるのを待つだけ」の感覚を思い出します。

つらいを我慢しすぎて鬱になったので、あんなになるまでがんばって我慢しなきゃよかったと思うけど、いちおう寛解して、今は自分にまあまあ合ってる会社で働いてる。人生いろいろ。
今の会社は、ベンチャー気質な会社なので、ずっと忙しすぎて、こないだ美容院行ったら、円形脱毛症が発見されたけど。ギャー

でも、あの頃、この先どうなるのか不安を抱えながら、「私を離さないで」を何度も何度も読んでいたこと、今はよかったなと思っています。
安定した大企業の正社員職は失ったけど、手放した今、すっかり色あせて、なんであんなに守りたかったんだろう。
そして、18で地元を離れて、当時の友人知人全員と音信不通の疎遠で、現在も友達も少ない、母になってもママ友も少ない私です。
ものも関係も断捨離しすぎです。
いいの、INFJ-Tだから。

しかし、思い起こせば今、あんなふうに本を読んで、物語に深く深く入っていくような時間ぜんぜんないです。
仕事!家事!寝る!寝るを削って資格の勉強ねじこむ!

読みたいけど読めず、いつか読もうの本が増えていく。
あの頃の、あれはあれで、よかったんだな。つらかったけど。

なので、カズオイシグロさんの「私を離さないで」は、とても大切な物語です。

さて、発売が待ち遠しい米津玄師さんの新しいアルバムのタイトル

LOST CORNER

ひょっとして、これは「私を離さないで」に出てきたあの場所なのでは。と思って。

ちょっと涙出ました。

アルバム楽しみだな。

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