大学生12

山田はしまったという顔をした。
「なんだよ、言えよ」私は圧をかけた。
「実は…」
と山田は男と敵対するに至った経緯を話し始めた。


「なるほど、それは悪かったね」と男は言った。
「葵井さんに謝ってください」
「今度謝りに行くよ、彼女は同じ落語サークルでね、最近見なくなったからつい宣伝に起用してしまったんだ彼女は画面映えするからね、まさか実家の水がこんなにも反響を呼ぶとも思っていなかったし、興味本位だったんだほんとにすまない」
「それは本人に言ってください」顰めっ面の山田は言った。


大学近くの喫茶店、
私、山田、葵井さんらしき人、怪しい水の男
というなんとも奇怪千万な面々が出揃った。

「本当に申し訳ないと思っている」
申し訳なさそうな顔をして謝る水の男
側から見ればカップルの痴話喧嘩に、私と山田という不審者が立ち会っているという何とも謎めいた状況に見えなくもない。
「反省しているならいいです。ちゃんと被害者にお金返してください」と葵井さん
「それが例の水が意外と好評で誰も怒っていないんだ」
「ならいいですけど」と葵井さんは目を細め顰めた顔のまま言った。少し笑っているようにも見えた
どうやら和解は成立したらしい。
それはそうと、この怪しい水の男は名前を水野というらしく肩まで伸びたロングヘアーが似合う長身の男前だ。駅前で芸能関係者に話をかけられていそうでいなそうな不思議な雰囲気を漂わせている。
葵井さんとやらがすぐやめた落語サークルのサークル長であるらしい。人望はそこまでないが、前のサークル長に気に入られていたと理由だけでサークル長となってしまったらしい。あまりサークルに顔を出さない為、実質副サークル長が実権を握っているんだとか。

「しかし君達なかなか楽しませてもらった、そして葵井さんにはすまないことをしたあとで実家の湧水一年分を郵送するよ。さらばだ」
と言って長髪を翻らせ颯爽と水野は去ってしまった。
私たちも解散する流れになり、山田と葵井さんの関係に水を刺すのも悪いか、と紳士な私は思い、足早に退散しようと思った。
「本当にありがとうございました。何かお礼をさせてください」
なんて素晴らしい方なのだと私は思った。
「ではサークルの部室へ移動しましょうや」
と山田は言った。
私たちは【日本文化同好会】とやらの部室へ移動した。

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