私を救うための物語 2

「申し訳、ございません殿下」
しっかりしろ、私
最後ぐらい、迷惑をかけないで、消えないと
涙をぬぐう
自分を戒めるように、痛いぐらいに強く
「ステファニー・・・」
「ご安心ください、もう二度と殿下の前に現れることはありません
二度と」
「・・・」
「絶対です、絶対に、二度と・・・」
「・・・ステファニー、君に言いたいことがある」
聞きたくない
「わかっています、もう、殿下がおっしゃりたいことは
ですからおっしゃらないでください
もう二度と殿下を煩わせることはしませんから」
もうこれ以上聞きたくない
「ステファニー」
「どうかお願いです、言わないで、もう
わかっていますから
私はわかっていますから
殿下が私を、嫌っていることを、誰よりも嫌っていること
私はもうわかっていますから
だから
だからどうか」
「ステファニー、聞くんだ」
腕をつかまれた
「嫌!」
殿下が、転んだ
「あ・・・」
「くっ」
「・・・私、私なんてことを
申し訳ありません殿下
申し訳」
「話を聞いてくれ」
「それは嫌です!それは」
「ステファニー誤解している君は」
「いいえわかっています
殿下が私を嫌っていることは
わかっています
でももう、聞きたくないのです
もう、どうか、聞かせないで、私に」
「ステファニー、きちんと話を」
その時
殿下の後ろの茂みに、何かが見えた

人影
矢をつがえている人影

「ビンセント様!」

名前で呼んでしまった
でも申し訳ないと思う暇なんてない
殿下の後ろに私は駆け寄る

間に合え
間に合え

何か、冷たくて、熱くて、鋭い何かが、私の胸に刺さった

あ、矢じりだ
良かった

ビンセント様を守れた

「ステファニー?・・・ステファニー!!」

良かった
ご無事なのねビンセント様
良かった

「殿下、今の声は?」
お付きの方の声がする
「賊だ、とらえよ!ああ、それより、それより医者を、医者を」
ビンセント様のお声がする
抱きしめてくださっている、私を
ああ、うれしい
こんな死に方ができるなんて
ビンセント様の腕の中で死ねるなんて
「ビンセント様」
「しゃべるなステファニー、しゃべるな、大丈夫だ、君は大丈夫だから、だから」
どこまでも優しい方
ごめんなさい
顔も見たくないぐらい嫌いな私を、抱きしめさせてしまって
ごめんなさい
「ビンセント様」
「ステファニー」
手が勝手に動く
止められない
ビンセント様のお顔に触れたい
ごめんなさい
どうか許して
「ビンセント様」
そのお顔に触れた
熱い
泣いていらっしゃるの?
泣かないで、私なんかのために
今私は、すごく幸せなんですから
「ステファニー、ステファニー」
夢じゃない
私今、本当にビンセント様の腕の中にいるんだ
「好きです」
許してください
私の最後の迷惑を
「大好きです、ビンセント様」
「ステファニー」
ビンセント様のお声がする
私の名を呼んでくださるお声が

ああなんて
なんて幸せな死なんだろう

目の前がどんどん暗くなる
「ステファニー、ステファニー」
ビンセント様のお声も、どんどん、聞こえなくなる・・・

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