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第233回、T刑事の奇妙な取り調べ事件簿 その8 インフィニティー・ワールド


長年刑事を続けていると、様々な容疑者に会う物だが、今T刑事の目の前にいる相手程、イカれた話をする人物はいなかった。

容疑者「だから刑事さん、あなたに何度話しても理解をする事が出来ないと言ったんですよ。でもいいでしょう、あなたが理解を出来るまで、何度でも話してあげますよ」

容疑者は、面識のある若い女性を殺した容疑で取り調べを受けていたのだが犯行自体はすぐに自供をしていた。だが理解の出来ないのが、その犯行理由だった。容疑者の話している事が意味不明すぎて、T刑事には何度聞いても全く理解する事が出来なかったのだ」

容疑者「刑事さん、いいですか?この世界は、実はデータだけで構築された仮想世界なんだ。
しかも世界は一つだけじゃない。可能性の分だけ、世界が無限に存在する。
ここは仮想の世界が無限に広がる、インフィニティー・ワールドなんだ。
ちなみに自分達がいるこの世界は、八番目の世界にあたる」

T刑事「無限にある世界なのに一桁台なんですね‥ それでその、仮想世界と言うと、あれですか? マトリックスみたいな‥」

容疑者「はあ、これだよ。仮想世界と聞くと、素人はすぐにマトリックスを思い浮かべるんだ。 あんなのは、子供だましのSFだ。
いいかい、本物の仮想世界は、空なんて飛べやしない。念じただけで拳銃の弾を止める事も出来ないし、透過する事も、高速で動く事も出来ないんだ。
物理法則に反する事は一切出来ない、完璧な法則の上に成り立っている。
それがこの完璧な仮想世界、インフィニティー・ワールドなんだ」

T刑事「と言うと、仮想世界のここは、現実の世界と何が違うんですか?」

容疑者「だから何も違わないんだよっ。本当に理解力のない刑事さんだな」

T刑事「頭が悪い物ですみません。何度も聞く様で申し訳がないのですが、それであなたは、なぜ被害者の女性を殺したのですか?」

容疑者「だから、この世界が仮想世界だからだよ。どんなにリアルに出来ていたって、ここは仮想世界の中なんだ。彼女だって本当に生きている訳ではない。それは刑事さんも自分も同じ事だ。生きていない人間が生きていない人間を殺すのに、なぜも何も、理由なんて必要がないだろう?」


T刑事はそれまでの雰囲気とは異なり、両手を組んで容疑者に向けて冷静な口調で話し始めた。

T刑事「この世界の事を何も分かっていないのは、あなたの方ですよ。
あなたは先程この世界が現実と何も違わないと言いましたね。それならなぜ命だけが現実と違うと思うんですか?
この仮想世界はそんなちゃちな物ではない。完璧な物理法則に従って構成をされている様に、命もまた、現実と同じ法則で構成をされているんですよ。
あなたこそこの世界を、どっかのSF程度のレベルでしか、見られていないのではないですか?」

容疑者「あんたは何を言って‥ いや、あなたは一体、何者なんだ!?」

T刑事「多少なりともあなたはこの世界の真実に近づく事が出来た人間だ。いいでしょう、特別に教えてあげましょう。
世の中には、あなたの様に世界の真実に気が付いてしまう人が僅かばかりにいる。私はいや私達は、そんな人間を監視して、真実に気が付く事が出来た人だけを、特別に次の次元の世界へと案内する役割を担っているのです。

だがあなたは、真実への理解にはまだ及んでいないようだ。残念だが、今のあなたを次の次元の世界へと案内する事は出来ない。
この世界で罪を償って、本当に改心する事が出来たら、その時にまた考える事にしよう。ああそれから次の世界へと行きたかったら、仮想世界の事は、他の人間には、一切口外はなしだぞ」

容疑者「T刑事‥ いや、トリニティ刑事っ」

容疑者は、T刑事に訳の分からないあだ名を付けると、それ以降、仮想世界の事は一切に口にする事なく、裁判でも罪を認めて刑を素直に受け入れた。


同僚の刑事「それにしてもT刑事って、そっち系の人だったんですね。少し意外でしたよ」

T刑事「いやこの間、娘と一緒に見たアニメが、そんな作品だったんでな。自分は何の事だかさっぱりだったが、そのアニメを少し真似してみたんだ。
それにしても今の子供達は、あんなに難しい内容の物を見ているんだな。
自分には何が何だか、さっぱり理解が出来なかったよ」

同僚の刑事「でも世界って案外、そういう物なのかもしれないですよ。
もしかしたら自分達は、誰かの創作世界の登場人物で、創造主が書いた脚本に従って、役を演じているだけなのかも知れないですしね」

T刑事「おいおいこれ以上、訳の分からない話をするのはやめてくれよ。
自分は、SFやオカルトの類は、興味がないし信じていないんだ」

T刑事はそう言うと同僚と別れて、妻と娘の待つ自宅へと帰るのだった。


幽霊少女「私という幽霊の相棒がいるのに、オカルトを信じていないなんて随分な言いようね」

T刑事「仕方がないだろ。お前の事は、誰にも秘密なんだから。幽霊の相棒を持つ刑事なんて、怪しすぎるだろ。しかも9歳の少女の幽霊だなんてな」

幽霊少女「何よ、私のおかげで、どれだけの難事件を解決して来たと思っているのよ?「T刑事と幽霊少女の事件簿」て作品が出来てもいい位なのよ」

T刑事「お前まで訳の分からない事を‥ お前はこの間、俺の相棒になったばかりだろうが」

この時の二人にはまだ、数十年前にこの街で起きた、幽霊少女の双子の姉の死の真相に迫る、双子姉妹 誘拐未解決事件の解明に繋がる事件に遭遇する事になる等、知る由もなかったのである。

今回、狙い通りの画像が生成出来なかったので、前回の未使用画像から選択をしたのですが、
結果的に、この画像が一番、容疑者のイメージに合っていた気がします。

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