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第235回、T刑事の奇妙な取り調べ事件簿 その10 lolita sad story


長年刑事を続けていると、様々なやるせない事件に遭遇をする物だが、今回の事件程、やるせない思いのつのる事件はなかった。

容疑者は20代前半の小学教師で、教え子である10歳の少女の家へと侵入し、片親家庭である少女の父親を殺害後、少女を自宅に監禁した容疑で逮捕されたのだ。
容疑者は小児性愛者で、少女への身体的行為があった事も確認されていた。

この残酷卑劣な事件は、連日テレビでも報道され、容疑者のこれまでの人生経緯や家庭環境に至るまで、事細かく特集される事となった。
ネットでは一般の人達の罵声が飛び交い、容疑者の実家や家族全員の氏名を調べ上げ、公開処刑もされていた。
日本人の誰もが、この擁護のしようのない残忍な犯罪者を、揺るがぬ正義の思いの元、自信を持って断罪したのだ。

T刑事「少女をあなたの家から保護した以上、あなたが教え子の少女を自分の家に連れ込んだのは、間違い様のない事実です。

ですが少女の父親を殺害した事に関しては、幾つか不明な点もあるのです。あなたが犯行に用いたとされる包丁ですが、検死の結果、直接の死因ではない事がわかりました。恐らく包丁は父親が死亡をした後に、刺された物なのだと思われます。
あなたは誰か別の人物をかばって、罪を被っているのではないですか?

しかし容疑者は、自分が少女の父親を殺害した事を主張し続けるのだった。

容疑者「刑事さん、私はいわゆる小児性愛者です。自分の教え子である10歳の彼女の事を本気で好きになり、私は彼女の事を独占したいが為に、彼女の父親を殺害して、彼女を自分の家に監禁したんです」

T刑事「あなたが小児性愛者なのは、家宅捜査の調べでわかっています。
彼女への身体的な接触行為があった事も、確認が取れています。
ですが彼女の身体には、それとは関係のない、もっと以前から性的な行為を受けていた痕跡があるのです。それに彼女の腕には自傷行為の跡もあった。
はっきり言いますが、彼女は自分の父親に、性的な虐待を受けていたのではないですか?さらに言えば、父親を殺害したのは、恐らくは彼女の方です。
あなたは自分の父親を殺してしまった彼女をかばい、自分に罪を被せているのではないですか?」

それでも容疑者は、自分が殺害した事を主張して、意見を曲げなかった。
それはどんな容疑者も自供させて来たT刑事にとって、初めての事だった。

T刑事「先程彼女の所持品から、今回の事件の直接の死因と思われる、小型のナイフが発見されました。現場に残されていた包丁は、あなたが容疑を自分に向けさせる為のフェイクなのですよね。その小型ナイフは、彼女が普段から自傷をする際に用いていた物です。そのナイフの刃型と、父親の死因となっている背中の傷口が一致すれば、どの道真実は明るみになります」

それを聞いて容疑者は観念したようで、それまで硬く閉ざしていた口を開き事件の経緯を話し出した。
容疑者が少女の家へ行った時には、少女が既に父親を刺し殺した後であり、容疑者が少女の罪を被る為に、後から包丁で父親を刺し、少女を自分の自宅へと連れ帰った事を、そこで少女が自分に好意を寄せている事を知っていた容疑者が、少女の求めるままに、初めて少女と身体的な関係を持った事を。

容疑者「刑事さん、どんなに綺麗ごとを述べた所で、彼女と身体的な関りを持つ事が、決して許される事でないのはわかっています。
それでもあの時、私は彼女の要求に応える事しか出来ませんでした。
そうする事でしか、彼女の今にも壊れて消えてしまいそうなズタズタな心を繋ぎとめる事が出来なかったのです。
あなたはそれを、しょせんは小児性愛者の口実としか思わないでしょうね。
実際の所、そうだったのかもしれません。
結局は自分も彼女の父親と同じで、ただ彼女の事を性的な欲望の対象として見ていただけだったのかもしれません‥」

T刑事「私も年頃の娘を持つ父親として、あなたのした事はどの様な理由であれ、許せる気になれません。それは彼女の父親に対してもです。
あなたが小児性愛者でなければ、別の形で彼女を救う事が出来たはずですしあなたは、教師になるべき人間ではなかったのかもしれません。

ですがこんな事は刑事として、娘を持つ親として絶対に言うべき事ではないのだと思うのですが、彼女にとってはあなたの存在が、あなたとの関りが、彼女の父親と同じ物であったのだとは、私には到底思えないのです。

世界中の誰一人として、あなたを擁護する人物はいないかもしれません。
ですがもし本当に彼女があなたに愛情を求めていて、あなたがそれに応えた結果ならば、あなただけはそれを自分で貶めてはいけないのだと思います。
それは他でもない、彼女の唯一の心のより所を、失わせる事なのだから。


その後、父親を殺した犯人が、娘の少女であった事が警察から発表されるとマスコミは一斉に彼女の家庭環境の特集を組み、性的虐待をしていた父親を叩き始めた。
殺人の容疑がはれた容疑者も世間は決して許す事なく、少女の父親と同様に共に許す事の出来ない犯罪者として、断罪を行い続けていた。

その誰もが少女の心の内に関心を示す事はなく、二人の小児性愛者を決して存在してはならない者として、揺るがぬ思いで裁き続けるのだった。


幽霊少女「T君が、あの教師の気持ちに理解を示すなんて以外ね。てっきり私は、T君は教師の事を絶対に許さないと思ったんだけれども」

T刑事「自分も言っていて少し驚いているよ。俺達刑事は、法の元に善悪を判断して、人を逮捕している。法的に許されない事は、例えどの様な事情があっても、それを許す事があってはいけないんだ。
だが法が必ずしも人の心を救う物とは限らないのも事実なのかもしれない。
少なくとも彼女の心を救ったのは、法律的に決して許される事のない、あの教師の彼女への思いだったのだと、信じたい気持ちがあるのかもしれない。
自分はどこか、倫理の概念がおかしくなってしまっているのだろうかな‥」

幽霊少女「まあ私の姉と、私達姉妹を誘拐した青年も、今回の二人と大差のない年齢だし、私はこの二人の事を、それ程異常な関係とは、思っていないけどね。 少なくとも、私の今の恋心なんかに比べたら、全然‥」

T刑事「よく聞こえんかったんだが、何か言ったか?」

幽霊少女「何でもないわよ。早くあなたの愛する妻と娘の元へ帰りましょ」

10数年後、少女と元教師の二人は、人目を避けるようにして結婚をしたが、それを祝福する者はいなく、あいかわらず世間は二人の関係を責め続けた。
ただ自分達の信じる正義の心に従って、社会の倫理から外れる幸せは、絶対あってはならないのだという思いのみで、その行動に疑いを抱く事もなく。
それはもう正義と言える物ではない事に、誰一人気が付く事のないままに。

未成年者への性的行為は法的な犯罪であり、この物語は、未成年者への
性的行為を推奨する物ではありません。

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