私を救うための物語 3

「お嬢様!目覚めたのですね!」
「・・・ここは?」
「お嬢様のお部屋です!ああ、今旦那様をお呼びします!」
あわただしく侍女が部屋を出ていく
ああ、私の部屋だ
私は確か、殿下を突き飛ばした後、矢をうたれて
・・・
痛い
胸が痛い
ああ、矢が当たったところは胸だったんだ
私、死ねなかったんだ
すごく、幸せな気持ちで死ねると思ったのに・・・
あれ?
私、何かすごいことを殿下に言ったような・・・
・・・
・・・
ああああああああああああああ
「あああああああああああああああああ」
恥ずかしい
恥ずかしい私なんてことを
なんて恥ずかしいことを
「ステファニー、しっかりしなさい、もう大丈夫だから、お前は助かったのだから」
「お、お父様」
「お前は助かったのだよ、ステファニー、安心しなさい」
違うそうじゃない
私は自分の言葉を思い出して恥ずかしのあまり声を上げてしまっただけ
でも言わないでおこう、恥ずかしすぎる
・・・待って
それより
そんなことより
「お父様!殿下は?殿下はどうなり・・・」
「ああ、殿下はご無事だよ、傷一つない、賊は護衛たちがとらえた
隣国の・・・いやそれはいい、そんなこと今のお前が知る必要はない
お前は10日も眠っていた
生死の境をさまよっていたのだよ」
「ご無事なのですね?殿下は、殿下は」
「ああ無事だ、安心しなさい」
良かった
殿下はご無事だったんだ
良かった
良かった
「ステファニー?おい、ステファニー?」
涙が止まらない
うれしくて
ほっとして

それから私は、医師の診察を受け、もう大丈夫だと言われた

そして再び、お父様から話を聞かされることになった

「殿下は、お前に・・・」
「え?殿下が、私に?」
不安が胸を覆う
あの時殿下は、私に何か言おうとなさっていた
私は、話を遮った
もう何も聞きたくなかった
どんな話か見当はつく
私は殿下に嫌われている
当然だわ、私はそれだけのことをした
殿下をお守りしたくて嘘をついた
長い間殿下を苦しめた
殿下は、私を見るのも嫌なぐらい嫌いなんだ
そんなことわかってる
でももう、殿下の口から聞きたくない
もう、聞きたくない
「殿下は・・・ステファニー?おい、ステファニー」
「・・・聞きたくありません、お父様、その話はもう」
「お前は何か考え違い・・・いややめよう、私の口から言うのは」
「?ありがとうございます・・・あ」
「?どうした?」
「私、辺境伯に嫁がないといけない、ああ、どうしましょうお父様」
「その話ならもう消えた」
「え?」
「お前と辺境伯の結婚は取りやめになった」
「ええ?」
「お前は、辺境伯に嫁がなくてもいいんだよステファニー」
「・・・」
「ステファニー?」
嫁がなくていい?
そんな
では私は?
私の運命は?
原作小説では、私は、主人公に薬を盛ろうとして逆に・・・
「ステファニー?どうしたんだ?」
「お父様、私、私、それでは困ります、私、嫁がないと」
このままでは私は、家畜同然の存在にされる、きっと
逃げないと
嫁がないと
「私、私嫁がないと」
「辺境伯との婚姻は王命によって取り消されたのだよ、ステファニー」
王命
ああ
私は小説の強制力から・・・
嫌だ
私は人間だ
人間でいたい
畜生同然の存在になんかなりたくない
おぞましい男のおもちゃになど・・・
「死にたい・・・」
「え?今なんて言った?」
「あ・・・」
「今なんて言ったんだステファニー」
「・・・」
お父様が私を睨む
「・・・」
「・・・」
ごめんなさいお父様
でも私は、人間でいたい
獣のような存在にされたくない
そうなるぐらいなら、死にたい
・・・
あのまま死ねたらよかったのに
殿下の、ビンセント様の腕の中で、あのまま死ねたら
「・・・安心しなさい、お前には新しい嫁ぎ先がある」
「え?」
「これも王命だ、拒否権はない、お前はその方のもとに嫁がねばならない
これは決定事項だ」
王命
王命
小説の中で私を獣に変えたあの薬
あれを私に飲ませた騎士団長の姿を思い出す
そう命じた王の姿も・・・
「・・・お前はさっきからなにか考え違いを・・・いや、私からは言うまい
ステファニー
お前に会いたいと言う方がいる」
「・・・私に?」
「そうだ、お前に会いたい方が、その方はずっと、お前の身を案じておられた
何度も何度も、お前に会いに来られた方だ」
「・・・誰ですか?」
「もうすぐ着くはずだ、いろいろ詳しいことを、その方から聞くといい」
「またお医者様ですか?」
「ははは」
「お父様?」
「いや、もうすぐわかる」
「?」
「旦那様」
「ん?もう到着されたのか?」
「はい、ただいま到着なさいました」
「そうか、すぐ行く」
「お父様?」
「待ってなさいステファニー、今到着されたそうだ」
「どなたなのです?」
「すぐわかる、待ってなさい」
そう言ってお父様はあわただしく部屋を出ていかれた
私は、ベッドに体を横たえた
お客様が誰なのか
すぐわかるそうだけど
それより私は、さっきの言葉を思い出す
王命
これからの私の運命・・・
「ステファニー、さあ、お客様にご挨拶しなさい」
お父様が部屋に戻ってきてそうおっしゃった
「お客様は」
「ほら、あちらだ」
そう言って父は、ドアの方を向いた
私もそっちを見た
「やあ・・・ステファニー」
ビンセント様が、いた


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?