暗殺者とファン 29話
桐 : "遠藤さんの警護から降ろしてください"
その一言に社長は黙り、部屋が静寂に包まれる
社 : ...どういうことかね
桐 : そのまんまの意味です。遠藤さんの警護を辞めたいんです
社 : ...
社長は後ろの窓から刺す光を眺めるように立った
社 : ...辞めたい理由はなんなんだ
桐 : ...
社 : 理由もなく受け入れると思うのかね
泣き止んだ私はずっと考えていた
どうして桐野が社長を探していたのか
どうして桐野の顔がなにかを決意したような表情なのか
気になった私は扉の閉まっている社長室の前で聞き耳をたてる
遠 : ...
桐 : ...私が...遠藤さんを殺そうとしているからです
遠 : !
社長室の中では今までの真実が語られている
社 : ...殺害予告は、君...ということだな
社長は衝撃の内容を告げられても冷静に話している
桐 : そうです
社 : ...そうか
桐 : ...今まで騙してしまい申し訳ないです
社 : ...榊くん
桐 : ...はい
遠 : ...
社 : 遠藤さくらの警護から解放します
桐 : ...ありがとうございます。では...
踵を返して部屋から出る桐野
社 : ...最後に一つだけ訊かせてくれないか
部屋の扉を少し開けたとき
桐 : ...なんですか
社 : ...なぜ君は殺さなかったんだ
桐 : ...
社 : すぐ近くにいたんだからいつでもやれただろ
桐野は扉に手をついたまま顔だけ後ろに向ける
桐 : ...殺さなかったんですよ...大好きな人を...
そう言い放ち部屋から出ていく
自分の荷物を持って乃木坂の事務所の扉前
桐 : ...
遠 : 待って!
自動扉が反応する前に呼び止める
桐 : ...
遠 : はぁはぁ...なんでなにも言わないで行っちゃうの...
さくらはものすごく疲れていた
肩で息している
桐 : ...さっきの会話...聞いてたんでしょ?
遠 : うん...ごめん...
桐 : 別にいいけど
遠 : ...私は良くないんだけどなぁ...
桐 : ...しょうがないだろ
遠 : ...なんで離れちゃうの...
桐 : ...
遠 : ...なんか言ってよ
桐 : ...俺が近くにいたら...さくらも...さくらの周りも...皆んないなくなるんだよ...
遠 : ...そんなこと...
桐 : 現にあの結果だろ
桐 : ...
遠 : ...
互いに体は向き合っているがさくらは俯いて沈黙の状態が続く
遠 : ...ほんとに...いっちゃうの...
桐 : ...うん...
遠 : ...そっか...
遠 : ...桐野
桐 : ...なに
遠 : ...私が...いなくなれば...皆んな...幸せだよね...
桐 : ...なに...いってんの
遠 : ...
さくらは俺の持っているバックを無理やり奪い取った
桐 : ちょっ...なにしてんの!
遠 : 来ないで!
奪い取ったバックに入っていた銃を自分の心臓に突きつける
桐 : は...なにして...
遠 : ...皆んなの...幸せのために...
桐 : やめろ!さくら!
銃を持つさくらの手は震え、足を震えている
遠 : 今まで...ありがとう...桐野
さくらはその言葉と共に
銃の引き金の部分に指を置いた
次回、最終回
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