年上の君との大切な時間
梅雨と初夏が終わり
夏が本気を出し始めた
暑さが籠る体育館
汗をだらだらと流し
部活動に取り組む学生たち
マ : 終わり〜
マネージャーの一言で
走っていた体をゆっくりと止めていく
〇 : あ"〜つ"が"れ"た"〜
? : お疲れ様〇〇くん
この人は石森璃花さん
俺たち男子バスケ部のマネージャーで
俺の一つ上の高校三年生である
璃 : はいどうぞっ
〇 : ありがとうございます
璃花さんから水をもらって
大の字に寝ていた体を起こす
璃 : すごい頑張ってたね♪
〇 : そうですか?ありがとうございます
開けている体育館の窓から
生ぬるい風が吹き抜ける
璃 : もしかして来週のため?笑
〇 : 来週?なんかありましたっけ?
そういうと璃花さんは
頬を膨らませて怒った表情になる
璃 : 忘れちゃったの!?
〇 : ...なんかありましたっけ?笑
立っている璃花さんはしゃがんで
座ってる俺に目線を合わせた
璃 : バスケ部の皆んなでディズニーランドに行くっていう話じゃん!
その一言でやっと思い出した
〇 : あーそういえばそうでしたね
璃 : ...そんなこと言うなら連れて行かないよ?
〇 : すみませんすみません!行きたいです!
璃 : しょうがないなぁ笑
そして練習再開の合図を顧問から出され
手に持っていた水を璃花さんに返した
先に立った璃花さんに続き
俺も立とうとしたとき
璃 : そういえばさ
〇 : ん?
璃 : 誰とディズニーランド回ったりするの?
唐突な質問
マネージャーの仕事をして
俺に背を向けながら喋る璃花さん
〇 : まだ決めてないですけど、まぁ多分△△とかと回るんじゃないですか?
璃 : ...ふーん
ワンテンポ遅れて
質問したわりには
冷たく返してくる
〇 : そういう璃花さんは誰と回るか決めてるんですか?
璃 : まだ私も決まってないよ
そう言って飲み物がたくさん入ったかごを持って
こっちを振り返った
璃 : 〇〇くん?
〇 : どうしました?
風が止んで集合がかかった
璃 : "まだ誰と行くか決まってないんだよな〜"
また同じことを言われた時
風は吹いていないはずなのに
自然の風ではない風が
自分の中で吹いた気がした
璃花さんは重いかごをもって
俺にウインクをしてその場を去っていった
1週間後の当日
朝早く、暑さがまだ本気を出してない時間帯
顧 : よーしじゃあ全員集まったな〜
集合場所にはなぜか顧問までいた
こういうのって学生だけじゃないんだと思ったが
気にしないことにした
顧問からの話を終え解散となったとき
△ : おい〇〇!一緒に行こうぜ!
仲のいい△△や同期からの誘いがあったが
それらを断ってちょっと離れたところで
待機していた璃花さんの元へ向かった
〇 : ...璃花さん
璃 : なーに?
俯いていた顔を上げて
いつも通りの笑顔で出す璃花さん
〇 : ...一緒に回りませんか?
璃 : ...いいよ!
こうして璃花さんと回ることになった
ディズニーをより楽しむために
被り物を買うことにした
璃 : 〇〇くんどうかな?
買った被り物を被って聞いてくる
〇 : すごい...似合って...ます///
璃 : ふふっありがとう♪〇〇くんも似合ってるよ
璃花さんからの要望で
同じ被り物をすることになった
内心ドキドキしてるのを
できる限り出さないように頑張ってる
夏休みということもあって
長い行列を待って一つ乗り物に乗った
璃 : 楽しかったね!
〇 : はい!めっちゃ面白かったです!
この時には緊張も薄れて
いつも通り接することができた
また行列に並んで
もうすぐ自分たちの番が来そうなとき
璃 : ...
〇 : ...怖いですか?
さっきまでのテンションとは打って変わって
出番が近づいていくたびに緊張が伝わってくる
璃 : ...うん
〇 : あはは笑璃花さんって意外とビビりなんですね笑
意外な一面に笑ってると
それに怒ってか腕を軽く抓る先輩
〇 : いてて笑
璃 : むぅ...
頬を膨らませて拗ねた先輩は
より一層可愛かった
そして自分たちの出番が来た時
不安なことに一番前の席になってしまった
璃 : 怖いよぉ...
ゆっくりと発進して最初の山に近づいていく
登ると比例して先輩の体が震えていった
目を強く瞑って手すりを
これかというぐらい強く握っていた
璃 : うぅ...
山の山頂に着き
今から落ちるというとき
手すりに捕まる先輩の左手をとって
自分の右手で重ねて繋いだ
璃 : えっ///
〇 : ...少しでも...先輩が怖くないように///
そう言い放った瞬間
ジェットコースターが山を降り始めた
璃 : きゃぁぁぁぁ!!
絶叫が苦手ではなかった俺は
先輩と繋がった手にとてもドキドキしていた
先輩の悲鳴を隣でずっと受け続けていたのがようやく終わった
璃 : ごめんね?私うるさかったよね?
〇 : いやいや全然大丈夫ですよ
少し歩き始めたとき
お互い、まだ手を繋いでいることに気がついた
〇 : っ!///
俺は急いで手を離した
〇 : ご、ごめんなさい!///
璃 : ね、ねぇ...
普段の元気な姿からは考えられないぐらい
か細い声で話す璃花さん
璃 : まだ...繋いでちゃ...だめ?
繋いでいた左手を俺に差し出して
上目遣いで頼み込んでくる
〇 : っ!...いいですよ///
そういって差し出した右手は
また先輩の左手と繋がった
〇 : ...///
璃 : ...///
お互いに照れすぎて次の乗り物の列に向かうまでは無言だった
何度かすれ違った同じバスケ部の人からの視線に耐えながらその後も回っていた
そして帰る時間になったので
最初の集合場所に向かっていた
璃 : もう終わっちゃったね〜
〇 : 早かったですね
多分璃花さんもわかっている
俺もわかってる
だから今ここでやらないと
〇 : ...璃花さん
璃 : どうした?
〇 : ちょっと...寄り道しても...いいですか?
璃 : ...いいよっ♪
夜のシンデレラ城前
煌びやかな装飾が周りにあるなか
城の正面のベンチに座った
璃 : 楽しかったね〜
〇 : そう...ですね
璃 : たまにはこういうのもいいね
シンデレラ城を目の前にして
目をキラキラさせている璃花さん
〇 : ...璃花さん
会話の一瞬の沈黙を破って声をかける
ゆっくりと顔をこっちに向けて
いつも通りの笑顔を見してくれた
璃 : なーに?
〇 : ...今日一日...すごい楽しかったです
璃 : 私もすごい楽しかったよ
〇 : ...俺は...優しくて笑顔が素敵な...璃花さんが...好きです
璃 : 唐突だね笑
場を和まそうとしてくれているのか
俺の一言一言に笑って返事をくれる
〇 : ...璃花さん
"俺と...付き合ってください"
璃 : ...〇〇くん...こんな私だけど
"よろしくお願いします"
告白をして良い返事をもらって
今は立ちあがってお互いを抱きしめている
〇 : ...すごい嬉しいです
璃 : ...私もすごい嬉しい
お互いに顔を埋めているせいか
こもった声で賑やかなディズニーでは
とても聞き取りづらい
璃 : ...ごめんね
〇 : なんで謝るんですか笑
璃 : ...誘うのも...告白も...全部〇〇くんから...
璃 : ...私が...言い出したことなのに...
〇 : 俺はそんなネガティブな璃花さんを見たくないですよ
自分の腕の中で抱きしめている璃花さんを
より力を入れて喋れなくなるぐらいめりこませる
璃 : んーんー
〇 : 別にそんなこと気にしてないので、先輩も気にしなくていいですよ
腕の中で悶えて暴れる先輩の頭を撫でて
二の腕らへんをもってそっと離した
璃 : むぅ...///
顔は離れても
体は抱き合ったままなので
先輩の顔が至近距離にある
璃 : ...ありがとう
〇 : いいんですよ
先輩の背中に回していた手を前にもってきて
璃花さんの頬に手を当てて少し上に向かせた
〇 : "...好きだよ...璃花"
璃 : っ!
そしてそっと唇を重ねた
初めてのキスとため口
暑さがマシになってきた夜でも
二人の顔は真っ赤だった
唇を離し見つめ合うと
軽く微笑む〇〇
照れて顔を見られたくない璃花は
〇〇に抱きついて顔を胸に埋めた
璃 : もぉ〜...ばかぁ...///
〇 : 俺だって恥ずかしいんですからね笑
軽く胸をポコッと叩いた
〇 : いたっ笑
璃 : ...許さないから///
怒った璃花は顔を上げて
〇〇の頬を持って軽く背伸びをして
口づけをした
〇 : っ!///
璃 : ...あんま年上を舐めちゃだめだよ
何百人といるディズニー
誰にも邪魔をされず
暑い夜の一日
二人だけの大切な時間を過ごした
fin
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