大学生 5

私は暇を持て余していたので山田と意味もなく会った。山田と会うのは存外簡単で、ただ不吉な雰囲気のする方へ進んでいけばいいのだ。山田とはそう言う男である。

私と山田はラーメンを食べ亡霊のようにあてもなく街を彷徨っていた。
夕方のことである。
例の神社の近くの飲み屋街を歩いていると人が倒れているではないか。山田と違って私は比類なき優しさを持っている。すかさず近づき声をかけた。
「大丈夫ですか?」
私たちは仰天した。なんという運命であろうか、その人はこの前除霊したはずの外国人観光客グループのうちの1人であった。以前と違うのは前は、数人のグループであったが、今はどういうわけか1人である。
山田もそれに気がついたのか、私たちは目を見合わせニヤリと不吉な笑みを浮かべた。
山田は、私に向かって「やれ」と言わんばかりに顎で外国人の方を指し合図を送る。
残党を残すとは、泣く子も黙る大天狗にあるまじき失態。
生憎、天狗のお面を持ち合わせていなかったので、満を持し、かねてから眠らせていた、先祖から脈々と受け継がれし由緒正しき、
所謂、【侍魂】
とやらをここぞとばかりに呼び起こし、声高らかに、

「アイムジャパニーズサムライ!!」

と叫んでトドメを刺すこともやぶさかではなかったが、私の武士道精神はそれを許さなかった。
私は山田に向け首を横に振った。
とたん、薄ら笑いを浮かべ白けた態度をとった、悪童山田を裁く法がないことが悔やまれる。
昨日の敵は今日の友。
私たちはじゃん負けで水を買い、外国人に与えた。じゃんけんに負けた山田は不貞腐れていた。
外国人は、すぐに元気になった。
天狗のお面をつけていたおかげか私たちが例のジャパニーズ妖怪である事はバレることがなかった。
外国人はお礼として私たちにご飯を奢ってくれると言った。
邪智暴虐の王、山田はすでにこれまでの態度が嘘だったかのように目に輝きを宿し、媚びを売るモードへと入っていた。
私は彼らしい素晴らしい手のひら返しだと思った。
生憎私は山田とは違い清い心を持った紳士だ。
少し迷ったが、唐突な甘い誘いに、他人からの施しを受けることをよしとしない清い武士道の美学は吹き飛んで、ありがたく頂戴する意向を固めた。

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