第281回、日本T災害対策極秘計画
今、政府の人間、いやそれを超越する存在の裏政府の人間が、とある一人の青年をスカウトする為に面談に来ていた。
「君の大学での論文を見させてもらったよ。君は優性思想者だそうだね。
君は世界でも指折りなとても優秀な人なのに、その論文のせいで問題になり何処にも就職を出来なかったそうじゃないか。まあ当然の事だ、今どき優性思想を持つ人間等、普通に考えて危険人物以外の何物でもないのだからな。
いや私は別に、君を批判している訳ではない。
我々はそんな君だからこそ、わざわざこうしてスカウトをしに来たのだよ。我々裏政府による、日本災害対策極秘計画立案支部にね。
君は先の世界大戦後の日本が、なぜあれ程までに急激な復興と、経済成長を遂げられたと思うかね。
一般的には、日本国民全員が一致団結をして、日本を立て直そうと頑張ったからという風に思われているが、それは半分正解で、半分間違いでもある。
いや間違いというより、重要な部分から目をそらしていると言うべきか。
戦後の日本が、あれ程までに急激な復興を遂げられた一番の理由。
それは、戦争により日本の主要都市が焼け野原となり、全てが一度リセットされたからなんだ。
新たに建物を立て様とする際に、なまじ以前の建築が残っていると、色々とやっかいな事が起きてしまう。自分達で建物を破壊しようとすると、以前の建物に愛着のある人達から反感を買う事になるし、かといって以前の建物を残したまま新たな建築をしようとすると、古い建物が色々と邪魔になる。
過去のしがらみのない新たな建物を立てる為には、それまで建っていた物を一度全て破壊して、土地をまっさらな更地にする必要があるんだ。
戦争によって得られる利益は、何も戦勝国だけにある訳ではない。
敗戦国にとっても、自国の更地化が行われるというメリットがあるんだ。
とはいえ近代において、これから日本に戦争が起こる事はそうそうない。
しかし日本には古より戦争が起きずとも、古い社会を定期的に破壊をして、ゼロの状態にリセットする、自然の浄化システムが備わっているんだ。
もうお分かりかと思われるが、それが地震と噴火による自然災害なんだよ。
日本は度重なる地震と噴火によって、国の更地化、リセット行為が行われ、それにより、定期的に国を一からやり直す機会が与えられるんだ。
いわば日本は、破壊と再生の運命が、予め組み込まれている国なのだよ。
そして日本はそう遠くない内に、関東大震災と富士山の噴火という二大災害によって、再び大きな国のリセット状態に見舞われる事になる。
私達裏政府は、この来るべき国の浄化作用に備えて、遥以前から災害対策の計画を立案して来ているのだ。
それが災害と共に滅ぶ人間と生き残る人間を選別して、生き残るべき人間に選別された人達により、災害後に新たな日本を再生する「ノアの箱舟計画」通称、N計画なのだ。
私達はまもなく起きるであろう、大災害という自然の浄化作用を利用して、経済が停滞したままの古い日本をリセットさせて、災害後に新たな日本国に生まれ変わらせる為の準備を密かに進めているのだ。
だが当然この事は、政治家を含めたどの国民にも、一切知らせていない。我々は、このN計画の存在を、絶対に世間に知られる訳にはいかないのだ。
所で勘のいい君の事だから、気づいていると思うが、この日本再生計画には生き残る人間を選別する、N計画だけでは完全とは言えないのだ。
災害に乗じて、〇んでもらう人達も選出をしなければならない。
ここでは皆まで口に出せないが、〇〇者や〇ー〇等がその対象に含まれる。
だがいくら裏の存在とはいえ、政府があからさまに国民を〇す計画を立てる訳にもいかない。そこで一見、災害時に国民全員を救う普通の災害計画案のようでいて、災害時に確実に特定の人間達を〇す事の出来るプランを、ぜひ君には立てて貰いたいと思っているのだ。
私達はそれを、通称T計画と呼んでいる。
Tはなんの略なのかって? タイタニックの事に決まっているじゃないか。
タイタニックのように、一見すると絶対に沈まない安全な船でありながら、その実災害時には、一部の人を除いて確実に大勢の人ごと海に沈むような
船の設計を君には頼みたいのだ。もちろん船と言うのは、比喩表現だがね。
普通の人間なら恐ろしくて、考える事も出来ないだろうが、優性思想を持つ君なら、むしろ望んでやってくれると思ってね。
実の所、この話を聞いた以上、君に選択権はないのだがね。
君にはこの計画に協力をするか、この場で〇んでもらうかの二択しかない。
我々としても優秀な君をわざわざ〇す事はしたくはないし、脅迫をする様な言い方はしたくないのだが、どうだろうか?我々にぜひ協力をしてくれないだろうか?」
「随分とえらく長い説明をしてくれたが、答えはもちろんイエスだ。自分としても願ったり叶ったりな話だ。早速今日から計画を始めさせて貰うよ。
何しろ来るべき災害の日、X-DAYは、いつ起きてもおかしくないんだ」
「ふふ、さすがは私の見込んだ男、頼もしい限りだ。所で、君の事を疑っている訳ではないが、内容が内容なだけに、君にはこれからその来る日まで、私達の施設に、身柄を拘束させて貰うよ。
もちろんそれ相応の待遇は、させて貰うつもりだがね」
「もちろんさ、泊まり込みで仕事が出来るなんてありがたい位さ。もちろん一流ホテル並みの待遇は期待をさせて貰うけどね」
全ては青年の狙い通りに事は進んでいた。
青年は裏政府にスカウトされて、この日本災害対策極秘計画に参加する為にこれまでの人生を生きて来たのだ。普通の人生を棒に振るのを覚悟してまで大学でわざわざ優性思想の論文を書いて、問題になったのもその為だった。
彼はそうしてまで、何としてもこの計画に参加をしたかったのだ。
全ては、来る日に生き残る日本人を選別する、T計画を作成する為に。
世間には完璧な災害対策プランと思わせて、その実生き残る人と〇ぬ人々を選別する、優性思想に基づく極秘の災害対策プランを作成する為なのだ。
そう裏政府には思わせて、その実全ての日本人を災害から救い出す、完璧な災害対策プランを作成して、来る災害の際にそのプランを実行する為に。
政府と裏政府の全ての人間を騙す、シン・災害対策プランを、青年は只一人いや一人のAIと共に、実行する事を強く心に決意していた。
「さあアイ、始めようか」
そうつぶやいた青年のパソコン画面には、幼い少女のAIキャラクターの姿が浮かび上がり、画面の向こう側から青年に向けて静かに微笑んでいた。
※この物語は新年の能登半島地震以前に考えていた物であり、震災によって被災した方や亡くなられた方、戦争により亡くなられた方達を愚弄する意図は全くありませんが、そう受け取られる文面が含まれる為、内容的に不愉快に思われる方がおられましたら、配慮不足である事をお詫び致します。
尺の都合でカットしてしまいましたが、裏政府の日本災害対策極秘計画は、その立ち上げに青年の父親が関わっていて、裏政府を裏切って優性思想計画を阻止しようとしていた父親の意思を密かに継いでいるという、刑事ドラマ「アンフェア」の真似事みたいな裏設定があった事も告知をしておきます。
(そんな設定裏話、どうでもいいわっ)
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