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ベトナムのカントリーリスク | 諸官庁との手続き

先日、(ベトナムでの)行政訴訟を検討せざるを得ない顧客の代わりに、対応可能なベトナム人弁護士を探して動くことがありました。

※日本人など外国登録弁護士(外国法事務登録弁護士)と呼ばれる方々は訴訟の代理人にはなれません。

まず皆さん口を揃えて言うのは「(ベトナム国内訴訟では)思うような結果は出ない」ということでした。

背景


行政訴訟を検討せざるを得なくなった案件は、外資規制のある難易度の高いライセンスに関連しています。

このライセンスには資本要件人的要件施設要件事業内容要件などがいろいろとあり、3年以上手続きを行ってきてライセンス取得できず、その間にライセンスにかかる法令も変わってしまいました(私が関わったのは最近です)。

ライセンス発給は諸官庁がオーソリティなわけですから、ライセンスが取得できなかったことへの不服ではありません。

施設の建設施工(の完了)を諸官庁の担当者に要求され、機械設備の購入・設置も要求されたことによって費用が膨らんだことへの不服です。それも何度も設計変更を伴い、その都度、建設施工を行わねばなりませんでした。

物理的な区画を明確にするために法令の定めによって初期施工が必要となるケースや、「試験稼働」のプロセスがあるので施工が必要となるケースなどもありますが、この案件はそうではなく、諸官庁が施設の建設施工や機械設備の購入まで要求し、それがあたかもライセンス発給条件であるかのように企業側の認識を誤らせるべきではなかったというものです。

一般的に、施設要件を満たすには、覚書原則的合意、あるいは予約合意などの仮契約と設計図で事足ります。50年の使用権がある工業団地を本契約してしまった後にライセンスが発給されないとなったら大変ですし、契約解除条件が明記されていない賃貸借契約を結んでしまった場合(ベトナムではよくあります)、無駄な出費が出ることは明白です。

そもそも、ライセンスが発給されなければそこに至るまでの経費は(ライセンス発給後の)事業経費としては認められません。

詳しくは(顧客の)企業秘密に関係していくので割愛しますが、そんなこんなで諸官庁を相手にする訴訟を引き受けてくれる弁護士への対応をしました。

日本の弁護士とは違う


「思うような結果は出ない。でも、私もベトナムの現状について斉藤さんの所感と同じものを感じるので引き受けることは可能。」という弁護士の回答でした。

日本やアメリカのドラマでは、こういった熱意ある弁護士のイメージは珍しくありません。しかしベトナムは共産党一党支配で、司法も日本のような三権分立ではないので少々違います。

今まで100名以上のベトナム人弁護士と仕事をしてきましたが、弁護士自身が「ベトナムは共産党一党支配で、司法も日本のような三権分立ではない」という客観性も持っていることが非常にレアだと思います。

ベトナムのリアル


この弁護士はさらに言いました。

  • ベトナムは経済発展とともに人治から法治に移行していたが、今は人治に戻りつつある。

  • 諸官庁が理不尽なこと、違法行為と思われることをするときは、大抵、表に出せない何かがあり、その解決方法は法律ではないし、解決方法そのものがない可能性が高い。

  • 汚職・腐敗を摘発するため旧政権の役職者や国営企業・大手企業の贈収賄などを厳しく罰したところまでは良かったが、それによって諸官庁に勤める公務員の方々は「法令に(対する自らの解釈に)沿っていることを正しい」とするより「法令に明示されていること以外はやらない」となっている。

  • 中央省市の諸官庁の職員の離職率は民間企業の比ではないし、質が低下している。全て上司の判断に委ね、そのために必要なことを企業側に要求し、上司の方々も法令に明記されていること以外は判断せず先延ばしにし、そのうち担当者は離職し、日本企業のようにしっかり引継ぎも行わない。

  • 逆に、未発展の省市では旧態依然とした利権構造が残っているケースがあり、これはこれで従来通りの汚職・腐敗の問題がある。

  • 私はベトナム人だが、この国を憂いており、特に一党政治でどのように法治の「社会主義志向の市場経済(ドイモイ政策以降のベトナムのスローガンです)」を実現するのかわからない中で法の仕事に就いている。優秀な人はみな海外に流れていくし、又はある程度お金を稼いだら家族や身内のことにしか関心を持たない。

正直、日本人として考えさせられることだらけですが、それは置いておいて、ひと昔前にベトナムで感じた「今日より明日が悪くなることはない」というベトナム人のひた向きな成長パワーと言いますか、それとは異質なものを感じました。

依頼人の権利を守るべき弁護士ですが、ベトナムでは判例の歴史が浅く少なく、予定調和司法取引などは日常ですので、「処理しなければならない厄介な感情」も多いのだろうと思います。

諸官庁との手続き


「ベトナムのカントリーリスクは諸官庁との手続きである。」

ベトナムへの関心が高まった2006年以降、ずっと言われ続けていることですが、私の体感では、2019年初頭くらいまでは、年々利便性が高まっていた感じがしていましたし、諸官庁との業務であってもしっかりコミュニケーションしていけば「できないことはない」とまで感じていました。

コロナ禍となり、その後の今、以前とは全く違うと感じる「諸官庁の驚きの言動」に遭遇することが多いです。15年以上の経験でも今までにない初体験がほぼ毎月出てきます。

ざっくりネガティブで恐縮ですが、今後、これらはそう簡単に解決しないと思います。

  • いま、未来あるベトナムプロジェクトを検討されている企業様、省市のトップ営業を魅力に感じプロジェクト候補地として決定し、自社のプロジェクトは諸官庁手続きがうまく進むと信じている担当者様、そうかもしれませんが、そうでないかもしれません。一歩先まで考えていただき、日本語情報のみに惑わされることなく、早い段階でネガティブな側面を差し引いた意思決定をお勧めします。

  • ベトナム企業と協力関係を結び、合弁プロジェクト協力プロジェクトを推進している企業様、事業利益が出て一定期間後には、その先の方向性についてパートナーの考えとの相違が生じます(事業利益が出なければ相違は生じません)。万一、競合他社を準備されたとして、もし紛争にまで発展した場合、法的解決はあまりアテにならないかもしれません。

いずれにしても、ベトナムには魅力がありますし、ベトナム人にも魅力があります。私たち日本企業、日本人は引き込まれて行きます。しかし、ベトナム人から見た日本企業、日本人というものはどういうものでしょうか。それも、日本の地での日本企業、日本人ではありません。

技術移転を受けたら、ノウハウを知り得たら、資本を受けたら、顧客ネットワークに入り込めたら・・・あとは自分たちのやり方で自分たちの国で自分たちだけの事業体を作ってやっていきたいとは思われるリスクはないでしょうか?

そのとき、その状態からEXITするのはそう簡単ではありません。

譲渡可能な事業価値があったとしても法人は閉鎖しなければならないかもしれません。
閉鎖時は訴訟など片付いている必要がありますし、法人閉鎖・解散するにも依然は半年~1年で済んでいたところ、いま私が見ている案件では2年近くかかっているものもあります。理不尽な追徴税額付きで、それまでは銀行のキャッシュも日本に戻せません。

今日はベトナムのネガティブだらけで申し訳ありませんでした。

いま再燃していると私が感じている「ベトナムのカントリーリスクは諸官庁との手続きである」というお話でした。




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