自宅でプロレベルの音楽制作ができるようになるには④Compressor【制作編】
こんにちは。今回はCompressor/コンプレッサーについての記事です。音楽制作においてこれほど重要なものはないと言えるほど、コンプレッサーの役割は大切だと思います。少しでも制作に役立てていただければと思います。是非、ご一読ください。
1コンプレッサーを理解するために必要な2つの事
まず、コンプレッサーについての話の前に、もう少しマクロな、音楽制作、とりわけ、ステレオ音声データの制作、について少し最初に向き合わなければいけません。
ここで主に抑えておいて頂きたいことが、2つあります。①音源制作は絵画に似ている、そして②音にはアタック成分とリリース成分がある、ということです。
①絵画を描くということに似ている音源制作(Ratio)
ひとつは、音を作り、並べ、ミックスしていくという音源制作は、キャンパスに、適切な素材を用いて、描いていくという絵画の工程に似ている、という事です。
もちろん画家ではありませんので、詳しく作画について存じているわけではありませんが、
・定められたキャンパス枠内(LRの出力上限)に
・鉛筆や絵の具などの濃度の違う道具を使い分けながら(楽器ごとのラウドネス、音のテンション感)
・全体像を見ながら一つの作品を描く(統一感をもたらす)
という点がとても似通っているんですね。
ここで特筆しておきたい重要なことは、鉛筆で書いている絵に、一つだけペンキで書かれている部分があると、基本的には不自然な絵に見えますよね。
逆に、絵の具で描かれている絵に、一つだけ鉛筆で線を加えても、ほとんど意味がないことになり得ます。(特別な意図があればもちろん別です)
つまり素材ごとの濃度、音で言えばラウドネス感(テンション感)を合わせる事、が、音源制作において非常に重要な事、という事です。
そして音楽制作時のコンプレッサーの役割とは、絵画で例えると、
絵の具または描画用具の濃さを変えること、
と捉えることができます。絵の具が薄ければ、コンプレッサーで加工を加えることで、色を濃くすることができる、ということです。
極端に例えると、鉛筆レベルの素材感のものを、ペンキレベルまで濃密なものに変えることができる、ということです。
逆に薄くするというのは基本的にはコンプレッサーでは、できません。
基本的に、クラシック音楽などのアコースティックな音源は、鉛筆レベルの音の濃度、
逆にダンスミュージックなどの非常に太い音が求められるものは、ペンキレベルの音の濃度で構成されています。
どのようなジャンル感で音を仕上げていきたいのか、という目的をもって、音の方向性をジャッジしていくことが求められます。
EDMとクラシックでは、そのサウンドの太さがまるで違うのは、これが主な原因です。
EDM例:
クラシック例:(*音量差にお気を付け下さい)
①-2楽器ごとに設定を決めてしまうのは、ほぼ意味がない
上記の理由から、楽器ごとにコンプレッサーの設定を決めてしまうことは、ほとんど、というより全く意味がないと言えます。
例えば、バンドサウンドのドラムトラックを制作したい時のことを考えてみましょう。
この時、ドラムの音源をまずはどのように用意するでしょうか。DAW付属の音源、または、Spliceなどのサンプルからの引用、または、自らレコーディングスタジオで演奏し、そのRecデータを使用するかもしれません。
ここで確認したいのは、当たり前に聞こえるかもしれませんが、上記いずれの音も、持ち合わせているエネルギー感、テンション感は違う、ということです。
少し長くなりますが、さらに細かく考えていきます。
例えばRock Kitにキックドラムの音が入っていますよね。この時、そのキックドラムはさらに細かく音が用意されていませんか??例えばLv.1-Lv.5まで用意されていたりしますよね。
つまりそれぞれの音で、本来は、適切なコンプレッションの設定は変わるはず、ということです。かつ、激しい曲なのか(絵の具ペンキ系)、ゆったりしたバラードなのか(鉛筆系)、という目的によっても変化します。
もしもバラードを作ろうと思っているのに、そもそも濃密で重厚なキックドラムの音を選んでいるのであれば、もはやコンプレッサーをかける必要がない場合も、十分にあり得ます。
つまり、コンプレッサーで重要な二つの事のうちの一つは、その素材が持っている音量感(テンション、エネルギー、ラウドネス感)をジャッジして、作りたい楽曲の目的に合わせて、適切なテンション感に再調整する、ということです。
そしてどの程度の設定が正解か、DAWの中だけでは、中々わかりません。井の中の蛙状態です。ですので必ず、参考音源の音声データを用意することも、意識しましょう。
参考音源の用意をしたら、ご自身の2Mixと同じ音量感になるようにおよそ-10dbから-15dbほど下げる必要がありますが、それでOKです。
そして、この鉛筆や絵の具の濃度を変化させるパラメーターが、レシオ(Ratio)です。
②音にはアタック成分とリリース成分がある
さて、次に、音にはアタック成分とリリース成分がある、というお話についてです。
勝手に拝借しますが、こちらの動画はとてもわかりやすいのではないかと思いますので、ご紹介させていただきます。
音は、立ち上がり成分(Attack/アタック)と減衰成分(Release/リリース)の二つの要素で構成されています。
②-2アタック成分
そしてここで重要なポイントは、人間はアタック成分でその音が何かを判断しており、アタック成分がよく聞こえれば聞こえるほど、良い音だと感じやすい、ということです。
人間は、"これはアコースティックギターの音だ!""これはアコースティックピアノの音だ!"というのは、実は立ち上がりの音、すなわち、ピックが弦を弾いた時の音、ピアノのハンマーが弦を叩いた時の音、で判断しているんですね。
もしもこれらの立ち上がりの音がなく、減衰の音だけを聴き比べると、どちらがギターでどちらがピアノか、ほとんどわかりません。
つまり、アタック成分を残せば残すほど、人間はよりしっかりと認識し、アタック成分がなくなればなくなるほど、人間はあまり認識しなくなる、ということです。
これを音源制作において考えてみましょう。バンドサウンドの中で、ボーカル、ピアノ、バイオリンを混ぜたい時のことを考えます。
音の優先順位、つまり、よりしっかりと聴こえてほしい音は、ボーカル→ピアノ→バイオリン、の順だと仮定すると、
アタック成分はボーカル>ピアノ>バイオリン、となるわけです。具体例で言うと、50ms>25ms>15ms等。
②-3リリース成分
最後に、リリース成分です。これは、視覚的に判断もできるパラメーターです。
ゲインリダクションの動き方を注視してください。デジタルメーター、針どちらかのスタイルで確認することができると思います。
コンプレッサーをかける時、どのくらいの量、コンプレッサーをかけるか、というのは、スレッショルドの設定で調整することができますよね。おおよそゲインリダクションが-3dbから-6db以内になるようにスレッショルドを設定したら、コンプレッサーのゲインリダクションの戻り具合を見ます。
この時、その楽器の音楽的なフレーズと、ゲインリダクションの戻り具合の緩急が一致していれば、リリース設定はOKです。
例えば、キックドラムの音にコンプレッサーをかけている場合、キックの音のリズム感と、コンプレッサーのゲインリダクションのリズム感が一致しているかどうかをみます。
もしもリリースの設定が速すぎると、ドン、ドン、ドン、ドン、というキックのフレーズであるにも関わらず、
コンプレッサーは、ド↑、ド↑、ド↑、ド↑、とすぐに戻っていっていませんか?(わかりにくかったらすみません笑)
この戻り具合も、元音のフレーズと同様レベルに仕上げる、というのが、リリースの数値の決め方です。
2設定の流れをまとめる
ここまでの情報をまとめ、コンプレッサーの設定の仕方を確認してみます。
・まずは、スレッショルドを適宜変更し、ゲインリダクションを適正値稼ぎながら、レシオで音の密度感を調整して下さい。
別記事、概要編でも簡単に書きましたが、ドラムの音とベースの音、どちらも演奏者は同じテンションで演奏していそうかどうか、を参考にしながら、密度感を感じとり、調整する必要があります。リファレンスとの比較も参考になります。
レシオの値が大きくなればなるほど、音は密でペンキチックになり、低ければ低いほど音は伸びやかで鉛筆チックになります。
・次に、アタックで音の優先順位も明確にしながら、音のアタック成分をどの程度削るのか聞きながら調整します。
かなり大きな設定になる場合もあれば、ものすごく削ってもOKな場合もあり、これは音の素材と、比較している他の音がどのようなものかによります。なので、テンプレート的な設定はありません。ただし、キックは全ての基準となるので、一旦50ms-100msの間で、気に入った場所に設定していくのが唯一、おすすめできるポイントです。
・リリース成分をメーターを見ながら調整、スレッショルドで全体的に微調整。
次に、リリース成分を先ほどの通りに調整して下さい。スレッショルドを適宜調整し、目的に沿ってゲインリダクションの量を調整します。
ペンキチックに、音を密にしたければゲインリダクションは大きな値、アコースティックに伸びやかにしたければゲインリダクションは小さな値になりますが、レシオとの兼ね合いもあるので、最後は適正なモニターを使用して、リファレンスと比較しながら厳密に確認します。
・最後にMakeUpで音量が変わらないように音を稼ぐ、あるいは減らす。
最後に、MakeUpでコンプレッサーを挿す前と後で音量が一緒になるように調整を行えばOKです。これで、プロとほぼ同等の設定は可能になりました。
3プラスアルファの要素
さて、最後に、その他のコンプレッサーの追加要素をざっと確認したいと思いますが、まずはレシオ、アタック、リリース、スレッショルド、そしてメイクアップを用いて音を調整する、と言うことを、デジタルコンプで大丈夫ですので行い、慣れていただくことをお勧めします。
では、追加的な要素についてです。
・パラレルコンプ
その1として、パラレルコンプ、というものがあります。お持ちのコンプレッサーには、Mixというパラメーターがあるかもしれません。これは元の音と、コンプレッションされた音を混ぜる、というもので、ダイナミクス(音の緩急)を失わないようにしながらも、コンプレッションを行う、というものです。
プラグイン内でできるものもあれば、原音とコンプレッサーをかけるトラックを2つ用意して、グループトラック(Busトラック)にまとめる、という方法で行うこともあります。
ただしはじめは、Mixは100%(あるいは0%)、すなわちコンプレッションの音のみ、で問題ありません。マスタリングなどではうまく作用する場合が多いです。
・グループトラック用コンプレッサー(Busコンプ)
これは、例えばそれぞれの音をグループトラックにまとめて、そのグループトラックにコンプレッサーをかけることで、より接着性を上げることができる、というものです。
個別に狙って調整できた方がGoodだとは思いますが、制作の便宜上、これを用いた方が早い場合もありそうですね。
また、2Mixの仕上げとして、Stereo Outにコンプレッサーをかけて、全体的に太くしたりする場合に用いるのは、オススメです。この際は、アタックを最大限残しておくことを気をつけてください。
・サイドチェイン
これはYouTube動画などをぜひご覧ください。
たくさんの動画があります。
ボーカルの音とリバーブの音をコントロールする時、またはベースの音とキックの音をコントロールする時に使うのが一般的ではないでしょうか。
・MSコンプ
これは、主にマスタリング時に使用される機能です。コンプレッサーによっては、Mid/Sideモードに切り替えることが可能で、これによって、よりサイドに厚みのある、心地よい音像を作ることが可能になります。
標準のものでできるケースは少なく、なにか新しくプラグインを購入する必要があります。
・コンプレッサーにはタイプがある(真空管Tube/光学Opt/トランジスタFet/電圧VCA/デジタル)
まずは、標準のデジタルコンプの仕様がオススメです。
しかし、慣れてきた場合は、サウンドの制作という意味合いでより細かく、種類を使い分けるということがあります。これは、実際に使ってみてサウンドの違いを感じ取って下さい、といった方が早いかと思いますが、
アタック、リリース、レシオなどの設定を全て手動でいじれるわけではない場合が多いので、特性を知り、目的を明らかにして着実に使用する、という必要があります。
うまくハマれば、より温かく太い音、または激しくパンチのある音、が作れるようになります。
4最後に
およそ以上で、コンプレッサーの概念はほとんどなのではないでしょうか。
あとは、耳でレシオの違いを感じ取れるようになる必要がありますが、それはもう量でケアするしかありません。筋トレと同じですね。
ぜひとも、制作に役立てていただければ幸いです。そして、どんどんイカしたサウンドメイクを探究していきましょう。
長くなりましたが読んでいただきありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?